グレース・オブ・モナコ:ダアン監督に聞く キッドマンの「スピーチ場面の表情に注目してほしい」

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 グレース・ケリーさんがハリウッド女優からモナコ公妃に華麗なる転身をしたのちの危機を描いた「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」が18日に公開された。グレースさんに扮(ふん)するのは、「めぐりあう時間たち」(2002年)などのニコール・キッドマンさん。「エディット・ピアフ~愛の讃歌」(07年)のオリビエ・ダアン監督の最新作だ。プリンセスストーリーの裏側の世界、女優の道を捨てて妻となった一人の女性の生きざまを見せていく。ダアン監督は「プリンセスということに惑わされないで。これは、妻となった女性の物語です」と話す。

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 ◇仕事と家庭の間で悩む一人の女性像として

 「喝采」(1954年)で米アカデミー主演女優賞を受賞したグレース・ケリーさんは、人気絶頂だった56年、モナコ公国の大公レーニエ3世と結婚し、女優業を引退した。

 映画は結婚の6年後から始まる。グレース・ケリー(キッドマンさん)は、いまだに宮殿で浮いていた。自分の意見をはっきり言うグレースは周囲から「米国流」だと皮肉られ、夫のレーニエ3世(ティム・ロスさん)とも口論になってしまう。アルフレッド・ヒッチコック監督からハリウッド復帰を誘われる中、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領がモナコに課税を強要するという政治的なピンチが降りかかり、公妃としてグレースがどういう選択をしていくのか……というストーリー。ダアン監督は「これは夫婦についての映画だ」と語る。

 「夫婦がうまく機能するために犠牲を払うのは、いつも女性側ですよね。映画はプリンセスの話ですが、家庭と仕事の間で悩む姿は、一般の女性と同じだと思います」

 米国から遠く異国の地で、ヒッチコック映画の出演オファーに心揺れるグレース。夫は政治のことで頭がいっぱい。グレースが頼れるのは神父さん(フランク・ランジェラさん)だけ。青い海と空が輝く明るい場所で、グレースの孤独が影を落とす。陰影を強調した映像がドラマチックだ。「グレースさんのモナコでの生活はあまり幸せではなかったのではと想像しました」とダアン監督。

 「彼女はこれまでのキャリアを捨てて、アーティストになる道をあきらめなくてはならなかったのですから、僕には幸せに満ちていたとは思えませんでした。そのせいで、この映画がモナコ王室と軋轢(あつれき)を生んでしまいましたが……。でも、おとぎ話には代償がついてくるのが現実。おとぎ話の裏側を描きたかったのです」

 脚本を書いたのは、アクション大作「陰謀のスプレマシー」(12年)のアラッシュ・アメルさん。ダアン監督は脚本を読んで、あらゆる資料を読みつくし、グレースさんの心理を想像したという。

 「オフィシャルな本からモナコが認めなかった本、ハリウッドでのグレースさんの知人の証言も含めてたくさんの出版物を読みました。それらによると、結婚後もときどきは映画に出てもいいという了解もあったようなのです。映画は彼女の長い人生の中のほんの1年間のストーリー。夫婦仲を取り戻したいがハリウッドに戻りたいとも思っている、とても複雑な心境にスポットを当てました」

 ◇ヒッチコック映画に戻りたかったグレースへのオマージュ

 今作では、グレースさんの代表作であるヒッチコック監督の「ダイヤルMを廻せ!」と「裏窓」の演出を取り入れて、ミステリアスなカメラワークも使った。

 「監督として、グレースさんをヒッチコック映画の中にもう一度戻してあげたかったんです。ヒッチコック映画へのオマージュといわれるけど、そうではなく、ヒッチコック映画に戻りたかったグレースさんへのオマージュのつもりです」

 劇中、ヒッチコック映画に戻る夢をあきらめたグレースは、気持ちを切り替えて、新たな“役作り”に挑む。それは完璧な公妃になるための大芝居だった。課税徴収に従わなければ、モナコがフランス領にされるかも……という国家存亡の危機が迫る中、ド・ゴール大統領をはじめ各国の指導者を招いた舞台で、運命のスピーチが始まる……。

 「このスピーチのシーンでは、ぜひキッドマンさんの表情に注目してほしいです。キッドマンさんは撮影前にグレースさんの話し方や振る舞い方を入念にリサーチしてきてくれて、内面から表現してくれました」

 前作「エディット・ピアフ~愛の讃歌」では、伝説のシャンソン歌手の人生に迫った。いま“実在の女性シリーズ”として第3弾を考えているとか。

 「まだ、誰を撮るかは僕自身にも分かっていませんが(笑い)。実在の人物を語るのに大切なのは、フィクションを織り交ぜながら、その人物がどういう人物であったかを誠実に描くこと。僕はグレースさんはとてもポジティブな人物だと思ったんです。だから彼女が危機に対して積極的に闘おうとしているところを見せたかった。ポジティブであるということは、僕にとって最も女性らしいということなんですよ」

 なお、今作は豪華な衣装や宝石も見ものだ。モナコ公国の同意のもとカルティエのアトリエで完璧に複製されたジュエリーや、クリスチャン・ディオールの衣装、エルメスのスカーフやケリーバッグ、スワロフスキーのクリスタルをちりばめたドレスなどが提供された。

 出演は、キッドマンさん、ロスさん、ランジェラさんほか、パス・ベガさん、アンドレ・ペンブルンさん、ロジャー・アシュトングリフィスさんら。18日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほかで公開。

 <プロフィル>

 1967年生まれ、フランス出身。マルセイユの美術学校で絵画を学んだ後、ミュージックビデオなどを手掛ける。監督作として、イザベル・ユペールさん主演の「いつか、きっと」(2002年)、リュック・ベッソンさん脚本の「クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち」(04年)、主演のマリオン・コティヤールさんが米アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞に輝き、自身もセザール賞にノミネートされた「エディット・ピアフ~愛の讃歌」(07年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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