一つの家族を4人の俳優が12年にわたって演じた映画「6才のボクが、大人になるまで。」が14日から全国で公開される。毎年、数日間撮影し、その間、リチャード・リンクレイター監督が脚本を書き、それを144カ月続けたという野心作だ。今年2月に開催されたベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)に輝いている。
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6歳の少年メイソンは、女手一つで自分と姉サマンサを育てる母がキャリアアップのために大学行きを決めたことで、祖母がいるヒューストンに引っ越すことになる。その後、アラスカから戻った父と再会、母の再婚や義父の暴力、父の再婚など目まぐるしく変わる環境の中で、メイソン自身も思春期や初恋を体験し、やがて大人になっていく……というストーリー。
メイソンとその家族の12年間。映っているのは彼らの人生の断片に過ぎないが、それをつなげたことで思い出がたっぷり詰まった壮大な叙事詩となった。メイソンを演じたのは、リンクレイター監督がオーディションで見いだしたというエラー・コルトレーンさん。姉サマンサにリンクレイター監督の実娘ローレライ・リンクレイターさんが扮(ふん)しているほか、母オリビアをパトリシア・アークエットさんが、オリビアの元夫でメイソンとサマンサの父メイソンSr.をイーサン・ホークさんが演じている。
上映中の2時間45分の間、しばしば不思議な感覚に陥った。小道具は、撮影当時、実際にそこにあったものだし、6歳のメイソンも18歳のメイソンも、演じているのは同じ人物だ。つまりここには12年にわたる“本物の時間”が流れている。だからこそ、そのときどきの4人のお芝居に演技を超えたものを感じ、18歳のメイソンを見たときは感慨深く、それこそ息子の“巣立ち”に涙したオリビアの気持ちが痛いほど理解できた。キャストの途中降板もありえたはずだ。にもかかわらず、リンクレイター監督をはじめ俳優たちの無謀ともいえる12年間のチャレンジに感服せずにいられない。とりわけ体形の変化をものともせず、やがて自立した女性へと生まれ変わる母を演じ切ったアークエットさんの女優魂にはあっぱれだ。14日からTOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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