ハリウッドの人気俳優ブラッド・ピットさんが製作総指揮と主演を務めた戦争映画「フューリー」(デビッド・エアー監督)が全国で公開中だ。1945年4月、第二次世界大戦末期のドイツを舞台に、最後の抵抗をする300人の精鋭部隊のドイツ軍に、“フューリー=激しい怒り”と名付けられた戦車で立ち向かった米軍兵士5人の必死の攻防を描いている。最新作についてエアー監督に聞いた。
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−−なぜ今、この作品を製作しようと思ったのでしょうか。
人間というものは最悪な状況に置かれても生き延びることができる、ということを見せたかった。この映画で戦争のむごたらしさについて取り組みたかった。むごたらしい状況の中でさえ見いだせる人間性に目を向けたかった。映画などで第二次世界大戦を描く場合、神格化されたり美化されたり、または白黒はっきり一面的に描かれがちだ。戦場にいる兵士にとって戦争はそんなに単純ではないと思う。寒さ、疲労、空腹といったつらさはすべての兵士が直面する共通の現実なんだ。
−−どのようなことを考えてこのストーリーを作り上げたのでしょうか。
ある意味、とてもシンプルなストーリーで、基本的なものだが、戦車の中で運命を共にする仲間についての物語だ。そしてまた戦争において育まれた絆、兄弟愛、友情の深さ、仲間意識がいかに展開していくかということについての作品となっている。これは過酷な状況下にある一家になぞらえることができる。しかも戦争という、想像を絶する凄惨(せいさん)な状況である。
戦争は人を狂わせるが、“家族”の輪の中ではその狂気がさらにむき出しになる。よくイースター(感謝祭)で食卓に集まる一家がけんかになったりしておかしなことになることが多いが、この戦場はその感謝祭のディナーの極限の状態と考えてくれるといい。しかも舞台は戦車内という密室。これはそういう“家族”の話でもあるけれど、同時にとある青年の成長物語でもある。ローガン・ラーマンが演じる青年が、疲弊し切ったよれよれの“家族”の仲間入りをし、皆に認められなければならない。この青年の厳格な父親的な存在になるのがブラッド・ピット。青年が生き残れるようにその美しい心と喜びと無垢(むく)をむしり取り、彼を軍人にしていく。愛情と気遣いと敬意あってのムチであることがよく分かるからとても面白い関係性だし、美しくも悲惨なストーリーなんだ。
−−リアルに体験できる映画を作るために考えたことは?
ビジュアル的に美しく、眺めていればいいという程度の映画に終わらせるつもりはなかった。もちろん視覚的にも観客を引き込むものにしたかったが、それだけでなく、登場人物の精神世界にも引き込みたかった。この映画には真実が宿っている。映画に真実が宿ると、観客は自ら戦場を経験していなくともリアルな体験として感じ取り、吸収することができる。
キャストの皆さんも戦場で実際に戦った男たちに対して敬意を持って取り組んでくれたし、彼らの経験についてできるだけ多くを学ぼうと懸命に取り組んでくれた。彼らには退役軍人達に実際に会ってもらい、軍人達の思考と精神に入り込んでもらうことで、戦場で男達が経験してきた歴史、トラウマ、喜び、喪失をしっかり表現できるように備えてもらった。迫り来る体験ができる映画にするには、映像的にも忠実性を心がけ、キャストからも誠実な芝居を引き出さなければならない。
−−本物の戦車を使ったりした、撮影でのこだわりについて教えてください。
視覚的に本物を使うのはとても重要だよ。この戦車は70年前に作られたもので、あるシーンでは10台を使用した。これまで映画で使用したことのないドイツの戦車も使用した。また軍服や、兵士の見かけなどもリサーチして正確に表現した。当時について知らない人が見ても、詳細にこだわったことで、視覚的なテンションが上がり、真実性が増したと思う。フィルムを使用して昔ながらの方法で撮影したんだ。戦争映画ではあるが、視覚的、感情的な体験ができる映画になった。多くの人が驚くはずだよ。
−−その衣装へのこだわりについて詳しくお願いします。
戦争映画の衣装は下ろし立てのような、均一的な感じがすることが多い。皆が一様に緑っぽいものを身にまとっていたり、いかにも同じ工場で一斉に作ったような感じのする軍服が多い。この映画は8週間後にはドイツが降伏するという終戦間際が舞台だ。戦争がもうすぐ終わるというのに戦死なんてしたくないわけだから、みんな必死に生きながらえようとしているので、それが伝わらなければならない。
また、今回は米国軍が参戦していた4年間にわたって使われてきたさまざまな武器やユニホームを登場させている。だから軍服一つとっても色も形もさまざまだし、戦ってきた男達の歴史を細かいディテールで見せている。例えばコートを切ったり、ユニホームを破いては手縫いで縫い合わせたりして、当時のものを細かく再現している。
−−主役の5人が乗る戦車は、シャーマン戦車“フューリー”については?
フューリー号として使用したのは、「イージーエイト」と呼ばれる、戦争後半に、より進んだドイツの戦車と対戦するために改良されたモデルだった。この戦車は博物館が提供してくれたが、ペンキを塗り直すことを許可してもらった。そしてその戦車が当時の姿を再現できるように、少し微調整することが許された。我々一同はこの戦車フューリー号にほれ込んだ。
ブラッドをこの戦車から引き離すのは難しかったよ。映画の撮影では、たいてい、「カット!」と言われると、役者はその場を去っていくものだが、今回は、戦車の中に入り込み、その場で時間を過ごそうとしていた。とても居心地がよさそうだった。彼らはまさにその戦車の一部となっていった。そして、戦車もまた彼らの一員となっていった。映画の中のキャラクターの一つだった。キャラクター中心の映画であり、我々はある意味、戦車に魂が宿っていることに気がついた。キャスト同様、戦車ファンがなぜこれらの戦車にほれ込むのか理解できた。
−−撮影前に行われた訓練はどんなものだったのでしょうか。
プリプロダクションでも、彼らは戦車を使用して訓練を受けた。戦車クルーとして、どのように操作したらいいかを学んだんだ。キャスト全員が、戦車内でのそれぞれのポジションを学んだ。ジョン(・バーンサル)とシャイア(・ラブーフさん)はマシンガンを分解し、兵器をはずすことができるようになったし、基本的な手入れもできるようになった。ブラッドは、戦車の指揮官としてどのように振る舞ったらいいかを学んだ。これは39トンもの重さがあって、本当に危険だから、彼は安全に作動させる義務を担っていた。マイケル・ペーニャは運転し、優秀な戦車の運転手になった。彼が到底不可能と思われるようなカーブを、建物にぶつかったり、人をひいてしまったりということなどなしに、見事に運転する様子が見られるシーンがある。
−−映画の撮影中、ブラッド・ピットが役と同じようにリーダーシップを発揮したところは?
彼はとても強烈な個性の持ち主だが、同時にとても仕事熱心な人だ。リーダーシップには、模範を示すことも含まれているが、ブラッドはいつでも模範を示してくれた。彼はどんな時でもセットにいてくれた。トレーラーに戻って一息いれるチャンスがある時でさえも、戦車の中にずっといたんだ。彼はセットを離れることがなかった。彼のそういう態度が刺激になって、他の役者たちもずっとセットにいた。これはめったにないことだ。
−−エアー監督にとって監督業の楽しさとは?
監督業はなんといっても俳優との仕事が楽しい。俳優は大好きだ。素晴らしい友情が築ける。私は監督として俳優たちの中に入り込み、彼らの心の内に入り込み、彼らの生活の中に、家族の中に、世界の中に入り込むというアプローチを取る。そうやって彼らの真実を引き出し、パフォーマンスに生かせるようにするのだが、この作品はそれに加えて戦車の操縦もあるし、P51マスタング機が頭上を飛んだりするから最高だ。こういう戦争ものは皆、子供の頃に大好きだったはず。私も子供の頃にプラモデルを作ったりしていたが、今回は本物が目の前にあったわけだ。監督業はそういうことがあるから楽しい。こうやって大勢を集めて同じ目標に向かって一緒に取り組めるから素晴らしい。
−−日本のファンにメッセージを。
「フューリー」を楽しんでいただく日本の皆さんへ、私の映画へようこそ!
<プロフィル>
18歳で米海軍に入隊し、潜水艦の乗組員として勤務した後、映画「U‐571」(2000年)の脚本チームの一人として脚本家デビュー。その後、「トレーニング デイ」(01年)、「ワイルド・スピード」(01年)、「ダーク・スティール」(02年)、「S.W.A.T.」(03年)などの脚本をつとめ、05年にクリスチャン・ベール主演の映画「バッドタイム」で監督デビューを果たす。「フェイクシティ ある男のルール」(08年)の後、12年に手掛けた「エンド・オブ・ウォッチ」では手に汗握るアクション描写が評価され、インディペンデント・スピリット賞、放送映画批評家協会賞などにノミネートされた。アーノルド・シュワルツェネッガーさん主演の麻薬捜査官を主人公としたアクション映画「サボタージュ」(14年)が11月に公開された。今作で脚本・監督・製作を担当。
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