注目映画紹介:「ジミー、野を駆ける伝説」ケン・ローチ監督最新作 無名の活動家の生き様に感動

(C)Sixteen Jimmy Limited,Why Not Productions,Wild Bunch,Element Pictures,France 2 Cinema,Channel Four Television Corporation,the British Film Institute and Bord Scannan na hEireann/the Irish Film Board 2014
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(C)Sixteen Jimmy Limited,Why Not Productions,Wild Bunch,Element Pictures,France 2 Cinema,Channel Four Television Corporation,the British Film Institute and Bord Scannan na hEireann/the Irish Film Board 2014

 アイルランドの近代史に実在した無名の活動家の生き様を描いた「ジミー、野を駆ける伝説」(ケン・ローチ監督)が17日から公開される。権力者たちの弾圧に屈せず自由を追い求める庶民の姿をみずみずしく描き出す。キャストに演劇界で活躍するアイルランド生まれの実力派を据え、アイリッシュダンスや音楽も楽しめる。

ウナギノボリ

 1932年。内戦終結から10年が経過したアイルランドの片田舎。地域のリーダーとして信頼を集めていた元活動家のジミー・グラルトン(バリー・ウォードさん)が、米国から帰国した。年老いた母親とともに、穏やかな暮らしをするはずだったジミーに、閉鎖されたホール(集会所)の再開を若者たちが願い出る。かつて仲間たちと芸術やスポーツを楽しみ語り合ったホールの復活により、住民たちに活気が戻るが、それをよく思わないシェリダン神父(ジム・ノートンさん)らが弾圧に乗り出し……という展開。

 権力VS庶民。社会的な重いテーマだ。しかし鑑賞後は、一陣の風が吹いたかのような爽やかさが残る。さすが名匠ローチ監督だ。主人公のジミーは、まるで理想のリーダーのようで、常に仲間たちと共にいる、その姿のすがすがしいこと。権力にただ抵抗するのではなく、むしろ内包してしまう懐の深さも見せ、敵をもうならせる。映画界ではまだ無名だが、ジミーを演じる俳優ウォードさんの温かなまなざしが魅力的だ。自由の場であるホールには、仲間と集まって音楽やダンスを楽しむささやかな庶民の姿があって、ジミーと元恋人との優しい時間も流れる。そして、子どもによる歌とダンスの可愛らしいこと。自由を愛する人々の思いに胸を打たれる。しかし、悲劇的な事件も起きてしまう……。1カ所を舞台にさまざまなシーンが繰り広げられ、無名の活動家の魂が記憶にしっかりと刻まれる。脚本は「カルラの歌」(96年)以来ローチ監督と組んできたポール・ラバティさん。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで17日から公開。(キョーコ/フリーライター)

 <プロフィル>

 キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今月の公開作で一番泣けたのは、実在のアスリートの半生を描いたインド映画「ミルカ」(ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ監督、30日公開)でした。

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