黒澤明監督の「七人の侍」を基に製作されたアニメをミュージカル化したミュージカル「SAMURAI 7」が、17日に初日を迎える。アニメ「SAMURAI7」は、映画公開50周年を記念して2004年にフルデジタルアニメーションとしてリメークされたもので、08年には舞台化。その後も何度も再演されるなど人気を博し、今回初めてミュージカル化されることでも話題を集めている。主役のカンベエを演じる別所哲也さんに、今作の見どころや「七人の侍」について、ミュージカルへの思いなどを聞いた。
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今作出演のオファーを聞いた時の気持ちを「非常にワクワクした」と話す別所さん。「『SAMURAI7』と聞いた時に、もちろんアニメ版も知っていますが、黒澤明監督の『七人の侍』というものは、やっぱり僕ら俳優にとっては大きな大きな存在としてあった」と黒澤作品の偉大さを感じたという。「作品としての面白さも含めて、やってみたいとすごく思う作品であると同時に、音楽劇としてどういうふうに変化するのかがすごく楽しみだった」と目を輝かせる。
今作は、時代を未来に設定するなど独自の解釈で描かれているアニメが基になっているが、アニメは「見たら分かるとおり、金髪のキャラクターもいるわけで(笑い)」と切り出し、「戦国時代など黒澤監督の描いた世界から時間、時空を超えて(世界観を)近未来に置いたとしても、物語が成立するのはすごいなと思った」と評する。そして「アニメとかマンガになるからイコール、シンプルになるのではなく、大事なことが抽出されていくような感じがした」とアニメを絶賛。ミュージカル化する今作についても、「男くさい侍、そして殺陣、アクションが伴うからこそ、『戦とは何か』や『勝ち負けとは何か』『正義とは何か』『仲間とは何か』など、時代を超えて普通に僕たちの時代にもあることをあぶり出してくれたらいいなと思う」と期待を込める。
「七人の侍」に限らず、名作や人気作のリメーク作は数多くあるが、リメークについて「もっともっといっぱいできるのでは」といい、「実は日本には“宝”がザクザクある」と目を輝かせる。短編映画祭を主宰する別所さんは、海外のプロデューサーやハリウッドの関係者から「日本は“物語ジパング”。金塊がザクザクあるのに、どうしてそういうのをもう1回、ルネッサンスじゃないけど、やらないのか」と言われるそうで、別所さんは「(ミュージカル)『SAMURAI 7』は、そういう典型的なものだと思う」と感じ、「いわゆるアニメの舞台化や映画化ということだけではなく、かつてあったさまざまな物語がもう一回、21世紀の今、新しい形でよみがえらせる。そういう歴史的にも意味のある作品になってくれたらいいなと思う」と力を込める。
さらに「例えば『ウエスト・サイド物語』だって、レナード・バーンスタインがシェークスピアの『ロミオとジュリエット』があって作ったように、(ミュージカル)『SAMURAI 7』もそうですけど、シチュエーションや時代が変わって、形を変えて出現するというのは、むしろ普通にあっていいことなのでは」と持論を展開する。そして、「時代が求めるというか、天才がまたそれを生み直すというか、決してリメーク、リクリエーションというのは悪いことではなく、とても大切なことなのかなと思う」とリメークに対する自身の考えを語った。
別所さんは、自身が演じるカンベエの印象を「兄貴分」的な存在といい、「戦うとか刀で人を殺めてしまう、命を絶つようなことをするということの本質的な意味のむなしさといったものを、ちょっとでも伝えられたらいい」と意気込む。「いわゆるチャンバラのカッコよさ、シーンごとによってはその素晴らしさみたいなものや際立った美しさみたいなものが表現される舞台になると思う」と殺陣を見どころの一つに挙げるが、「ただ、どこかでは命の尊さとか戦うことのむなしさみたいなことを体現している男であったらいい」と念押しして語る。
今作に限らず、別所さんは役作りをする上で「その役が持っているリズム感というかビート感、重心」を大事にしているという。「しゃべるトーンや速さ、目の高さや姿勢とかは人間みんな千差万別違うように、もらう役柄によって座り方も含めて違う。結局そこにはリズムとかビートがあると思う」と説明。さらに「ミュージカルだからいうわけではないんですが、それぞれの役柄のメロディーみたいなものが重なり合っていくような芝居になればいいなと思っている」と役作りの基本スタンスを明かす。
ミュージカルならではの楽しさや難しさを聞くと、「(ミュージカルは)演劇の中でも一番、約束事が多い」といい、「きっかけぜりふで音楽が始まるとか、ここで照明がチェンジするなど、当然それは(他の)芝居でもあるけど、音楽が始まって駆け上がるように音楽がキャラクターを表現していたり、ある楽器がキャラクターに寄り添っていたりする」と特徴を説明。続けて、「僕は音楽そのものが登場人物の一人だとよくいうのだけど、ミュージカルそのものの面白さであり、難しさは、音楽と同化できるかというところでは」と分析する。
演じる側としてのミュージカルの楽しさは、「映画などとは違い、ミュージカルや舞台は目の前でSEが鳴り音楽が鳴る究極の想像力のたまものというか、お客さんと一緒に空想していくわけじゃないですか」と切り出し、「一緒になって空想したり、ハッとしたり、ドキドキや泣いたり笑ったりと、めちゃくちゃすてきなことだと思う」と力説。そして「舞台上はルールがいっぱいありますが、お客さんはノールールで楽しんでほしい」と笑顔でアピールする。
今作の魅力として「作品は女子にも楽しんでほしいのですが、僕以外にもイケメンの若手が出るので、そういうイケメン若手を見に来るのもいいと思います」とユーモアを交えて紹介。続けて「僕としては(ミュージカル)『SAMURAI 7』の本質を男子諸君にも見てほしい。男泣きする観客たちが増えてくれたらいいなと思う」と期待する。そして、「お客さんと一緒に育てていくような作品にしたいと思っているので、2015年の冒頭にこういう体験を、特に(ミュージカル)未体験の男子諸君には味わっていただきたいですね」とメッセージを送った。ミュージカル「SAMURAI 7」は25日まで「天王洲 銀河劇場」(東京都品川区)で上演。
<プロフィル>
1965年8月31日生まれ、静岡県出身。慶応義塾大学法学部卒。1990年に日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビュー後、映画やテレビ、舞台、ラジオなどで幅広く活躍。ミュージカル「レ・ミゼラブル」をはじめ数多くの舞台で主演を務める。2010年には岩谷時子賞奨励賞を受賞。NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」(14年)などにも出演している。1999年から日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を主宰。映画への取り組みから文化庁長官表彰を受賞し、観光庁「VISIT JAPAN 大使」、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員、カタールフレンド基金親善大使、横浜市専門委員、映画倫理委員会委員などを務める。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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