俳優の小日向文世さんが主演を務めるドラマ「プリズン・オフィサー」が、スマートフォン向け動画配信サービス「dビデオpowered by BeeTV(dビデオ)」で配信が始まった。今作は、刑務所を舞台に、小日向さん演じる刑務官が正義のために死刑囚に立ち向かい、善悪では簡単には片付けられないような人の業を描いた人間ドラマ。1話完結の全4話で構成され、各回の死刑囚役として小澤征悦さん、新井浩文さん、石黒賢さん、伊武雅刀さんといった実力派俳優が出演し、物語に深みを与えている。真面目で気弱ながら“極道の神さま”に憑依(ひょうい)される刑務官・平凡太(たいら・ぼんた)を演じる小日向さんに、作品の見どころや役作り、アクションについて話を聞いた。
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刑務所を舞台に苦悩を抱える死刑囚と向き合うという重厚な物語だが、小日向さんは「最初の印象はファンタジーだなと思った」と感じ、「題材は死刑囚の話で、背景にあるものはリアリズムだけど、極道の神さまが入り込んでひょう変するという感じがちょっと現実離れしている」という印象を持った。だが、「僕が極道の神さまが乗り移った人を演じるというのは、ちょっと成立するのかなという不安は正直ありました。すごみを利かせるという芝居はもっと適任者がいるんじゃないかなと」と謙遜し、「アクションシーンが出てくると、殴ったり蹴ったりするという説得力があって、ほかにピッタリ合う人がいるのではと思った」と率直な感想を語る。その上で「でも主演ですからやっぱり光栄だし、やらなきゃなと思いました」と力を込める。
小日向さんといえば人気ドラマ「HERO」(フジテレビ系)で見せるような温厚な役柄が多く、アクション演技のイメージはあまりない。「今までもない」と語るアクションシーンについて、「よくやったなと思う」と振り返り、「あんなに動かされるんだったら、いくら主演でもちょっとな……と思ったかもしれない(笑い)」と冗談めかして語る。続けて、「だんだん撮影が進みひょう変していく中で、クライマックスではやっぱりそこ(アクション)にいかないと上り詰めない」と今作でのアクションの重要性を指摘し、「どうしても要求されるものが、だんだん大きくなっていき、4話目は結構ハードでした」と苦労を明かした。
百戦錬磨の小日向さんだが、難しかったと感じたシーンにやはりアクションを挙げ、「言われた通りにやることはやったとしても、それが見ている方が『おっ!』とうならせられるものになっているのかどうか……」という点が気になったという。ただ完成した映像を見て「それなりに見えるなと(笑い)」と感じ、「これはもう映像のマジックというか、編集の力だなという感じで助かった」と笑顔。そして「見た人が『すごい! 小日向文世が普段見られないような動きをしている』とかつぶやいてくれたらうれしい(笑い)。それでクチコミで広がっていけば」と期待を込める。さらに「僕が子供の頃、60歳といったらおじいちゃん(笑い)。自分でも(撮影時には)60歳でよくやったなと本当に思う」と振り返り、「いくらでもアクションをやれる俳優はいるけど、(自分にオファーが来るというのは)ありがたい」と感謝した。
小日向さんが演じる平凡太は、40年前に死亡した極道の神様が乗り移るという変わった設定の人物。「とにかく極道の神様が入った瞬間の顔つき」を意識し、「基本的には怒りと恨みとか人間の持っている暗い部分が突然わき上がってきて、凡太が怒り始めて震えてパッと違う人に変身しちゃう」と主人公の心情を解釈して演じた。極道の神さまが乗り移った状態を表現するため、「顔に一つ傷が入るだけで結構人間って不思議と怖くなる」と特殊メークに驚きつつも、「どういう表情をしている時が一番すごみがあるのかを、鏡を見て研究した」と明かす。さらに「すごみを出すため、なおさら落差をつけるように普段のひょう変する前の平凡太の人のよさや気の弱さ、生真面目さみたいなのをできるだけしっかり演じなければと思った」と気を使った。
ちなみに、平凡太は野球好きという設定があるが、小日向さん自身も小さい頃は野球に夢中で「長嶋茂雄が僕の子供時代のスター」と目を輝かせる。そういった共通点もある平凡太を「人のよさというのは台本にしっかり書かれているので、それをあとはわざとらしくなく、『こういう人っているんだよね』というような説得力を持たすための芝居というのは、できるだけリアルにしなきゃと思っていた」と振り返る。
人柄のよさが伝わる優しさと、激しい感情を出すような対照的な演技を今作でも見せる小日向さんに、いわゆる“いい人”と“悪い人”を演じる分けることについて聞くと、「楽しいのは、やっぱり人のいい役」と言い切り、「街にいるちょっとのんきだったり、困ったような感じとか、いわゆる下町にいるようなおじさんというのが好き」と話す。「そこにひと味つけて、ちょっとしつこかったりちょっと困っちゃうような人、ちょっとスケベだったりとか、そういう人間くさい人を演じるのは楽しい」と笑顔で語る。
悪い人を演じることは、「極道とか高級官僚、インテリの役というのは自分からは遠いので、すごく緊張する」と言って笑い、「でも成立した時はカタルシスというか気持ちがいい」と強調する。「極道の役をやって『結構怖かった』と言われると、それはそれでうれしい」と表情を崩すも、「演じている時に無邪気に楽しめるのは、人のいい方でしょうね」という。
今作でカタルシスを感じたシーンは、「やっぱりアクションシーンでオーケーが出た時」を挙げ、「(監督から)『すごかったです。バッチリです!』と言われて結構その気になっちゃっいました(笑い)」と小日向さん。「編集したのを見たら、少し早回ししてるのかなと」とジョークを飛ばし、「バットを持ってすごむんですが、僕は絶対あんなことしませんから!」と豪快に笑う。そして、「(今回のような役をやると)意外と息子たちが喜ぶ」といい、「僕からあまりにも遠い存在でもあって、男の子にとってはちょっと怖いけれど強い人を僕が演じると、画面と僕を見比べたりする」と言ってほほ笑む。
共演者には豪華なメンバーが顔をそろえたが、「みんなしっかりと役作りをしていて、小澤くんは、あんなハードな役はこれまでないと思うから、逆に面白がってやっているような気がした」と役者目線で分析する。ほかの出演者についても「新井くんはいつもの不気味な感じが相変わらずあったし、石黒さんは本当は妹のために人を殺してしまった人だから、ちょっとかわいそう」と説明し、「伊武さんなんかもう、絶対に会いたくない」と先輩俳優との共演をちゃめっ気たっぷりに語る。そして「役者はやっぱり悪い役でも、やったことがない役ならやりたがるもの」とそれぞれの演技に共感する。
独特の世界観で描かれているストーリーについて、「死刑囚になる極悪非道な連中だって、みんな最期は人間の弱さみたいなものが出て、絞首台に連れていかれる。そこはそれでよかったと思う」と総括する。「改心するよりも、人を殺したやつが自分が死ぬ時に恐れるということは、やっぱりそれだけ大変なことをした、人を殺すことがどれだけ罪深いことかという……」と神妙に語り、「そういう意味ではみんな最期には分かる」と説明する。ただ、「どこかで同情したくなる部分もある」と善悪という言葉だけで片付けられない今作のテーマに感じ入っていた。
今作の見どころを「まず地上波では絶対に見られない座組(スタッフ、キャスト)であり作品だと思う」と力を込め、「ちょっとハードボイルドで、このメンバーの地上波ではなかなか見られないような演技も楽しめる。見逃すと一生もう見られないかもしれません」と自信をのぞかせる。最後に「僕がこんなに動き回るのは、もう最初で最後かもしれませんから」と笑いを誘った。ドラマはdビデオで配信中で、ドコモ以外のユーザーも視聴可能。全4話。
<プロフィル>
1954年1月23日生まれ、北海道出身。77年に劇団「オンシアター自由劇場」に入る。19年間在籍し、96年の劇団解散後は映画やドラマに進出。“月9”ドラマの「HERO」(フジテレビ系)へのレギュラー出演で注目を浴びる。人気ドラマに数多く出演し、2008年には「あしたの、喜多善男~世界一不運な男の、奇跡の11日間」(関西テレビ・フジテレビ系)で連続ドラマ初主演を務める。主な出演映画に「アウトレイジ」シリーズ、「清洲会議」(13年)などがある。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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