「少年と自転車」(2011年)などで知られ、カンヌ国際映画祭で2度のパルムドール大賞受賞歴のあるベルギーのジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の最新作「サンドラの週末」が全国で公開中だ。主演は「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」(07年)のマリオン・コティヤールさん。病気休職を理由に突然の解雇を告げられた女性が、復職をかけて夫の支えを借りながら行動を起こす週末を描いている。このたび来日した2人のダルデンヌ監督に聞いた。
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主人公のサンドラ(コティヤールさん)は、ソーラーパネルを作る工場で働いていたが、うつ病で休職していた。復帰のめどが立った矢先の金曜日、会社から解雇を言い渡される。解雇を免れるためには、16人の同僚のうち過半数にボーナスをあきらめてもらわなくてはならない。週明けの月曜日にサンドラとボーナス、どちらかを選択する投票が、同僚たちによって行われることになる。
「この映画は特別シビアな物語ではないのです」と語る兄のジャン・ピエール監督は、「こういうやり方が大半だとは言わないけれど、ベルギーでは、50人以下の会社では労働組合はなくてもよく、たとえ組合があっても解雇の代わりに賃金カットを受け入れる……ということも実際にあります」と話す。
崖っぷちに立たされた女性を演じるのはコティヤールさんだ。前作「少年と自転車」でセシル・ドゥ・フランスさんを起用したのに引き続き、世界的な女優が主演している。コティヤールさんが主演する「君と歩く世界」(13年)で、ダルデンヌ兄弟監督が共同プロデューサーを務めたのが縁で起用。2人の監督は「エレベーターの外で偶然会ったとき、映画的に一目ぼれを感じた」と口をそろえて語る。今作で第87回米アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたコティヤールさん。ほとんどメークをしないで演じる姿が新鮮だが、「ほかの出演作品を忘れさせてくれ、彼女のイメージはサンドラの陰に完全に隠されました。コティヤールさんはサンドラの弱さをよく表現してくれました」とリュック監督は満足げだ。
ダルデンヌ兄弟監督は、リハーサルに長い時間をかけて、役の動き一つ一つを突き詰めていく製作スタイルをとる。他の俳優たちの目の前でコティヤールさんの演技にダメ出しをし、コティヤールさん側も特別扱いは望まなかったという。
「すべてのシーンで他の俳優と一緒に5週間をかけてリハーサルをしていったんです。コティヤールさんは雰囲気作りに貢献してくれ、初めは有名女優を前にしておびえていた俳優たちも、自由に提案を出すようになっていきました」とリュック監督は語る。
映画は、サンドラが夫マニュ(ファブリツィオ・ロンジョーネさん)の支えを借りながら、同僚の家を一軒一軒説得に回る様子をつぶさに追っていく。
自分が社会に必要とされていないと思い悩むサンドラ。サンドラを支える人を誰にしようか迷った末、夫を置いてみたところ、なかなか進まなかったストーリーがうまく動き出したという。ジャン・ピエール監督は「家族みんながサンドラを支えていることも重要で、子供もサンドラを手伝います。家族は“連帯”の形式の始まりで、その第一歩は夫ですから」と語る。
また、リュック監督は「夫婦を描く上で難しかったのは、妻が夫に従属しているように見えないようにすることでした。例えば夫が同僚を説得に行くことを提案するとき、上からの物言いにならないように、立ち位置のバランスや言葉、適切な距離を見つけるのに苦労しました」と明かす。
説得に回ることで、同僚の家の事情も浮かび上がってくる。サンドラと同僚の両方の立場に立たされて、観客はジレンマを感じることだろう。
ジャン・ピエール監督は「サンドラが『私の身になって考えて』と同僚に言うと、同僚は『私の立場も考えて』と返します。他人の立場になって考えることが大事なのです。サンドラは支持してもらえない人にも、善悪の判断を下しません。それこそが普遍的な人間のストーリー。自分ならどうするか。心の中で対話をしながら見てほしいです」とメッセージを送る。
相手と深く話し合えば葛藤も生まれる。その恐怖心を少しずつ乗り越えて進んでいくサンドラ。その姿は最終的には「冒頭と全く違ったものになっている」とリュック監督は話す。
またリュック監督は「弱さからくる恐怖心を乗り越えるためにどうしたらいいのか。その答えはとても難しい。映画の中で、サンドラは同僚を変える存在になり、彼女に自信が生まれます。他人が理解してくれ、助けてくれる存在なのだということが分かれば、誰もが前進できるのではないでしょうか」と語った。
出演は、コティヤールさん、ロンジォーネさんのほか、オリビエ・グルメさん、モルガン・マリンヌさんら。Bunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほかで公開中。
<プロフィル>
兄ジャン・ピエールさんは1951年生まれ。弟リュックさんは1954年生まれ。ベルギーのリエージュ近郊出身。「ロゼッタ」(99年)でカンヌ国際映画祭パルムドール大賞受賞と主演女優賞を受賞。「息子のまなざし」(2002年)で同映画祭主演男優賞とエキュメニック賞特別賞を受賞。「ある子供」(05年)で同映画祭2度目のパルムドール大賞を受賞。「ロルナの祈り」(08年)で同映画祭で脚本賞を受賞。「少年と自転車」(11年)で同映画祭でグランプリを受賞。今作で異例の6作品連続のカンヌ国際映画祭コンペティション部門への出品を遂げた。
(インタビュー・文・撮影:キョーコ)
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