人気ゲーム「桃太郎電鉄」シリーズを巡り、ゲームクリエーターのさくまあきらさんと、著作権の保有者であるコナミデジタルエンタテインメントが、ネット上でバトルを繰り広げてゲームファンの注目を集めています。お互いの言い分が食い違うなど不明な点も多いのですが、業界の話をかいつまむと、さくまさんは、権利譲渡を視野に入れつつも開発の継続を望んでいる一方、コナミ側にはその意思が感じられない……と言うのがおおよその流れのようです。
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ある程度のクオリティーのゲームを出せば片っぱしから売れる華やかな時代は過去の話で、業界の競争を勝ち抜くためのゲーム会社同士の合併は珍しくなく、買収した企業の方針に従えないゲームクリエーターが退職するのもまたよくある話です。そして独立したクリエーターが、かつて自身が手掛けたコンテンツを再発信したいと思うのはよく理解できる話ですが、そこに著作権という問題が立ちはだかります。実は今回のような権利関係のもつれはよくあることです。ゲームを作るのはゲームクリエーターですが、彼らは社員の業務としてコンテンツを生み出すこともあり、ゲームの著作権は会社に帰属するからです。
10日にゲーム会社「ユークス」の入社を発表した元コナミの内田明理さんは、「ラブプラス」シリーズの開発者として知られています。その次回作について、会見で質問された内田さんは、「勝手なことは言えない」としながらも「コナミから制作依頼があれば歓迎します」と発言しています。コンテンツを生み出したのは、内田さんの力に負うことは間違いないのですが、権利が自身に無いことを明確に伝えています。
企業側も1990年代の前半から、コンテンツの著作権について、クリエーターと争う事態を恐れていましたから、予防線を張ることを忘れていませんでした。私がかつて在職していた企業でも、クリエーターが退職するとき、「あの部分のプログラムは自分が書いたから権利がある」とか「あのキャラクターは自分が作った」という権利主張をされることを嫌がっていました。各社の法務部や総務部が、法的拘束根拠はないにも関わらず、同業他社への転職、勤務上知りえた知識を流用した開発などの禁止条項なども盛り込み、念書に押印を強いるのは珍しい話ではなかったのです。
しかし、中には独立・起業するクリエーターが、退社の際の条件に自身が開発したコンテンツの権利料を設定し、新作が出るたびに一定の印税が入る契約を取り付けた猛者(もさ)も何人か知っています。一見クリエーターに利がある契約ですが、その余力に甘んじてか、クリエーターとしての本領が発揮できない……というケースもあるから皮肉なものです。
開発ツールの簡易化と普及、デバイスの多様化など、コンテンツを作ることが容易な時代になりました。しかし、それらが複雑に入り組んだ時、著作権の問題が起こらないとは限りません。著作権は大事なものであることは間違いないのですが、泥仕合を演じてゲームファンの気持ちを落胆させないよう配慮してほしいものです。なぜならばコンテンツは、ゲームを応援してくれるファンのものでもあるのだから。
◇プロフィル
くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所所長。黒川塾主宰。
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