名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
話題のマンガの魅力を担当編集が語る「マンガ質問状」。今回は、北海道のラジオ局を舞台にした沙村広明さんの「波よ聞いてくれ」です。「月刊アフタヌーン」(講談社)編集部の北島徹さんに作品の魅力を聞きました。
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25歳女子がひょんなことからラジオ界の女王に。ただし北海道内限定……。作者いわく「今度こそ人の死なないマンガ」であり、担当者いわく「沙村広明の最高傑作」です。とにかく沙村氏の作品はキャラがバキバキお亡くなりになりますが、本作では誰も死にません。生きて生きて生きまくります。その生きざまを表すのが氏ならではの「言葉」です。沙村氏といえば、その圧倒的な画力やエログロ上等の発想力でよく知られていますが、最大の魅力はキャラクターのせりふのキレっぷり。視覚でなく聴覚に訴えるラジオというメディアだからこそ「沙村節」がうなりまくる。氏の真髄見たり、と言うべき怪作です。
連載前の打ち合わせでは、まず札幌を舞台とすることが決まりました。都市部と大自然が近接している、というところに作者が魅力を感じたためです。続いて主人公の設定です。手に職のある女性にしようとなり、浮上したのがラジオのお仕事でした。沙村氏はもともとラジオ愛聴者であり、実際に在京の某局に取材に行った際には「俺、ここで働きたいなぁ」と言っていたほどです。現場のノリを重視して企画が決まっていく自由な雰囲気の中でこそさまざまな「事件」が起こせる、そうした作者の意図があって、このラジオマンガは生まれました。
性格や外面を抜きにすると、元「ミス・ユニバース・ジャパン」の1人の女性がモデルになっています。彼女は某番組にゲスト出演した際、局員から「あなた番組持ってみない?」と勧誘され、今では帯番組のメインMCです。おそらくテレビであったらあり得ないような小さなシンデレラ・ストーリーがラジオにはある。作者が心引かれたエピソードです。ちなみに主人公の「ミナレ」という妙なネーミングですが、これは北海道ならではの発想が働いています。「ミナ」とはアイヌ語で「笑う」という意味の動詞。つまり「ミナレ」には、周囲から笑われがちの独身オンナという意味が込められています。そんな主人公の人生一発逆転劇にご期待ください。
語感を重視しており深い意味はありません。「波」は言わずもがなで電波の意味。女性が主人公ではあるものの、ハードボイルドな雰囲気を漂わせたいとの思いから、こうした呼びかけチックな題名となりました。
非常に申し訳ないですが、苦労しているのは作者ばかりで、担当者としては作者に気分よく描いてもらえるよう腐心しているだけです。強いて言えば、雑誌や新聞などのメディア対応です。沙村氏が「なんとなく」決めた設定などを、さも深い意図があったように「物語る」ことですね。誤解があってはいけませんが、「なんとなく」というのは作者一流のカンが働いたということ。私は日々感嘆するばかりです。
前述しましたように「人が死なない」マンガです。死なない代わりに、誰かの心が壊れていくような展開はあります。いわば「心の惨劇」です。沙村作品だけあって、清く正しく明るく牧歌的に、とはなりませんのでご安心ください。あっ、主人公はちゃんとラジオMCを続けますので。
バカな話だなぁ、でも、いちいち刺さるぞ。そう感じていただけたら作者ともども幸いです。すでに「J-WAVE」さんが1話目をラジオドラマ化してくださいました。こうした「音声化」のみならず映像化の話も、まだ企画レベルですが、いくつか舞い込んできております。ブレーク前の今のうちに、波よ聞いてくれを読んでくれ。以上です。
講談社アフタヌーン編集部 北島徹
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