11日に死去した任天堂の岩田聡社長の在任13年間は、創意工夫を凝らしてライバル企業と一線を画した戦略で勝利を得た。在任後期は、アイテム課金のスマホゲームの拡大に苦戦を強いられたのも事実だが、ソニーやマイクロソフトといった世界的な超巨大企業を相手に、任天堂が一度は失ったゲーム業界の“王座”を奪還し、ゲーム人口の拡大を成し遂げた実績は色あせない。
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2002年の社長就任時は、50年以上社長を務めた山内溥前社長の指名を受け、しかも入社わずか2年で、並み居る有力候補を押しのけ、ヒラの取締役からの抜てきとあって、当時の話題をさらった。ただ当時の任天堂は、ソニーにゲーム業界の“王座”を奪われた後で「限界説」もささやかれ、貫禄十分の前社長と新米社長を比べて「山内さんの院政」と揶揄(やゆ)した意地悪な意見があったことも覚えている。
だが岩田社長を取材してみると、それが見当違いであることはすぐ分かった。質問をすれば答えは明朗で、核心を突いた質問には、「やりますね」といたずらっ子のような表情を浮かべた。山内前社長が、その説明能力を高く評価したのも納得で、インタビューや会見に行くのが楽しみな人であった。自信があるからこそ、インターネットで自ら情報発信をし、それが多くのゲームファンの心をわしづかみにした。
先見の明は、04年12月に発売された「ニンテンドーDS」で証明した。「高画質、高性能を追求するゲーム機の成功法則は限界に来ている」と断言し、「異質な体験」をユーザーにさせるというコンセプトのゲーム機は、発表当時は疑問視もされたが、1年後に「脳を鍛える大人のDSトレーニング」などがブレーク。その後は、これまでゲーム機に興味のない人たちがこぞって、ゲーム機を買い求めた。他のメーカーも単純なゲーム機の高性能の追求はやめ、幅広いゲームファン以外の取り込みを意識するようになった。岩田社長は、ゲーム業界の考え方を変えてしまったのだ。
もちろん予想外のこともあっただろう。09年3月期には、就任時の3倍の売上高となる1兆8000億円を超え、日本中の他業種企業が「任天堂を見習え」となったが、あまりの任天堂の“独り勝ち”は、他のゲームメーカーから警戒されることにもなった。そこに低コストで高収益が見込めるソーシャルゲームが登場すると、ソフトメーカーの開発の軸足もそこへ向き、反比例して任天堂ハードでのタイトル数は減り、普及の足かせとなった。
皮肉だが、岩田社長のゲーム人口拡大の試み、異質への挑戦が、新規のソーシャルゲームの拡大を後押しした結果となったわけだが、それで功績が色あせるわけではない。「ゲームのヒットは水もの」と言われ、多くの経営者がそのかじ取りに苦労する中、山内前社長の人を見る目は確かで、見事に応えた岩田社長もまた一流の経営者だった。
残念だが最大の誤算は、山内前社長の死からわずか2年後に訪れた自身の若すぎる死だろう。山内前社長が組織した6人の代表取締役による集団指導体制も、気付けば竹田玄洋、宮本茂の両専務だけとなり、体制の立て直しは急務だ。任天堂は、ゲーム業界を変えた2人の偉人をわずか数年で失い、先の見えない“荒波”に繰り出すことになる。(河村成浩/毎日新聞デジタル)
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