喜劇王チャップリンの遺体が盗まれた実在の事件をモチーフにしたコメディー作「チャップリンからの贈りもの」が18日から全国で順次公開されている。ドジで貧しい移民の中年男2人組の友情を軸に、チャップリン作品へのオマージュをちりばめたヒューマン作だ。チャップリン遺族の協力のもと、スイス・レマン湖畔にある墓地でロケを行った。チャップリンの息子や孫娘も特別出演。カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ作「神々と男たち」(10年)のグザビエ・ボーボワ監督がメガホンをとった。撮影秘話をボーボワ監督に聞いた。
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舞台は、スイス・レマン湖畔の小さな町。刑務所を出所したばかりの中年男エディは、友人のオスマンのところに身を寄せる。2人は貧しい移民同士。オスマンの妻は入院しているが、治療費が払えない。1977年のクリスマスの朝。テレビからチャップリン死亡のニュースが流れる。チャップリンの邸宅は彼らと同じ町にあって、遺体は同じ町に埋葬されることになった。友達を助けるためにエディが思いついたのが、チャップリンの遺体を誘拐して遺族に身代金を要求すること。「貧しい移民の放浪者を演じてきたチャップリンは、自分たちの友達だから、きっとお金を貸してくれる」という理屈からだった。
監督自身の子ども時代も貧しかったという。「映画の世界に逃げると、苦難を忘れることができた。高校の頃は毎週のように映画を見に行ったよ」と語る。
この事件を映画にしようと思ったきっかけは、ある日「ライムライト」(1952年)のDVDを見たことからだったという。同作のチャップリンとキートンを思わせるラストも用意されている今作には、主人公のエディがサーカスに入団して道化になったり、サイレントになるシーンもあったりする。「人々に希望を与えたい」というメッセージを、チャップリン映画のオマージュとともに込めた。
「本物のチャップリンの邸宅、本物の墓地で撮影することにこだわったんだ。事件については、まるで刑事ものを作るように綿密にリサーチしていったけど、現実をなぞるようなことはしたくなかった」と撮影秘話を明かす。
スイス警察とコンタクトをとり、チャップリン遺族の協力も得た。撮影では、チャップリンが晩年過ごした邸宅の場面ではチャップリンの愛用の机を使い、裁判のシーンでは実際に裁かれた法廷を使った。そんなリアルな舞台で、お調子者のエディと真面目なオスマンのユーモラスなやりとりが繰り広げられる。
「ユーモラスな話にしたかった。オスマンとエディは、静と動、真逆でそこが面白い。お互いが補完し合う間柄なんだ。俳優の性格も実際に正反対だった。楽屋で一人は昼寝、一人は音楽をガンガン鳴らして踊ってたよ(笑い)」と笑う。
オスマン役を「あるいは裏切りという名の犬」(2004年)のロシュディ・ゼムさんに決めてから、エディ役にブノワ・ポールビールドさんを配した。ブノワさんは、フランス映画界の“コメディーの天才”と呼ばれ、シリアスな演技もこなせる器用な俳優だ。2人が公衆電話から身代金を要求するシーンは、この凸凹コンビの見どころの一つ。チャップリンの執事に鼻の先で笑われ、ついには身代金を値下げしてしまう。
「墓を掘り起こすシーンでも、2人はエディとオスマンそのものだったよ。エディは一生懸命掘っているようで、実はマネだけ。ほとんど、オスマンが掘っていたね。編集しているときに気づいて、爆笑したよ」と好対照だったようだ。
その墓地のシーンでは、実際のチャップリンの墓の数メートル先の場所にセットを組んだ。「墓地の撮影許可が下りるとは思ってもみなかったから、本物のお墓をどう作ろうか悩んだよ。撮影は夜中の3時ごろから明け方までかかった。モニターをのぞきこんでいると、後ろからチャップリンが一緒にのぞき込んでいるんじゃないかっていう気持ちになった。夜中の4時に一人で墓にいるのは、かなり“深い”経験だったね(笑い)」と墓地での撮影を振り返る。
音楽は、フランス映画音楽界の巨匠ミシェル・ルグランさんにオファーした。お城のようなルグランさんの家に3週間滞在し、行動を共にして、映像を見ながら曲を付けていったという。
「『ノートルダムのせむし男』のようなブ男がトップモデルを口説くみたいにアタックしたよ。無理だと思っても、やってみることが必要だね」とルグランさんが快諾したことを喜ぶ。劇中では「ライムライト」の主題曲をモチーフにした挿入曲が流れ、エディとオスマンの悪事を許すかのように、一筋の希望の光が射している。
出演は、ポールビールドさん、ゼムさん、キアラ・マストロヤンニさん、ピーター・コヨーテさんのほか、チャップリンの未亡人役で実の孫娘のドロレス・チャップリンさん、サーカスの支配人役でチャップリンの四男のユージーン・チャップリンさんが特別出演している。18日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで順次公開。
<プロフィル>
1967年北フランス生まれ。アンドレ・テシネ監督やマノエル・ド・オリベイラ監督の下でアシスタントとして働き、23歳で出演・脚本・監督をした「Nord」(91年)でセザール賞最優秀デビュー賞にノミネートされる。「マチューの受難」(2000年)、「Le Petit lieutenant」(05年)がベネチア国際映画祭に出品される。「神々と男たち」(10年)で第63回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリとセザール賞で作品賞を獲得。
(インタビュー・文・撮影:キョーコ)
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