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なきぼくろさん:PL野球部で培った精神生かし夢のマンガ家に 「あそこで学んだことがベース」

マンガ
インタビューでマンガとPL学園の思い出を語るなきぼくろさん

 100年目の節目を迎え、6日からいよいよ開幕する夏の甲子園。名だたる強豪校が連日熱戦を繰り広げる夏の風物詩だが、そうした高校球児たちの姿をリアルに描いたマンガが「モーニング」(講談社)で連載されている。作者は自身も元高校球児というなきぼくろさん。大阪の名門校・PL学園野球部に在籍し、3年の夏には甲子園にも出場したという異色の経歴だ。現在は、「DL学園」というPL学園をモデルにした架空の高校を舞台に、レギュラーを目指す主人公と仲間たちの物語を描いた「バトルスタディーズ」を連載している。なきぼくろさんにマンガ家になるまでのいきさつやPL時代の思い出などを聞いた。

 ◇PL野球部からマンガ家へ

 9番右翼手。それが高校3年の夏、最後の甲子園に出場したときのポジションだ。大阪エリア屈指の野球名門校・PL学園でレギュラーをつかむほどであれば、当然その後の進路も野球関係に進むものと考えがちだが、あっさりと野球を離れてイラストの道へ。なきぼくろさんは「プロ野球に行きたくて野球をしてたわけじゃなく、PLが好きで野球をしてたので」と淡々と語る。入学したての1年のうちに、すでにPLでの野球生活を終えたあとは野球をやめることを決めていたという。

 とにかくPLが好き、というなきぼくろさんの姿は、「バトルスタディーズ」の主人公・狩野笑太郎と重なる。「DL学園」新入生の中で目玉選手の笑太郎は、子供のころから大の「DLオタク」。レギュラー選手の出身地はもちろん家族構成まで把握し、時には片道50分かけて憧れの選手の実家を訪れる。同作の1巻では笑太郎がDLに憧れるきっかけとなるエピソードが描かれているが、それはそのまま、なきぼくろさんの体験と重なる。なきぼくろさんは、現在、福岡ソフトバンクホークスに所属する松坂大輔選手を擁する横浜高校とPL学園の延長17回に及ぶ試合を見て感動し、PL学園に入ることを決めた。1巻の、笑太郎のDL学園に対する思いは作者自身の思いでもある。なきぼくろさんは「ひとめぼれでした」と笑う。

 野球人生にピリオドをうち、美術系の専門学校へ。体育会系から芸術系へと大きくかじを切った。その後は絵を描き始め、「多少は絵で食っていけるようになった」が、ある年の正月に「初夢でマンガを描いている夢を見て」、起きてすぐに家族に「マンガ家になる」と宣言した。だが、「小学校のときからマンガを買ったことがなかった」と語るように、それまで家にマンガは一冊もなかった。もちろん、夢を見るまでマンガ家になるという選択肢はまったくなかったという。その後、「マンガ家宣言」をしてからは一直線にマンガ道へ。「賞があるということは知っていたので、『新人、マンガ、自由』と(PCの検索で)調べたら、一番上に『モーニング新人賞』と出たので、それで(応募して受賞した)。一番下の賞ですけど」となきぼくろさん。アシスタント経験もない新人だったが、見事に賞をつかみ、マンガ家としての一歩を踏み出した。
 
 ◇野球部のルールや掟などはリアル

 現在連載中の「バトルスタディーズ」ではPL学園をモデルにした架空の高校「DL学園」野球部のルールや習慣、上下関係などが詳細に描かれている。面白いのは、野球部員としての心得はもちろん、「炊事」や「洗濯」などの細かい“決まり”だ。食事では先輩ごとに異なる盛り付けやおかわりの作法があり、洗濯は洗濯板で深夜まで洗う。なきぼくろさんは「実際にあったこと」といい、「フィクションはフィクションだけど、経験したことを入れているので」と明かす。当時を思い出しながら「懐かしいなあ、と」振り返りながら描いているが、もちろんつらかった思い出もある。なきぼくろさんは「水が飲めなかったこと。いかにして水分補給をするか、とか……。あと、女子をみたらあかん、ということ。それは印象に残ってますね」と作中にも登場する“掟”を挙げて笑う。

 PLをモデルにマンガを描くことについては「これしかなかった」となきぼくろさん。貴重で面白い体験だったから、と当時を懐かしむ。描いていて特に楽しいのは、動きのある野球のシーン。「動きのある絵は描いていて楽しい。動きのないシーンは、絵にいい意味での違和感をつけるために、工夫しながら描いています」と制作の工夫を明かす。新人離れした絵の上手さが印象的だが、アシスタント経験は一度もない。Gペンではなく筆で描かれた躍動感のある線も独学で身につけた。デビューが決まってから、井上雄彦さんや佐藤秀峰さんなどのマンガも読むようになり、参考にしていったという。なきぼくろさんは「どうやって(マンガ家がマンガを)描いているのか分からなかったので、一番トップでやっている人たちの絵を参考にしながら」と語る。

 ◇PLで学んだことがベース

 PLのOBからの連載の評判は上々で、直接的にも間接的にも応援メッセージを受け取った。OBといえば、千葉ロッテマリーンズの今江敏晃選手との忘れられない思い出がある。当時1年生だったなきぼくろさんが描いたイラストを、3年生でキャプテンだった今江選手がたまたま見て気に入り、なきぼくろさんに似顔絵を頼んだという。「たぶん今江さんは覚えてないです」と笑うが、その後マンガ家に進んだなきぼくろさんらしいエピソードだ。

 PL野球部で野球に打ち込んだ高校3年間は、今のなきぼくろさんにとってどのようなものだったのだろうか。PL時代を経験して良かったことを聞くと、「全部ですね」と即答し、「礼儀作法、忍耐、何かに対する姿勢とか、今だにあそこで学んだことがベースになってる」と語る。現在はマンガ家だが、野球部1年生だったときと状況が似ている、となきぼくろさん。「トップを目指して、過酷な状況の中でやってるというのは同じ。今は、1年生キャラの心境と(自分を)かぶせられる」と笑顔で語った。

 ◇プロフィル
 
 大阪府生まれ。元PL学園野球部員で、高校3年の夏、9番右翼手で甲子園に出場。「どるらんせ」で2013年前期MANGA OPEN奨励賞&eBook Japan賞をW受賞。14年8月に「週刊Dモーニング」新人増刊号に「バトル・スタディーズ」を掲載し、好評を博し連載化。

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