平井堅:20周年第1弾シングルを発売「自分の中の奮起する気持ちや負けん気を引っ張り出した」

20周年を迎え第1弾シングルをリリースした平井堅さん
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20周年を迎え第1弾シングルをリリースした平井堅さん

 5月にデビュー20周年を迎えた平井堅さんが、アニバーサリーイヤー第1弾となるシングル「君の鼓動は君にしか鳴らせない」を5日にリリースする。唐沢寿明さん主演の連続ドラマ「ナポレオンの村」(TBS系)の主題歌として自ら作詞・作曲を手がけたミディアムナンバーで、心臓の鼓動や鐘の音など、本人発案による“鳴らす”というコンセプトのアレンジが取り入れられている。「不屈の精神」「七転び八起き」というドラマのテーマに基づいて、「自分の中の奮起する気持ちや負けん気を引っ張り出して書いた」という平井さんに、新曲の話や歌手業に臨む姿勢などについて聞いた。

ウナギノボリ

 ――今作は、ドラマサイドから「奮起できるような曲」というリクエストを受けて書いたそうですが、具体的なイメージは?

 限界集落の人たちが本来持っている豊かさや美しさ、尊さというもの、いろんな挫折や屈辱で、あきらめたり忘れかけていたりすることを目覚めさせる、という物語なので、まさしく唐沢さん演じる主人公の目線で書きました。僕も含め、人は生きてきた分だけあきらめることも増えていきがちだけれど、「君の鼓動は君にしか鳴らせない」というタイトルにもあるように、その人がその人らしくいることが豊かさや財産であり魅力なんだっていうことを、なるべく闇を見ながら光を描くように心がけて。平たく言うと、人はみんなそれぞれ美しい、その人にしか鳴らせないものがあるっていう単純な通念というか……。

 ――タイトルから歌詞を書いていったんですか。

 今回はタイトルが最後まで決まらなくて、この歌詞の中で一番言いたいことって何かなと思ったら、「君の鼓動は君にしか鳴らせない」というフレーズに全部集約されているな、と。鼓動って生きてる証しで、生きてりゃ、山あり谷あり、光もあれば影もある。でもどんな時も鼓動は鳴っているので、喜怒哀楽、悲喜こもごも、そのすべてが僕も含めて我々の愛すべき人生なんだ、すべてに意味があるんだっていう気持ちで書いたフレーズです。

 ――奮起や負けん気という意味では、平井さん自身の歌手人生にもリンクする部分はありますか。

 そうですね。もちろん、音楽や歌が好きで20年やってきたともいえるけれど、それだけじゃなく、敗北感や屈辱感みたいなものがすごくバネになっているところはあって。不屈の精神って、とても美しくて強いものだけど、僕にとっては、それこそ「あいつに負けたくない」とか、あんまり人前では出すべきじゃない醜い感情というか、ちっぽけなプライドを測るものだったりします。僕も20年間、ホントにもう無理かなって思ったり、まだやれると思ったり、その繰り返しでここまできて、まだやれるって思うのは希望もあるし、ここで負けてたまるかっていう負けん気もあるし、その両方があって立ち上がれてきたとは思います。

 ――もう無理かもしれないと思ったり、屈辱感を味わったのはどんな時ですか。

 優れたミュージシャンの方の曲を聴くたびに「なんで自分はこんなに才能がないのかな」って敗北感にさいなまれます(笑い)、歌唱についても「この人、こんなに歌がうまくていいなあ」ってうらやましく思うし、結果に対しても「売れなかったな」っていう時は落胆もあるし。あとは、「歌手・平井堅はこうあるべきだ」っていう美意識を持って仕事をしていて、自分の値段は自分で決めるというのがモットーなんですけど、その値踏みが双方で合わない時は悔しい気持ちになるし……。

 いい歌を歌う、いい楽曲を作るっていうのは自己責任としてありつつ、自分が守るものっていうのは、それにまつわるブランディングとかイメージ戦略とか、平井堅という商品をどういう位置に置いていくかということで、その美意識のために、僕はやっているというか……。1枚の絵画に例えるとして、それを美しく見せるためには、ちゃんとした額に入れて壁に飾らないと絵の価値も生まれないし、そのポジショニング、僕の歌をどこで鳴らすかっていうのは一番こだわってやってるところですね。

 ――なるほど。また、通常盤に収録されているカップリング曲「愛にこだわれ」は、TOYO TIRESのCM曲として“サプライズ(驚き)”というキーワードを元に、CMの絵コンテや映像などを見て書かれたそうですね。

 裏テーマは「マイルドヤンキー」なんです。いろんな車種の絵コンテがあって、ワゴン車を見た時にマイルドヤンキーの曲にしようと思ったんです。都会や海外、自分とかけ離れた理想に憧れるのではなくて、今ある家族や仲間、目の前にあるものを愛していく人たちの生活を書いたんですよね。ドラマチックな人生や驚異というより、共感を重視する世代の歌というか。あとは、車のタイヤって命を乗せて走っていくもので、隣にいる人の驚きを乗せて走っていく車体、あるいはハンドルを握る自分の幸せというか……。僕のイメージではワゴン車って幸せの象徴で、その幸せを運んでいろんな世界を見に行っている人たちだったり、「愛にこだわれ」というのも“ここにある愛”にこだわって生きていく、という。実は表題曲にも近いテーマなんです。

 ――今回のシングルでアニバーサリーイヤーの幕が開けたわけですが、「こんな歌にも挑戦したい」という展望はありますか。

 今回の曲は違いますけど、最近はちょっと攻撃的な曲が多いなと自分でも思っていて、もうひと毒盛りたいなと(笑い)。パンク精神ですね。パンクとはほど遠い声質なんですけど、シングルの系譜でいうと「告白」「グロテスク feat.安室奈美恵」「ソレデモシタイ」っていうわりとトゲのある曲と、甘くて柔らかいスローバラードを歌う平井堅というのを共存させながら、怒りも含めてパンクなものを作りたいなと思っています。次のアルバムに向けては、そういう軸をもう少し増やしていきたいなと思ってます。

 <プロフィル>

 1972年1月17日、大阪府生まれ、三重県育ち。95年にシングル「Precious Junk」でデビュー。00年にリリースした8枚目のシングル「楽園」でブレークを果たす。ドラマ「ナポレオンの村」に主演する唐沢寿明さんと音楽番組の生放送で約20年ぶりに再会し、「デビュー間もない頃、唐沢さんの舞台を見に行って、楽屋にごあいさつに行ったことがあったんです。難しい舞台だったので『よく分からなかったでしょ?』って言われて。その時はもう唐沢さんはスターっていう感じで、僕は全然駆け出しだったんで、覚えてないだろうと思って、先日お会いした時はあえて言わなかったんです。そうしたら、なんか覚えてらっしゃったみたいで。だから実際には“(初めましてではなく)2度目まして”だったんですけど、あんまりオン・オフがない気さくな方だなと思いました」と話した。

 (インタビュー・文・撮影/水白京)

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