注目映画紹介:「日本のいちばん長い日」 終戦までがスリリングに展開 本木雅弘の好演光る

「日本のいちばん長い日」のワンシーン (C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会
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「日本のいちばん長い日」のワンシーン (C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

 半藤一利さんによるノンフィクションを、原田眞人監督が映画化した「日本でいちばん長い日」が8日から公開される。おそらく半藤さんは膨大な取材をした上で本書を書き上げたと推察される。そこに登場するおびただしい数の人々の行動を、原田監督はどのように映像化するのだろうと期待と不安が相半ばしていたが、果たして……ジャンルは違えども先に公開された原田監督の人情喜劇「駈込み女と駆出し男」に続いて見応えのある歴史作品に仕上がっている。

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 1945年7月。日本政府はポツダム宣言の受諾を連合国から迫られる。降伏か本土決戦か……連日連夜続く閣議。しかし一向に結論が出ない。そんな中、広島と長崎に原爆が投下され、もはや自分たちでは決断は下せないと判断した鈴木首相(山﨑努さん)は、天皇陛下(本木雅弘さん)の“聖断”を仰ぐことにする。一方、終戦に反対する畑中陸軍少佐(松坂桃李さん)ら青年将校たちはクーデターを計画し……というストーリー。

 先の戦争で無敗を誇った日本陸軍において、ポツダム宣言を受諾し無条件降伏することは矜持(きょうじ)に懸けてできない。しかし、ポツダム宣言受諾を天皇陛下が決断なさったのなら、それに従わざるを得ない……和平か抗戦かで葛藤する阿南陸軍相(役所広司さん)を中心に、鷹揚(おうよう)と閣議を動かしていく鈴木首相、日本の将来を思うあまり狂気に駆られた行動をとる畑中少佐らの、8月15日までの心の動きがつぶさに、しかし勢いを削ぐことなくスリリングに展開していく。御文庫や宮城(天皇の居室)、首相官邸、陸軍省の建物など歴史的建造物も見事に再現されており、あのような場所をよく見つけてきたものだとおそれ入る。

 原田監督は、岡本喜八監督、橋本忍さん脚本の1967年版「日本でいちばん長い日」では登場しなかった昭和天皇をあえて登場させた。その昭和天皇を本木さんが粛々と演じ、おそらく実際の陛下もこのような方だったのだろうと思わせる人柄を見事に表現している。この役を受けるにあたっては相当な覚悟がいったはずだ。義理の母の樹木希林さんが背中を押したというが、挑んだ本木さんの勇気をたたえたい。ほかに堤真一さん、木場勝己さん、神野三鈴さん、キムラ緑子さん、松山ケンイチさん、戸田恵梨香さんらが出演。豪華キャストが織りなす空気感が、今作を一層見応えあるものにしている。8日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)

 <プロフィル>

 りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(1978年)と「恋におちて」(84年)。

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