名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
7月から放送された“夏アニメ”が軒並み最終回を迎えた。週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴する“オタレント”の小新井涼さんが、今回も“夏アニメ”を全話見て特徴を分析した。
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主人公の前に立ちはだかる敵というのはどんな作品の中でも重要な役割を担っています。
残忍な暴君やどこか憎めない悪の秘密結社など、インパクトが強く忘れられない存在であることが多いのですが、今期はそれとは違った意味で敵の存在が印象に残る作品がいくつかありました。
一目で主人公たちとの対立がわかるのではなく、群衆にまぎれ、完全に悪とは言い切れないような“不特定で不明瞭な存在”として敵の姿が描かれていたのです。
例えば「ガッチャマンクラウズ インサイト」における敵は、人々が生み出した“空気”でした。目には見えない上に、時にはガッチャマンたちを応援し、追い風にもなりうる存在です。それにもかかわらず、最終的にはゲルちゃんよりも倒すべき敵として妙に納得できてしまう相手でもありました。行き過ぎると流されるだけになってしまう“空気を読む”という行為に対して、美徳と思う一方で、倒すべき敵にもなりえるという認識を実は私たちも持っていたのかもしれません。
「乱歩奇譚 Game of Laplace」では、倒すべき敵である“二十面相”が、ナミコシの計算式によって群衆の中で際限なく増殖し続けます。顔のないモブ(群集)の中に突然現れるドクロ顔という描写は、ミナミ検視官をはじめ、アケチを取り巻く群衆の誰が敵で誰が敵ではないのかを不明瞭にさせるものでした。事件後の、いつどこで誰が二十面相になるか分からないという状況も、発症するかしないかで善悪が変わる潜伏中のウィルスのように、二十面相の存在を不特定で曖昧なものにしています。
敵でもあるし、状況によっては味方にもなりうるという曖昧さからいうと「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」で、SOXのメンバーが立ち向かう“健全な社会”というのもそうでした。最初は敵であった公序良俗健全育成法を信じる人々は、禁止されていたものに興味や関心を抱くようになった途端、逆に健全な社会に反抗する味方となります。そんな逆転劇によって、実はSOXが戦っているのは健全な社会などではなく、その中に紛れている本当の倒すべき敵であることがみえてくるのも面白いです。
上記のタイトルとは少しテイストが異なりますが、「がっこうぐらし!」における“彼ら”の存在も、本当に敵か分からないまま立ち向かわなければいけない不明瞭なものとして描かれています。中にはかつての知り合いも混じっているという状況も、彼女たちの「彼らは本当に倒すべき敵なのか」という疑問や不安をさらにかきたてるものでした。
今期アニメの中で印象的だった敵を見て思い出したのは、今ではすっかり日常的になったネットにおける私たちの存在とコミュニケーションです。
表示される情報は嘘か事実かわからず、昨日までそこにいたアカウントが消えて他の場所で別人として振舞っている……。そんな不特定で不明瞭なネット上での人々の存在が、“空気”や“二十面相”、“健全な社会”や“彼ら”という存在と似ているように感じたのかもしれません。
このような敵がさまざまな作品で見受けられた今期は、ある意味そんな現代社会の特徴が色濃く反映されたクールであったといえるのではないでしょうか。
そんなまとめをしつつ、最後は上記の作品以外からの“個人的”ベスト3を紹介しながら締めさせていただきます。
1位「Classroom☆Crisis」
労働闘争やお家問題などの社会的な要素と、恋愛や学園ものという娯楽的な要素の相反する特徴がバランスよく共存し、それが魅力的なキャラによって展開されるという堅実なのに見易いドラマに最後まで夢中にさせられました。
2位「監獄学園」
お色気やお下品な要素があれだけあからさまに描かれているのに笑いながら、時には感動さえ覚えてしまうのは、一見馬鹿馬鹿しいことを全力で行う男子たちがどこまでも真剣なのが伝わる熱さがあるからだと思いました。実はとても真摯(しんし)なところが魅力的な作品でした。
3位「アイドルマスターシンデレラガールズ」
冒頭からのシリアスな展開がいきなり1期と対照的で、2期を通して舞踏会に行く前のシンデレラの苦悩をほうふつとさせられました。卯月の「笑顔なんて誰でもできる」という言葉は見ているこちらの胸にも刺さり、華やかなだけではない、重い人間ドラマの要素にも泣かされました。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。
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