マシ・オカ:「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」を語る 「なんちゃって日本」に四苦八苦

「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」にヒロ役で出演したマシ・オカさん
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「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」にヒロ役で出演したマシ・オカさん

 全米で2006年から放送がスタートし、日本でも大ヒットしたテレビシリーズ「HEROES/ヒーローズ」が、装いも新たに帰って来る。その13話からなる新シリーズ「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」が、現在動画配信サービス「Hulu」で配信中だ。それに先駆け、前シリーズで時間を止める能力を持つヒロ・ナカムラ役でブレークし、今作でも同じ役で出演しているマシ・オカさんが9月に来日。新シリーズについての見どころや作品に託した思い、また最近乗り出したプロデューサー業と自身が関わるハリウッド版「デスノート」についてなど、幅広く語った。

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 ◇新旧の能力者たちが活躍

 「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」は、特殊能力を持つ“能力者”たちの存在が明るみに出てから5年後という設定で始まる。米テキサス州オデッサで凶悪テロが発生。その原因とされ、世間から逃れて暮らすことを余儀なくされていた能力者たちは、やがて、数々の活躍を繰り広げてきたかつての能力者たちと出会い、彼らと力を合わせて巨大な陰謀に立ち向かっていく……というストーリー。

 テレビシリーズ「CHUCK/チャック」(07~12年)のザカリー・リーバイさんが新たな能力者の一人を演じるほか、マシ・オカさんはじめ、前シリーズでMr.ベネットを演じたジャック・コールマンさんや、マット・パークマン役のグレッグ・グランバーグさん、モヒンダー・スレシュ役のセンディル・ラママーシーさん、“ハイチ人”役のジミー・ジャン・ルイさんが出演。マシ・オカさんは全13話のうち3話に登場するといい、「時空の中にはちょこちょこ入るみたいです」と自身の役柄を説明する。

 ◇寝耳に水だった新シリーズ

 マシ・オカさんにとっては5年ぶりのヒロ役だが、「何年間もやっていたので、(役に)入り込むのはそんなに難しくなかった」と話す。米国では「テレビで演技をするときは、必ず役者さんは自分の一部分を強調するという考え方がある」ようで、また、テレビシリーズの場合、「脚本は役者に寄せていく」傾向があったり、「ヒロは、僕の純粋さや好奇心を強調した」キャラクターだったこともあり、5年のブランクは感じなかったという。

 とはいえ今回のシリーズは、マシ・オカさんには寝耳に水の話だった。「HEROES/ヒーローズ」は、10年に放送が終了。日本では「ファイナルシーズン」とうたっていたが、米国では「尻切れとんぼの形」だった。そのためマシ・オカさんの中には多少の「モヤモヤ感は残っていた」が、今回のオファーは「(ヒロの決めぜりふの)ヤッター!というより、なんじゃ?というサプライズの方が大きかった」と明かす。

 というのも2014年、「HEROES Reborn」のロゴと「Coming Soon」という文字が突然テレビで15秒間流れ、それを見て初めて新シリーズの構想があることを知ったからだ。さすがにそのときは「HEROES/ヒーローズ」のOBたちと連絡を取り合い、「知ってる? 知ってる? 聞いたことある?とやったが、誰も聞かされていなかった(笑い)」という。事情がのみ込めたのは、「明日、時間ある?」とその夜かかってきたシリーズの生みの親で製作総指揮のティム・クリングさんからの電話と、その後、設けられたミーティングによってだった。

 ◇今回は二刀流

 今回マシ・オカさんは“ゲスト”の位置づけだが、「大半は未来のヒロ」で、「だいたい1種類から20種類くらい……(その数字の)どこかの間の(種類の)ヒロを見ることができる(笑い)」と紹介する。また前作に続き、刀を使ったアクションが結構あるそうで「今回はパワーアップして二刀流なんですね。でも、ちゃんとした二刀流じゃなくて短刀を使うので、侍というより忍者っぽい。アクションも、中国のマーシャルアーツ系に寄せている」と解説。さらに今回はあまり日本語を話すシーンがなく、「逆に、前作品のオマージュ」が多く、「『ヤッター!』もそうですし、『Great Scott!(これは驚いた!)』とか、8割がた以前いったようなせりふ」になっているという。

 ◇ヒロの社長室は「中華飯店」?

 前作では、日本の文化を理解してもらえず苦労したというマシ・オカさんだが、それは今回も同じようで、「なんちゃって日本ばっかりです」と苦笑する。日本の視聴者には、それを「楽しむというふうな感覚でいてください」とアドバイスする。

 「一つ例えれば」と自身のスマートフォンを触りながら見せてくれたのは、撮影現場で撮った「中華飯店始めたの?というぐらい(笑い)」の、竜宮城のような部屋の画像。さすがにそれを前にしたときには、「これちょっと違いますよ」と進言したそうだが、スタッフから「ノー、ノー、ノー。うちのアートディレクター(美術担当)がリサーチして、我々は素晴らしいと思っている」と反論され、「そこまで豪語されちゃうと何も言い返せない(笑い)。このセットを遠まきに見ていて、また何かやらかして、大丈夫かな、しょうがないなと思っていた」ところ、なんとそこが、ヒロ・ナカムラの社長室であることを本番直前に知り、「もうちょっと早くいえばよかった(笑い)」と後悔したという。

 ◇プロデューサー業にも進出

 ところで、マシ・オカさんは、「HEROES/ヒーローズ」でブレークする以前は、ジョージ・ルーカスさんの会社インダストリアル・ライト&マジック(ILM)社の社員だった(現在も籍はあるという)。当時は「スター・ウォーズ」エピソード1~3(1999年、2002年、05年)や「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」(06年)といった作品で特殊視覚効果(VFX)に携わり、「ILM社員としてVFXでアカデミー賞をとり」、あわよくば「いつか監督ができればいいな」くらいにしか考えていなかったという。しかし「HEROES/ヒーローズ」に出演したことで「いろんな道が開け」、最近ではプロデューサー業に進出。今、自身でかんでいるのは、大場つぐみさん原作、小畑健さん作画の日本の人気マンガをハリウッドが実写映画化する「デスノート」だ。

 ハリウッド版「デスノート」についてマシ・オカさんは、取材当時、「まだ決まったわけではないですけど」と前置きし、「プロデューサーとしての発言権」を活用し、キャストに日本人の俳優を一人入れてもらえるよう働きかけているという。「最終的にはみなさんの実力もあるし、日本と違ってアメリカはオーディションなので、ちゃんと実力がないと勝ち取れないんですけれど、そういう機会を与えることは協力できますから。内部からしかできないことはいっぱいあるので、現地にいる僕ができることはしようと思っています」と海外での活躍を目指す次の世代の日本人を応援する構えを見せる。

 ◇「日本の応援隊長になれればいい」

 そういった姿勢の裏には、二つの思いがある。まず、「日本人から見ても、世界中のファンから見てもちょっと残念」な作品を、これ以上増やしたくないということ。ハリウッドはこれまで、日本のマンガやゲームの実写映画化に挑み、「DRAGONBALL EVOLUTION」(09年)や「スーパーマリオ/魔界帝国の女神」(1993年)といった作品を作ってきたが、いずれも成功したとはいい難い。マシ・オカさんは「もちろん製作までいろんな課題はありますが、やっぱり日本のスタッフが一人でもいれば、ちょっとは(ハリウッド流の)修正から守れることがあるのでは」と考えている。

 もう一つは、2011年の東日本大震災だ。「やはり大震災が起きてから、日本の素晴らしさを大実感して、日本国内にいるとその素晴らしさが見えなかったことも、海外に行くと初めて見えてくる。日本人があまりしないことは、自分のプロモーションとかマーケティング、またはネゴシエーション(交渉)。失礼な言い方ですけど、その二つが、やっぱりビジネス的に劣っているかなと思います。そういう意味で、(日本の)応援隊長になれればいいなと……」と心の内を明かす。

 そして、「日本では、自分たちはすごいんだと言わないじゃないですか。ですから逆に、米国で僕らが言うことによって、日本のプラスにもなるし、特に、前作の『HEROES/ヒーローズ』のお陰で、自分で言うのもなんですけど、日本国外でなら、世界でトップ3に入るぐらいの知名度が、日本人の役者としてあると思うので、せっかくそういう立場に立たせていただいたので、それはやっぱり責任があると思いますね。自分にできることは何か……僕ももう40歳なので、だんだん自分のライフワークは何かと考え始めて、考え方はアメリカ人だけど心は日本人なので、日本人のプライドと誇りを持って、皆さんのために何かできればいいなと思います」と一気呵成(かせい)に話す。

 ◇今作は次世代のためとファンへの恩返し

 さて、「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」に話を戻すと、「HEROES/ヒーローズ」に出合うまでは、「役者を辞める覚悟だった」というマシ・オカさん。「ヒーローズ」が「人生の転機」になり、「チャンスをもらった」という意識が強い。だからこそ今回の作品には、「出てくるOBたちと話しましたが、我々は、いわゆるバトンを渡す。次の世代に道を開いてあげて、それを成功させるために力を貸すという感じ」なのだという。

 そのバトンを受け継ぐ一人が、今回、能力者の一人で、日本人女性ミコを演じる祐真(すけざね)キキさんだ。祐真さんのオフィシャルサイトによると、祐真さんは、京都府出身の現在26歳。22歳で米ロサンゼルスに渡り、以来、エキストラやウェブサイトのドラマ出演、イベントでのモデルなどをこなし、今回「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」のオーディションに合格、ミコ役を手にしたそうだ。日本刀を片手にアクロバティックな動きを見せる祐真さんとのからみは、マシ・オカさんによると「はっきりいってゼロ」だそうだが、食事は何回か一緒にしたそうで、そのとき「今後の戦略について、いろいろアドバイスしました」とのこと。

 マシ・オカさんは、「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」について、「もちろん、我々が作った番組ですけれど、今の番組は我々のものではない」といい切る。そして、「次の世代に受け渡すような感じですね。今回やるのは、ファンの方々への恩返しとか、クリエーターさんたち……彼らがいなければ今の僕はないので、(今回番組に出演するOBの)僕らは本当に、特に僕はこの前は何もなかったので、その意味では少しでも恩返しができればいいなと思っています」とかみしめるように語った。「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」は、現在「Hulu」で独占配信中(毎週火曜日1話ずつ配信予定)。

 <プロフィル>

 1974年生まれ、東京都出身。本名は岡政偉(おか・まさより)。6歳の頃に米ロサンゼルスに渡る。幼少期、IQ189の判定を受ける。ブラウン大学では数学及びコンピュータサイエンスを専攻、舞台芸術副専攻。卒業後、サンフランシスコにあるインダストリアル・ライト&マジック社の研究開発部門に就職。「スター・ウォーズ」エピソード1~3(1999年、2002年、05年)などの特殊視覚効果に携わる。演劇キャリアを積むために同社ロサンゼルス支店に異動を希望し、俳優としての活動開始。テレビシリーズ「HEROES/ヒーローズ」(06~10年)のヒロ・ナカムラ役でブレークし、現在は「HAWAII FIVE-0」(10年~)にレギュラー出演中。ほかに映画出演作として「ゲットスマート」(08年)や「ステイ・フレンズ」(11年)などがある。最近プロデューサー業にも進出。ハリウッド実写版「デスノート」に関わっている。

 (インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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