水曜日のダウンタウン
名探偵津田 第3話 怪盗vs名探偵~狙われた白鳥の歌~
12月18日(水)放送分
俳優の西島秀俊さんが主演した映画「劇場版 MOZU」(羽住英一郎監督)が7日に公開された。「MOZU」は、作家・逢坂剛さんのハードボイルド小説が原作で、2014年4月からTBS系でシーズン1(全10話)、同年6月からWOWOWでシーズン2(全5話)を連続ドラマとして放送。公安のエース・倉木尚武(西島さん)が、殺し屋・百舌(モズ)の存在の謎や公安の秘密作戦にまつわる悲劇、国家を揺るがす策略などに迫る姿が描かれた。その続編で完結編となる劇場版では倉木が妻の死の真実にたどり着いてから半年後を描く。フィリピンで大規模ロケを行った今作への思いを主演の西島さんに聞いた。
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映画は、気力を失った倉木、警察への不信感から警察をやめ探偵事務所を開いた大杉(香川照之さん)とともに謎を追っていた明星(真木よう子さん)の3人が、同時に起きた二つの過激テロの犯人を追ううちに、裏で暗躍していたシリーズの最大の謎でもある巨悪「ダルマ」の正体にたどり着く……というストーリー。ドラマ版に引き続き「海猿」「暗殺教室」などを手掛ける羽住監督が手掛けた。
――ついに劇場版が公開ですが、こんなに「MOZU」が受け入れられた理由を西島さんなりに分析すると?
第1話が完成したときに、これはいくらなんでもやりすぎだろうというのが正直あって(笑い)。登場人物の説明もなく進んでいくという、主題歌、挿入歌もないし、いきなり謎だらけで終わって。ストーリーは素晴らしい原作がありますけど、小説ならではのトリックなので、それをどう映像化するのかと思いました。見たことがないような挑戦をしていることだらけのドラマ。好きだと言ってくれている人もいらっしゃって、そう言ってくださる方には感謝していますし、皆さんの力で今回、映画化したという。その方たちに少しでも楽しんでいただければなと思っていました。
――映画になって初めて作品のスケールと合う画面で見ることができたなという印象で、アクション、カースタントも映画ならではのスケール感に仕上がっています。
テレビ版はものすごいスピードで撮影していて、監督が一人で編集もしていらっしゃったので、10カ月くらい撮っていましたけれど、普通のドラマよりものすごいスピードでした。それが(劇場版は)普通のスピードでワンカットずつに時間をかけられるようになった。
劇場版になって映画のいつもの撮影のスピードで撮れたので、アクションも普通にリハーサルもやれるし、カーアクションに関してはどんなシーンでも鼻歌を歌ってやっているような感じで(笑い)。舞台を海外に置くことでやれることがたくさん増えて、アクションは日本でやり切ったような人が海外に行ったので、池松(壮亮)君や(松坂)桃李君は本当に何段もの階段を本人が落ちているし。そういうのが楽しめる人でないと参加できない現場になっていましたね(笑い)。
――名古屋ロケは物足りなかったとか。
フィリピンは本当に危なかったです。メーキング映像にもありましたけど、車が飛んでクレーンの上のカメラが落っこちています。ということはその下にはスタッフがいるわけで。フィリピンのスタッフも言葉の問題はあるし、性格も違うのでどうなるか分からないという。俳優とカメラが載っているからぶつけないでと言っているのに本番でバンバンぶつけてくるとか。いい画は撮れるんですけど、監督も「あと2テークやったら死人が出るな」と、だからもうやめようという。
そういうのに比べると日本で撮影すると意思の疎通は図れるし、周りに危ないものはもちろん落ちていないし、誰かが急に車の横から入ってくることもないし。フィリピンでは街中を走っても全然打ち合わせと違うように車や人が動いてくるので、ただ走ることでも怖いんです。けがしてもいいやと覚悟しながらやらないといけなかったんですけど、それに比べるといいですね、日本でのアクションは安全で全然怖くなかった。
――そういう意味では刺激を求めていた?
そうですね。なかなか自分でやらせてくれる現場ってないんですけど、やれるのであればもっとキツいアクションを僕はやりたい。飛行機にぶら下がったりしたいですよ、やれるものなら(笑い)。そういうことをやらせてくれる現場には感謝しています。
――アクションのために体重を5キロ増やして現場に向かったと聞いていますが、具体的にはどんなトレーニングを?
5キロといっても筋肉量で増やすという感じです。それだけ激しいトレーニングをして。とにかく今回は身長190センチの人と戦わなくてはいけない。ちょっとでも(筋肉を)つけてないと、それでも肋骨(ろっこつ)にひびが入ったりしたので、できるだけ自分の体を守るという意味で。ただ太るというよりちゃんとトレーニングで体を大きくしました。撮影中はとくにフィリピンは毎日朝から撮影していたので、なんとか肉体をキープするようにするという感じでした。
――ビートたけしさんの黒幕のダルマの演技を近くで見て、いかがでしたか。
俳優・ビートたけしさんとは今回初めてご一緒しました。北野武監督としてはもちろんお会いしたことがあるんですけれど。たけしさんは監督としてはもちろんですけれども、最も尊敬する俳優の方です。俳優としても規格外ですね。日本の俳優の範囲に収まらない演技をされる方で、たけしさんという稀有(けう)な人生を歩んでいる人の演技なので、自分の演技の参考にはならないな、という。
もちろん勉強になりました。自分は何になりたかったんだということをもう一度目の前に突き付けられたし、たけしさんにも「もっと崩したらいいんじゃない」と言われて今も悩んでいるし、やっぱり劇場版に登場するダルマと同じくらい謎な存在で、何か自分にとっての命題を投げかけてくださる人。
――たけしさんがダルマを演じると聞いてどう感じましたか。
テレビシリーズが終わったときに「ダルマはどうなったんだ」って周囲にすごく言われて。物語の背景にある最大の謎なわけで、それは描けないでしょうと。たけしさんが出てくださるということで、劇場版はダルマの謎が前面に出ました。羽住監督もたけしさんがキャスティングされなかったらダルマはもっと背景になっていたと言っていたし、この「MOZU」のチームにとっては本当に信じられない幸運です。一番の大きな謎が描けたというのは、たけしさんが参加してくださったお陰です。
――倉木は昨日まで仲間だと思っていた人が死んだりして、いろんな大切なものが失われている。西島さんはお仕事や大切なものを奪われたらどうなると思いますか。
どうでしょう。自分のことはあまり気にならないんですけど、確かに周りのスタッフだったり、関わっている人、もちろん家族、友達が侮辱されたりしたら普通の人以上に憤るタイプかもしれないですね。普通に怒りますけど、殴りかかるとかそういうことはないです。(頭の中で)怒りを感じて……。
――倉木は大変な目に遭いますが、西島さんご自身はつらいと思うことでも真実を知りたいと思うタイプですか、それとも知らなくていいと思うタイプですか。
僕自身は知らなくていいことは知らなくていいと思うタイプなんですけど(笑い)。演じるキャラクターとしては、周りがノーと言っていても自分のある信念にしたがって生きるという役柄は好きで。最終的にみんながいいじゃないかと言っているのに自分の信念で突き進んでいく、そこに僕は倉木の魅力を感じています。
――西島さん自身が倉木という男を客観的に見てどう思いますか。
原作でもそうですけど、倉木はどこか背景というか、人間らしい部分はなくなっちゃった人。僕はこういうキャラクターは好きですけれど、とにかく周りが見えなくなって突き進んで破滅に向かっていく男は、客観的に人としてどうかといったら全然間違っている。やっぱり「MOZU」の精神的な柱は大杉だし、本当の主役は池松君のMOZUなんですね。タイトルにもなっているし、記憶をなくした殺し屋が記憶を取り戻していく。その中で自分の生い立ちを知っていく、それが「MOZU」の主役なのかな、というのは思っていました。
倉木は物語を転がしていく道具ではあるけれども、この人は動かない。倉木は表には出さないけど、内面は悲しみとか苦しみとか後悔とかが渦巻いている人。それがときどき暴力という形で表に出る。笑顔とか人間らしさの部分は演じてもカットされていくから、そういう意味で正直難しくて、ほぼ怒りしか感情表現がなくて苦しい、決してやりやすい役ではなかったですね。
――西島さんの俳優人生の中で「MOZU」でどんなことを得ましたか。
本当にいろんなものを得ました。ここでは役に没頭する方向であれば、何をやってもいい。だから悪役の人もありえないくらい演技をしているわけで、「MOZU」の大きな魅力は悪役がすごく輝いていて、それぞれの役者さんたちが他の現場では見たことがないような演技をしている。僕も結構悪の側ですが、香川さんが演じる大杉がキーマンで、大杉が人間らしいキャラクターとして筋が通っている。そこに人間らしさ、見ている人の共感を寄せてもらって、あとの人は自由にやっているっていう(笑い)。悪役は皆さん暴れて帰っていきました。本当に楽しいですよ。こんな演技、他の作品じゃ見られないだろうし。こういう現場に出合えて本当にありがたかったです。
みんながおかしいから普通という。もしかしたら「MOZU」がきっかけだったのかもしれないですけれど、今やっている「無痛~診える眼~」(フジテレビ系)というドラマでも役者さんたちが本気でのめり込んでいる。そういう現場が続いている気がしますね。
<プロフィル>
1971年3月29日生まれ、東京都出身。94年、「居酒屋ゆうれい」で映画デビュー。主な出演作に「ニンゲン合格」(99年)、北野武監督の「Dolls」(2002年)、「帰郷」(05年)、「サヨナライツカ」(10年)、「CUT」(11年)、「ストロベリーナイト」(13年)、「脳内ポイズンベリー」(15年)など。公開待機作に「女が眠る時」「クリーピー」がある。「MOZU」は第43回国際エミー賞連続ドラマ部門にノミネートされ、「こういう文芸作品でないエンターテインメント作品でこれだけ正義のないお話がノミネートされて本当に光栄」と語った。羽住監督とは「今回はアクションだったので、ノワールが撮りたいですね」と話しているという。
(取材・文・撮影:細田尚子)
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