超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、オーストラリアの最新ゲーム事情について語ります。
ウナギノボリ
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ゲームに対する産業支援が世界中で進んでいる。オーストラリア第2の都市メルボルンもその一つで、国やビクトリア州による支援策を背景に、インディーズ(独立系)ゲームのスタジオが集まっている。10月23日~11月1日まで続いた「メルボルン国際ゲームウィーク」はその象徴で、新たな産業クラスターの成長が感じられた。
ゲーム開発者会議のGame Connect Asia Pacific(GCAP)、一般消費者向け展示会のPAX(Penny Arcade Expo=パックス)オーストラリア、優れたゲームを表彰するAustralian Game Developer Awards(AGDA)。これらはイベントのハイライトだ。GCAPは約500人、PAXは約6万人の集客を記録し、ゲーマーやゲーム開発者で街は盛り上がった。
特にPAXオーストラリアが2013年に誘致された影響は大きく、市場の活性化にもつながりそうだ。オーストラリアとニュージーランドのゲーム業界団体であるInteractive Games & Entertainment Association (IGEA)は、2014年の市場規模が24億6000万豪ドル(約2100億円)で昨年度比で20%と発表しており、既に効果が表れ始めている。
最もオーストラリアのゲーム産業は、これまで外資に翻弄(ほんろう)されてきた。1980年代にPCゲームを中心に誕生後、1990年代から2000年代にかけて地元の有力企業がEA、2K、THQといった欧米の大企業に買収される形で発展した。しかし2008年のリーマン・ショックを契機に、大企業の撤退が相次ぎ、多くのゲーム開発者が失職したのだ。
その一方でApp StoreやGooglePlayがスタートし、先行したPCゲーム向けデジタル流通プラットフォームのSteamと並んで、個人でもゲームを作って配信できる環境が整った。これにより地元に残ったベテラン勢がインディーズゲーム開発者に転向する例が続出。2010年にリリースされた「フルーツ忍者」(ハーフブリック・スタジオ)などのヒット作もうまれた。
こうした変化に行政も呼応し、2012年にはオーストラリア政府が3年間で2000万豪ドル(約17億円)のゲーム産業支援策を発表。2014年にはビクトリア州政府も3年間で150万豪ドル(約1億3000万円)の支援を開始している。中でも州政府の外郭団体フィルム・ビクトリアによる8万豪ドル(約700万円)の創業支援はインディーズゲーム開発者向けに人気が高い。
2013年にはオーストラリアのゲーム業界団体Game Developers’ Association of Australia(GDAA)の旗振りで、共有のワーキングスペース「The Arcade Melbourne」がメルボルン市内にオープンした。同施設は非営利団体によって運営され、インディーズ系企業28社が低料金で入居するほか、学生や個人などの一般利用もできる。
入居企業には2014年に「クロッシーロード」で大ヒットをとばしたヒップスターホエールなど、伸び盛りのスタジオが並ぶ。もっとも、ほとんどが5~6人の小所帯で社歴も4~5年と若く、ノウハウや人材の交流も盛んだ。PAXオーストラリア前日の10月29日には施設がメディアや業界関係者向けに公開され、新作ゲームをいち早く試す人々でにぎわった。
日本とオーストラリアは時差が少なく、対日感情も良い。毎年2%強の経済成長を続けるなど、経済も好調だ。中でも人口400万人を数えるメルボルンは治安も良く、移住したい都市として世界中で人気が高い。日本企業の多くは現在、東南アジア市場に注目しているが、オーストラリアとの協調についても、視野を広げても良さそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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