注目映画紹介:「恋人たち」 橋口監督7年ぶり長編 絶望から希望の変化の瞬間を巧みにすくい取る

映画「恋人たち」のワンシーン (C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ
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映画「恋人たち」のワンシーン (C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

 橋口亮輔監督が「ぐるりのこと。」(2008年)以来7年ぶりに手がけた長編作「恋人たち」が、14日から公開される。この間、橋口監督は、若手俳優のためのワークショップから生まれたオムニバス映画「ゼンタイ」(13年)を手がけている。その「ゼンタイ」に出演していた篠原篤さんと成嶋瞳子さん、また池田良さんという無名の新人俳優を主役に起用し撮り上げた。3人を、光石研さんや安藤玉恵さん、木野花さんらベテランの個性派俳優が脇で支える。彼らが演じる人々の日常をつづることで、人とのつながりの大切さや人間の不器用さといとおしさを、今一度気づかせてくれる感動作に仕上がっている。

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 数年前に通り魔殺人によって妻を失った篠塚アツシ(篠原さん)は、橋梁(りょう)点検の仕事をしながら裁判のために奔走していた。弁当屋でパート勤めをしている主婦の高橋瞳子(成嶋さん)は、取引先の男(光石さん)と出会ったことで、味気なかった生活に変化が訪れる。同性愛者の四ノ宮(池田さん)は、学生時代の友人(山中聡さん)への思いを胸に秘めながら、エリート弁護士として働いていた。彼らがそれぞれに壁にぶつかりながら“当たり前の日常”の大切さに気付いていく……というストーリー。

 これは、特別なカップルの物語ではない。にもかかわらず付けられた「恋人たち」というタイトル。それはおそらく、目に見えない糸でつながっているこの世のすべての人々、つまり私たち自身を表現したものなのだと思う。私たちは、ときに残酷な体験をし、絶望という深みにはまることがある。しかし、ほんのささいなことをきっかけに希望の光を見つけ、そこからはい出すこともできる。そのわずかな“きっかけ”の瞬間を、橋口監督は実に巧みにすくい取っている。正直なところ、映画を見ながら登場人物すべてに違和感や不快感を抱いていた。自分と相いれない考え方を持つ彼らの仕草や理想、そしてぶち当たる現実……すべてにいら立った。しかしそれは、彼らが自分の“合わせ鏡”であり、それをまざまざと見せつけられたことによる嫌悪感なのだと気づいた。それだけに、彼らが、ささやかながらも最後に見いだす光に救われた。最後に映る青空。それは、絶望に駆られたアツシがざぶざぶと入っていった鉛色の水の暗さとは対照的だ。その青空を目にしたとき、自分の毎日、自分の存在、自分の思考、そういったものを、「それでいいんだよ」と肯定されたようで、前を向いて進んでいける気になれた。アツシの上司、黒田の言葉や態度にも救われた。演じているのは黒田大輔さん。ほかに、内田慈さん、山中崇さん、リリー・フランキーさんらが出演。14日からテアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)

 <プロフィル>

 りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。

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