ゲーム業界展望:注目される任天堂のスマホ戦略 ポスト岩田が鍵 「ファミ通」浜村弘一さん語る

ゲーム業界の展望について語るカドカワ取締役の浜村弘一さん
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ゲーム業界の展望について語るカドカワ取締役の浜村弘一さん

 任天堂のスマートフォン事業参入、同社の岩田聡社長死去、新作「ドラゴンクエスト11」の発表などさまざまなことがあった2015年のゲーム業界。ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するカドカワの浜村弘一取締役に2015年を振り返りながら、今後の展望などを聞いた。

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 --2015年で最も驚いたニュースといえば、任天堂社長・岩田聡さんの死去です。

 岩田さんはゲーム業界を引っ張っていた人で、任天堂の戦略を見て社の方針を変える人がいたぐらいですから、影響は任天堂だけの話ではありません。ただ岩田さんがスマートフォン市場への参入、新型ゲーム機の発売と、向こう3年の戦略を決定していたので、任天堂に今すぐ大きな混乱はないと思います。むしろ、その3年後の意思決定をどう作っていくかが大事ですね。

 --WiiUは、うまく普及せず厳しい状況だったのでは?

 WiiUは、2014年度と2015年度の上半期を比べると売れた台数は46.6%増でした。またSNSを活用して「マリオメーカー」や「スプラトゥーン」で独自のプロモーションを実施して成功したように、任天堂がモノの売り方、伝え方を変えてきたように思えます。特に「スプラトゥーン」は、“人殺し”ゲームだった「FPS(ファースト・パーソン・シューティング)」自体の概念を変えてしまいました。女性が全国大会に出場できるようなゲームは、他にないですよね。任天堂は、東京の流行に振り回されず、独自のスタンスを持てる会社だなと改めて考えさせられました。

 --任天堂のスマホゲーム参入の注目ポイントは?

 スマホでどのようなビジネススキームを組むかです。ゲーム機のビジネスでは、サードパーティーからロイヤリティーを取っていました。スマートフォンのビジネスでは、売り上げの3割をアップルに取られるわけで、そこをどうするか気になります。

 --次世代ゲーム機「NX」も気になります。

 まだ情報がない状況ですが、来年には形を見せれてくれるはず。ただ、任天堂はゲーム機を出すときに、(ゲームの最大商戦期である)年末のクリスマスシーズンを逃すことはほぼありません。仮に発売が来年だとしたら、年末にお目見えすることになるわけで、(発表があるであろう来年春の)E3が楽しみですね。

 --まだプラットフォーマーであることをあきらめるつもりはなさそうです。

 そうでしょうね。プラットフォーム事業を続け、その上でスマホ事業を展開するのだと思います。任天堂が言っていることは、これまでも一貫しているのですが、Wiiのコントローラーの発表時のように、核心の情報に関しては、なかなか触れないことがあります。ですからNXでも核心の情報を最後まで出さない可能性はありますね。もしかしたら岩田さんから何かのサインが出ているのだけど、今の我々が気づいていないのかもしれません。

 ◇アップルの戦略に異質感

 --ソーシャルゲームの動きは?

 これまでのソーシャルゲームは、サービスが前面に出すぎていました。ですがスマホのメインがネイティブアプリになってから、ゲームの中身で勝負するようになりました。ゲームショウでスマホのメーカーが多かったのは、ユーザーが重複してきたからですし、ソーシャルゲームのテレビCMで、クリエーターの名前を出すようになってきたように、今後はクリエーター自体をアピールする形になると思います。

 --特に注目しているソーシャルゲームのメーカーは?

 コロプラですね。元は位置ゲームをしていたメーカーで、今はVRにも力を入れています。サイゲームスは、PS4にもタイトルを出すべく動いていて、ハイエンドゲームも制作できるようになりつつあります。これらソーシャルゲーム会社は、アニメを出したり、アーケードをやったり、ユーザー層を広げる試みが多いと思います。

 アップルやグーグルなど、ゲーム業界に新しいプレーヤーが出現し、力を持ち始めました。

 ちょっと異質な感じは受けますね。例えば任天堂は、「新しい遊び」を作るためにハードの仕様を変える会社ですよね。ソニーは家電メーカーですが、クリエーターを大切にしてきた歴史があり、両社ともコンテンツを大事にすることでは共通しています。ところがアップルなどは、自社のプラットフォームを売るためにコンテンツがあると思っていて、率直にいえばコンテンツを尊重しません。

 --App Store(アップストア)で人気の「モンスターストライク」の配信が突然ストップし、同時にシリアルコードが廃止されたことが、話題になりました。

 突然停止されたことが、いかにも「らしい」ですよね。他のゲームでも、突然アイテムの価格が変更されたり、「いやなら(ゲームの配信を)やめてもいいよ」といわんばかりの決定で、これまでのゲーム業界ではありえなかったことです。ゲーム会社は大きなリスクを背負っていることを感じたでしょう。アイテムの価格変更は決算にも響くことで、各社とも次のことを考える契機になるでしょう。

 --スマホでは、「PoKeMoN GO(ポケモンゴー)」という新たなコンセプトのゲームが発表されました。

 発表時の映像にもありましたが、本当に「ミュウツー」を捕まえることをやるらしいですね。(ウエアラブル端末の)「PoKeMoN GO PLUS」が点滅すると、ワクワクしちゃいますよね。僕らの子供のころにあれば、どれだけ楽しかったか(笑い)。2016年は、遊び方が変わる時代なのかもしれません。

 ◇ユーザー主導のコンテンツに注目

 --PS4の評価は?

 ゲーム機史上最高の売れ行きで、3万9980円(税抜き)という価格も考えると大成功と言えるでしょう。「日本ではPS4は売れていない。ダメだ」といわれますが、2015年に入ってから、ゲーム会社は、PS4が普及する前提で戦略を組むようになりました。ただゲーム開発に時間はかかるので、外からハッキリわかるのは2016年の年末になるでしょうか。さらにいえば、家庭用ゲーム機だけの時代ではありません。スマートフォン向けに一緒に開発するというメーカーが多くなっています。スマートフォンは普及の限界が来ているので、シェアの奪い合いになると思います。

 --「ドラゴンクエスト11」、PS4版「ファイナルファンタジー7」(FF7)の開発が発表されました。

 ハードの売れ行きを動かすのがドラクエで、「ドラクエが出たらPS4を買う」という人もいると思います。PS4と3DSという二つのハードで、どう変わるのかは興味深いところです。また「FF7」は、最高級のグラフィックで、どこまでテクノロジーが進んだものを遊ばせてくれるかでしょうか。またFF7は、3Dの世界で遊べたPRGということで海外でも受けたこともあり、世界でPRGが見直されるかもしれません。ただしPSの普及に「リッジレーサー」や「バイオハザード」が貢献したように、新ハードの普及には、完全新規のゲームタイトルが欠かせませんから、そこに期待です。

 --今年はいよいよ、ソニーのヘッドマウント・ディスプレー「プレイステーションVR」が出てきますね。

 ゲームショウなどで見えてきましたね。「サマーレッスン」やホラーゲーム「キッチン」のようなその世界に入り込むようなゲームに加え、オンラインゲーム「ファイナルファンタジー14」のタイタン戦をVRで体験できるような、ゲームらしい仕掛けも出てきました。PC、スマホにもVRが来ていますから、ゲームのボーダーレス化が進むと思います。

 --他の注目ポイントは?

 「スーパーマリオメーカー」のようなユーザー主導のコンテンツが誕生すると思います。ユーザーがゲームを制作したり、動画配信をしたり。プレー動画の配信は既に欧米のメーカーでは許可しているところもあり、盛り上がっています。日本はこれまでRPGなどネタバレ禁止のゲームが多く、「触る(動画を上げる)のはダメ」という考えがあったのでしょうが、欧米の成功を見て変わりつつあります。

 はまむら・ひろかず=1961年生まれ。86年にテレビゲームの情報誌「ファミコン通信」(現・週刊ファミ通)創刊から携わる。2013年10月からKADOKAWA常務。現在は、カドカワ(旧KADOKAWA・DWANGO)取締役。

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