松山ケンイチ&北川景子:森田芳光監督が生前望んだ「ラブストーリー“のようなもの”になった」

映画「の・ようなもの のようなもの」について語った松山ケンイチさん(左)と北川景子さん
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映画「の・ようなもの のようなもの」について語った松山ケンイチさん(左)と北川景子さん

 俳優の松山ケンイチさんが主演の映画「の・ようなもの のようなもの」(杉山泰一監督)が16日に公開された。映画は、「家族ゲーム」(1983年)や「阿修羅のごとく」(2003年)など27本の長編映画を遺し、11年に急逝した森田芳光監督のデビュー作「の・ようなもの」(1981年)の35年後を描いた作品で、松山さんの相手役を女優の北川景子さんが演じているほか、「の・ようなもの」に出演していた伊藤克信さんや尾藤イサオさん、でんでんさん、さらに、森田監督にゆかりのある俳優たちが多数出演している。森田監督が2007年に製作した「サウスバウンド」以来の共演となる松山さんと北川さんの2人に、撮影の裏話や森田監督との思い出などについて聞いた。

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 ◇かつて演じた役をお手本に

 映画「の・ようなもの のようなもの」は、松山さんが演じる脱サラし落語家になった出船亭志ん田(でふねてい・しんでん)が、兄弟子・志ん魚(しんとと=伊藤さん)との出会いによって、自分らしい生き方を見つけていくまでを描いている。尾藤さん演じる志ん田の師匠・志ん米(しんこめ)の娘で、志ん田が思いを寄せる夕美を演じたのが北川さんだ。

 松山さんが志ん田を演じるにあたりベースにしたものは、松山さんが主演した森田監督の遺作「僕達急行 A列車で行こう」(12年)の鉄道オタク、小町圭だった。松山さんは「志ん田は落語家ではありますけど、電車好きの設定や、服もすごく似ているので、小町を思い出しながら演じていきました」と語る。かつての役を思い出しながら演じたのは、北川さんも同じだった。北川さんは、森田監督の「間宮兄弟」(06年)で初めて映画に出演。そのときの役名が、今回と同じ夕美だった。衣装も当時とそっくりで、しかも、今回着た浴衣は、「間宮兄弟」で着たのと同じもの。北川さんは「間宮兄弟」を見直して、今回の夕美を演じていったという。

 ◇8年ぶりの共演

 松山さんと北川さんの共演は、「サウスバウンド」以来8年ぶり。しかし、「昔から本当に知っている友達に会ったような感じで、演じていて楽でした」と北川さんは語る。北川さんが松山さんについて、「人に気を使わせない人なんだと思うんですけど、実際、使わなかったし(笑い)、撮影の合間もずっとしゃべっていた気がする」と言うと、松山さんも「そうですね」とうなずきながら、今回の夕美役を「景子ちゃんの一部分なのかなと思いましたね。芯のある強い感じが」と表現し、「森田作品では割と多いよね、そっち系。『サウスバウンド』のときも、なよなよとしたキャラではなかったよね」と、今回の夕美との共通点を指摘。それに北川さんが「そうね、しっかりした長女の役」と応じると、松山さんは、「森田さんが、そういう役を当てているということは、景子ちゃんのそういう部分をちゃんと見ていたのかもしれないよね」と生前の森田監督をしのんだ。

 ◇森田監督の思い出

 松山さんによると、森田監督はよく、「人間って、生きているだけで面白いんだと言っていた」という。「一緒に仕事をした仲間を大切にし、組やファミリーという意識がすごく強く、和を重んじる方」で、現場は「本当に和やかで、あったかくて、笑いが絶えなかった」と北川さんも同意する。それだけに、森田監督の急逝による喪失感は大きく、松山さんも北川さんも「の・ようなもの」の続編を作ると聞いたときは、「うれしかった」と振り返る。もっとも北川さんの場合、ヒロインを演じることに「森田さんにお世話になった女優さんがたくさんいる中で、自分でいいのかな」という不安はあったものの、「声を掛けていただいたことは本当に光栄でしたから、一生懸命やりたい」という思いで臨んだ。

 ◇すべてが集約されたラストシーン

 ちなみに、今作のベースとなった「の・ようなもの」は、23歳だった頃の志ん魚を描いた作品で、ヒロインを秋吉久美子さんが演じている。松山さんが「今より若い頃」に見たときは、志ん魚の「なまりをそのままガンガン出していくキャラに衝撃を受けた」といい、また「きれいだなあと、秋吉さんのソープ嬢しか目に入らなかった(笑い)」というが、今回の撮影の前に見直したときは、ラストシーンに心を打たれたそうだ。

 「青春のすべてが詰め込まれている感じがして、『の・ようなもの のようなもの』をあのシーンから始めても、一発で青春というのをかみ締められると思うんですよね。寂しさとか、うれしさとか、希望みたいなものとか、ポジティブな感情もネガティブな感情も全部入っている気がして、すごく好きなんです。尾藤さんの曲もすごく好きだし、今回また、尾藤さんの曲が流れるんですが、それも僕、すごく好きです」としみじみと語る。これには、「間宮兄弟」のオーディションに合格したときと、やはり今回の撮影前に見返したという北川さんも同意しながら、「音楽だけで泣けるというか。あのラストシーンだけでいいかなというぐらい(笑い)。それほどあそこに集約されている。今回の映画を見たときもそう思いました」と今作の見どころの一つをアピールした。

 ◇桂子師匠との駆け引き

 今作で、松山さんが印象に残っている場面として挙げたのは、伊藤さんとともに、内海桂子師匠が演じる近所の主婦、“秋枝婆さん”の家の台所に立つシーンだ。せりふの“間”の取り方が独特だったという桂子師匠との間には「駆け引きみたいなものがあった」といい、「あの“間”も、克信さんと(笑いを)我慢するのに必死だったんですよね。この間は何?と思ったら、(せりふが)出てきたり(笑い)。それが毎回毎回違うから、マグロの漬け丼を作るのに集中していないと、とてもじゃないけどやっていけないぞ、みたいな感じだったんです(笑い)」と打ち明ける。

 ◇塚地さんのポーズにびっくり

 一方の北川さんは「いろんな方がワンシーンだけど出ている」ことは承知していたが、佐々木蔵之介さんと塚地武雅さんのシーンを目の当たりにしたときには、「『間宮兄弟』のまんまじゃないかと(笑い)。塚地さんが、まったく同じポーズをとっていることにびっくりした」と明かす。加えて、「最後の、(志ん田が)落語をしている場面と、私が走っている場面が順番に出てくるところは、台本では普通に読んでいたんですけど、あんなに感動するとは思わなかったです」と改めて映像の力を実感したようだ。

 生前、松山さんと北川さんでラブストーリーを撮りたいと話していたという森田監督。今作での共演を振り返り、松山さんが「ラブストーリー“のようなもの”になりましたね」と笑顔を見せると、北川さんも「うれしかったですね、ほんとに。やることができてよかったです。森田監督も喜んでくれているんじゃないかと思います」と顔をほころばせた。映画は16日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。

 <松山ケンイチさんのプロフィル>

 1985年、青森県出身。「男たちの大和/YAMATO」(2005年)の年少兵役で注目され、「デスノート」「デスノート the Last name」(ともに06年)のL役で人気を博す。ほかの映画出演作に「デトロイト・メタル・シティ」(08年)、「カムイ外伝」(09年)、「ノルウェイの森」(10年)、「GANTZ」シリーズ(11年)、「春を背負って」(14年)、「天の茶助」(15年)などがある。テレビ出演作としては、12年のNHK大河ドラマ「平清盛」、「ど根性ガエル」(15年)など。森田芳光監督作品には「椿三十郎」「サウスバウンド」(ともに07年)、「僕達急行 A列車で行こう」(12年)に出演している。

 <北川景子さんプロフィル>

 1986年、兵庫県出身。2003年に女優デビューし、06年、森田芳光監督の「間宮兄弟」で映画初出演を果たす。「謎解きはディナーのあとで」(11年)、「悪夢ちゃん」(12年)、「独身貴族」(13年)、「HERO(第2期)」(14年)など多くのテレビドラマに出演する一方、「花のあと」(10年)、「パラダイス・キス」(11年)などの映画で主演を務める。ほかの映画出演作に「ルームメイト」(13年)、「抱きしめたい-真実の物語-」(14年)、「愛を積むひと」「HERO」(ともに15年)などがある。森田芳光監督作品にはほかに「サウスバウンド」(07年)、「わたし出すわ」(09年)に出演している。

 (インタビュー・文・撮影:りんたいこ)

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