歌手の平原綾香さんが、約1年ぶりのオリジナルアルバム「LOVE」を4月27日にリリースした。「LOVE(愛)」というテーマで、玉置浩二さん、中島みゆきさん、徳永英明さん、財津和夫さんら9人の著名アーティストが楽曲を書き下ろしたことでも話題を呼んでおり、さまざまな“愛”が表現された意欲作だ。アルバムの制作秘話や参加アーティストとのエピソード、自身の恋愛観などについて平原さんに聞いた。
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――平原さんのほか、尾崎亜美さんや財津和夫さんのコンサート制作も手がけるプロデューサーの人脈もあり、数々の楽曲提供が実現した今作ですが、「LOVE」をテーマにしようと思った経緯は?
私も31歳になって、19歳でデビューした時とはまた環境も違うし自分の心も違うし……。私はずっと恋や愛の歌も歌ってはきたけれど、大人の愛の歌は歌ってないなって。果たして、今まで私が歌ってきた曲は世間に届いているんだろうかっていう不安もあったんですね。そんな時に、今回のプロジェクトプロデューサーにアルバムのコンセプトについて相談して出てきたのが、豪華なアーティストの方々に曲を作ってもらうっていう案だったんです。それで、こんな機会めったにないから、愛という究極のテーマで憧れの人たちがどんな作品を作るのか、身近に触れてみたいなって。
――中島みゆきさんが作詞・作曲した「アリア-Air-」は、デビュー曲の「Jupiter」の世界観にも通じるものがあり、今作では一番といっていいほど歌いやすかったそうですね。
昨年のコンサートツアーでみゆきさんの「糸」をカバーさせてもらって、そこで私自身、すごく癒やされて心を慰めてもらった経験があったので、「魂の子守唄みたいな歌を作ってもらえませんか」ってお願いしました。レコーディングにも来てくださって、真ん中でドーンと聴いているかと思いきや、小部屋の影からそーっと聴いているような。プレッシャーを与えないようにしてくださっているのが分かって、優しいなって。ちょうど(みゆきさんの)誕生日が近くて、アンテプリマのキラキラのバッグをプレゼントしたんですけど、「最近、キラキラ好きなの」と言って、「ルンルン」みたいな感じで、少女のような一面もあって、すごく可愛いらしい人だなと思って。ホントにすてきな出会いでした。
――「鼓動」は、徳永英明さんがご自分以外に初めて歌詞を書き下ろした曲ということですが、徳永さんとの印象的なエピソードは?
徳永さんは前から親しくさせていただいていて、徳さんは「平原」、私は「トニー」って呼んだりする間柄なんですけど、ちょうどこの歌を書き終えたちょっと後に入院されて……。その時に「(「鼓動」を聴いて)弱い自分に歌ってくれてるみたいで、すごく励まされる。あなたの歌声から愛と希望と未来を感じます」ってメールが来て、「泣かせるなあ」と思って。
――尾崎亜美さんの「真水の涙」、岡本真夜さんの「未送信の恋」、諫山実生さんの「She 想」という女性作家陣による3曲は“切なく、かなわぬ恋の歌”という点で共通していますね。
やっぱり女性は傷ついてるんですよ。「She 想」とかは、なるほどな、と思いますね。好きは好きでも、そこに重さが加わると、すごく複雑なんですよね。例えば、結婚を考えていない男性と結婚したい女性だったら、お互い好きでも、やっぱりどこか女性の方に重さが掛かってしまうというか。そうすると、シーソーもなかなか平行にはいかないし、見つめ合えないし。結構、苦しいですよね。
――そんな“重さの違い”を感じた経験もあったわけですね。そして玉置浩二さんが作詞・作曲した「マスカット」は、まさに大人の“男女の愛”が描かれていますが、実は玉置さんとは縁が深いそうですね。
父(サックス奏者の平原まことさん)が安全地帯のサポートメンバーだったので、5歳の時に楽屋にお邪魔して、抱っこしてもらって。恥ずかしくて寝たふりをしていたっていう思い出があるんですけど、それを玉置さんも覚えててくださっていて、私もずっとちっちゃい頃から玉置さんの歌を聴いていたから、「綾ちゃんがこんなに大きくなって歌手になって、自分が曲を書き下ろす日が来るなんて……」っていう感慨深いものがお互いにありました。
――歌詞の印象はどうでしたか。
最初はびっくりしたし、「(歌詞の中の)『まる裸』って、えっ!?」みたいな。でも、玉置さんに「玉置さんの歌って、父と母の温もりとか、あの日の雨の匂いとか、幼い頃を思い出してキュンとなることが多いです」っていう手紙を書いて、それで書いてくださったのがこの歌詞で、だから「父よりも強く……母よりも優しく……」っていうのがあったり、小さい頃の雨の描写が出てきたり。大人の愛って、その人を愛するだけじゃなくて、その後ろに見える小さい頃のその人や、その人を育ててきた周りの人たちも愛するぐらいの覚悟がないといけないって言っているように思いました。
――表題曲「LOVE」は自ら作詞・作曲をされていますが、歌詞にあるように、愛に傷ついた時に、幸せな愛の歌を歌わなければならなかったこともあったんですか?
それはありますよ。傷ついている時に幸せな歌を歌うとすごく切なくなる時はあるけれど、でも結局はその歌に助けられてる……。それに気づいたのが、やっぱりコンサートをしている時かな。それこそ、みゆきさんの「糸」をずっとカバーしていた時、歌う時の気持ちが全部違うんです。涙が止まらない日もあったり、怒りが入ってるような歌になったり。だけど、歌うたびに少しずつ気持ちが穏やかになれるというか。そうやってステージで歌うことが私にとって愛の中にいるということなので、遠回りせず愛の中に飛び込んでいこうという思いになりました。私も歌を選んで生きているから、苦しくても歌を歌って前に進もうって。
――今作を作ったことで実感できた成果はありますか。
私は、一つのことをすごく頑張っちゃう性格なんですね。そういう意味では、一生懸命「伝えなきゃ」って思いながら歌ってしまうこともあるかもしれないけれど、今回、音楽の巨人たちに支えられて、抱きしめてもらいながら歌っている感覚があったので、力の抜けた歌になったのかなって。それは成果ですね。
<プロフィル>
1984年5月9日生まれ、東京都出身。2003年にシングル「Jupiter」でデビュー。平原さんが初めてハマッたポップカルチャーは、実父でサックスプレーヤーとして活躍する平原まことさんのサックス演奏。「おなかの中にいた頃から聴いていたであろう音ですし、私の歌のルーツでもあります。保育園か小学校の時に、“将来の夢”というので、サックスを吹きながらステージに立っている自分の姿を描いたりしていて、音楽家になることは保育園の頃からずっと夢みていました。でも、英才教育でも何でもなかったし、そういう意味では、ホントに自由に、自分の意思で始められたのも感謝しています」と話した。
(インタビュー・文・撮影:水白京)