マンガ実写化:ファンに受け入れられないのはなぜか アレルギー解消の秘策は?

「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」 (C)和月伸宏/集英社 (C)2012「るろうに剣心」製作委員会
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「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」 (C)和月伸宏/集英社 (C)2012「るろうに剣心」製作委員会

 人気マンガやアニメが実写化されるニュースが飛び交う昨今。原作ファンからは驚きとともに否定的な意見がネット上を席巻することも珍しくない。どうすればファンも受け入れられる実写版が生まれるのか。週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴する“オタレント”の小新井涼さんが、これまでの実写化作品をひも解きながら独自の視点で分析する。

ウナギノボリ

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 「鋼の錬金術師」、「銀魂」に続き、ついに「ジョジョの奇妙な冒険」の実写映画化が発表されました。もはや説明不要の人気作だけあり、早くも話題騒然。そして、残念ながら実写化ではつきものとなった原作ファンからの“黄色くない悲鳴”もあがっているようです。

 クロスメディア展開が当たり前となった現在、どんなに数が増えてもアニメ化や舞台化と違い“実写化”という言葉にはどうしてもネガティブな印象を抱きがちです。ファンはなぜこれほどまでに、実写化に対してアレルギー反応を起こしてしまうのでしょうか。

 同じ実写化でも、ゼロではありませんが、上記の作品ほど強いアレルギー反応は起きないものもあります。今年ならば、同じくアニメ化もされた「暗殺教室」、「orange-オレンジ-」、「ちはやふる」などはそれにあたるのではないでしょうか。

 日本の学校が舞台だったりと、現実と“地続き”のこれらの作品は、実写化に伴って世界観が大きく改変されることはありません。そこに“殺せんせー”や“未来からの手紙”など、部分的に非現実的なエッセンスが混ざる程度ならば、まだ許容範囲なのだと考えられます。

 過剰なほどアレルギー反応が起こるのは、やはり実写化不可能と思われるほど現実離れした作品です。アニメや2.5次元舞台と違って、原作の世界観を再現しようとすればするほど、作り物感が際立ってしまう実写化のジレンマもあるのでしょうか。

 結果、設定やストーリーに大きな変更が加わることが多く、どうしても原作のイメージから遠ざかってしまい、ファンの「コレジャナイ感」に繋がってしまうのです。こうなってくると、一見過剰にも思える原作ファンのアレルギー反応にもうなずけます。決して頭ごなしに批判しているわけではなく、「別物になるほど難しいならば無理に実写化しなくてもいいのでは?」というのが、ファンの正直な心情なのです。

 ではそれらの作品が原作ファンのネガティブイメージを払拭するには何が必要なのでしょうか。

 何よりも効果的なのは、原作者による実写化への“積極的な”お墨付きでしょう。単純なようですが、それがあるだけで原作ファンの反応がかなり変わってくることは、「銀魂」実写化発表後の原作者・空知英秋先生のコメントへの反響からもうかがえます。

 本来ならばブラックボックスになりがちな実写化への経緯や、原作者としての心境を詳細に語ったその文章は、強い拒否反応を示していた原作ファンの心境を大きく変えました。

 実写化反対という流れから一転、原作者がそこまで言うなら「むしろ見てみたいかも」という意見まで出てきたのです。ネガティブイメージを払拭するどころか、ファンのイメージをポジティブに転じることも可能と示したこの実例。勝手かもしれませんが、やはり原作ファンとしては監督やキャストからの熱意あるコメントよりも原作者からの太鼓判がなによりの安心材料となるのです。

 しかし、果たして原作ファンによるアレルギー反応さえなくなれば、その実写化は成功と言えるのでしょうか。

 そもそもいくら原作ファンからは不評でも、興行収入の面からみると実写化作品は成功したケースの多い“ドル箱”ジャンルです。ならば結局、原作ファンの心情などは無視して、どんどん実写化作品を作ればよいのでしょうか。原作ファンは文句を言いつつ、実写化作品がいやなら見なければよいのでしょうか。

 そんな堂々巡りに打開策を示してくれたのが、実写化の成功例として名前が挙がることの多い「るろうに剣心」ではないでしょうか。原作ファンからも評価が高かった珍しい例とされていますが、決して“原作そのまま”の実写化だったからではありません。

 この作品が評価されているのは、飛天御剣流抜刀術や斬馬刀での戦いなど「るろ剣」独特の要素を、マンガやアニメでは不可能な実在する人間による“質感を伴ったアクション”で再現し、実写版でしか見ることのできない「るろ剣」を確立できた点にあるというのが個人的な見解です。

 世界観を保つのは大切ですが、完全な原作のコピーならばわざわざ映画を見なくても、「マンガやアニメを見ればいいや」で終わります。ですが実写ならではのリアルな質感・重力・音・風景などを生かして、“実写版でしか見られない世界観の再現”ができたならば、原作ファンもチェックせずにはいられません。

 例えば「ジョジョ」ならば、やはり気になるのはスタンドの再現度。特にエコーズの能力などは、マンガならではの表現だった“音での攻撃”をどう再現するのか見ものです。

 アニメ化や舞台化よりも乗り越える壁が高いにもかかわらず、それでも作品の知名度や話題性を考えると今後も実写化作品は生まれてくることでしょう。そんな時、原作ファンも見たくなる、本当の意味での実写化の成功に必須となるのは、原作サイドとの連携と、実写版にしかできない世界観の再現なのではないでしょうか。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。 

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