ひるね姫:神山監督が語るデジタル化の狙い “異例”の製作現場とは?

劇場版アニメ「ひるね姫~知らないワタシの物語~」を手がける神山健治監督
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劇場版アニメ「ひるね姫~知らないワタシの物語~」を手がける神山健治監督

 「東のエデン」「攻殻機動隊S.A.C.」などで知られる神山健治監督が手がける劇場版アニメ「ひるね姫~知らないワタシの物語~」(2017年3月18日公開)。同作を製作するアニメ制作会社「シグナル・エムディ」は“新手法”でアニメを製作中だ。東京都内の同社のスタジオには約70台にもおよぶペンタブレットが並ぶ。アニメのスタジオというと原画など大量の紙があるものだが、シグナル・エムディは作業をほぼデジタル化している。シグナル・エムディの関係者によると「100%近くタブレットで作業している日本のアニメ制作会社では極めて異例」だという。神山監督に“異例”の製作現場の裏側を聞いた。

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 ◇効率化で何度もトライ&エラーできるが…

 シグナル・エムディでは、動画、背景など各担当がタブレットに向かい作業している。神山監督は「本当の意味でデジタル化をしていこうとした。ずっとやりたかった」と話す。日本のアニメは紙に絵を描いて制作する伝統があり、一部はデジタル化されているものの、制作環境をほぼデジタル化しているアニメ制作会社はフル3DCGの制作会社を除くと珍しいという。神山監督は「日本のアニメの作画システムは強固なインフラで、なかなか変えにくい。演出もデジタル化したかった。今回は100%ではないが、ほぼ実現できた」と語る。

 “演出のデジタル化”とは、「今まで演出する側はデジタルの恩恵がなかった。アニメはタイムシートという紙で動きをコントロールするけど、勘でやって動きを確認しているところもある。そこだけがずっとアナログだった。デジタルにすることで、各工程で上がってくるものをすぐに動画でチェックできる。イメージがしやすくなった」のだという。

 例えば、タブレットで絵を描き、あらかじめ録音された声優の演技を聞きながら、動きを確認できる。スタッフの中には「タブレットに慣れるまで1カ月くらいかかりましたが、やり方さえ覚えてしまえば効率がアップした。これまで一日20枚くらいしか描けなかったけど、このやり方だと40枚くらいできることもある」という声もあった。

 背景を手がけるスタッフは「これまで手描きで描いたものを修正するには、描き直さないといけなかった。デジタル化によって色のニュアンスが少し違う時に簡単に変えることができる」と語る。作業が効率化されたようだが、神山監督は「大変だったのは、何回でもトライ&エラーできるので、いろいろなことを試してしまう。結果的に時間の短縮にはなっていないのかもしれない。また、クリックするだけで、いろいろなことができるので、ゲームを長時間できるような感覚で、長く作業できてしまう。危ないですよね(笑い)」とも話す。

 ◇デジタル化でスタッフに還元も

 何度もトライ&エラーを繰り返すことで、監督がイメージする作品に近づけるわけでだが、神山監督は「僕の表現のためだけにデジタル化したわけではない」とも語る。「映画は一人で作るわけではない。スタッフのことを考えて、デジタル化した方がみんなハッピーだと考えました。アニメ制作の労働環境が問題になる中で、デジタル化で状況がよくなればと考えた。スタッフに還元したいんです」という思いがあったようだ。

 スタッフには「もともと絵がすごくうまい人の方が苦戦しているかもしれません。定規を使わずに直線が描けるのに、定規ツールを使う意味が分からない!となったり(笑い)。ただ、かたくなにやらない人はいませんでした」と受け入れられているという。

 さらにデジタル化の恩恵を「即効性はないかもしれませんが、アニメ制作は5、10年と技術を習得するのに時間がかかるところが、少しでも早くなるかもしれません。また、どのスタジオでも作り方は一緒でしたが、これからはスタジオごとに変わっていくことも考えられる。デジタル化によってまったく予期せぬ才能が出るかもしれませんしね」と期待しているようだ。

 「ひるね姫」は、2020年の岡山県倉敷市を舞台に、父親と暮らす女子高生・森川ココネの家族の絆などが描かれる。ココネの父・モモタローが逮捕されてしまい、居眠りばかりしてしまうココネの不思議な夢が、その謎を解くカギとなる。「猫の恩返し」の森川聡子さんがキャラクター原案、「ベイマックス」のコヤマシゲトさんがロボットに変形するサイドカー・ハーツのデザイン原案を担当。女優の高畑充希さんがココネを演じるほか、俳優の江口洋介さん、満島真之介さん、古田新太さん、高橋英樹さん、前野朋哉さんが声優として出演する。

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