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冲方丁:「攻殻機動隊 ARISE」「新劇場版」を語る 目指したのは「可愛い素子」

アニメ
アニメ「攻殻機動隊」シリーズの「ARISE」シリーズと「新劇場版」のシリーズ構成、脚本を務めた冲方丁さん

 士郎正宗さんのマンガが原作のアニメ「攻殻機動隊」シリーズの「ARISE」シリーズと「新劇場版」を収録したブルーレイディスク(BD)ボックス「攻殻機動隊ARISE/新劇場版 Blu-ray BOX」が22日、発売される。「ARISE」「新劇場版」はこれまでのキャストを一新。時代小説「天地明察」などで知られる作家の冲方丁(うぶかた・とう)さんがシリーズ構成・脚本を務めた。それまでスーパーウーマンとして描かれてきた主人公の草薙素子を「ARISE」「新劇場版」では「可愛い素子として描きたかった」という冲方さんに、作品に込めた思いや制作のエピソードなどについて聞いた。

 ◇素子の「未来を作れ」が作品のテーマに

 「攻殻機動隊」は、近未来の電脳化社会を舞台に、架空の公安組織を描いた作品。原作マンガは1989年に発表され、押井守監督が手がけた「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(95年公開)、「イノセンス」(2004年公開)、神山健治監督の「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(02年放送)などが製作されてきた長寿シリーズだ。「ARISE」は4部作が13~14年、「新劇場版」は15年に公開された。押井監督作品で作画監督を務めた黄瀬和哉さんが総監督を務め、素子の過去や公安組織・攻殻機動隊の創設秘話が描かれた。

 冲方さんは、「ARISE」「新劇場版」の制作を担当したプロダクションI.Gの社長・石川光久さんらから「攻殻機動隊の新しい企画がある」とオファーを受け、「これは受けざるを得ないと思った」と振り返る。元々、冲方さんは「攻殻機動隊」に対して「非常に助けられた」という思いがあったという。

 「押井監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』が公開されたのは、僕がデビューするちょっと前の時期でした。当時は、SFが非常に元気ないというか、『SFと書くと売れない』と言われるような、不遇な目に遭っていた時期だったんです。そんな時に、ああいう素晴らしい作品で風穴を開けていただいたので、ご恩みたいな気持ちを持っていました。だから、オファーを受けた時も、ついついほだされて『これは恩返しをせねばならんのかな』と思ったんです」と語る。

 「ARISE」「新劇場版」では、シリーズの起源が描かれた。企画会議の段階では「いろいろ紛糾してですね。ただ、逃げられない設定を作らないと逃げてしまうな、と。そこで、今まであえて誰も書かなかった素子の原点を描いてみたら、更にシリーズの続編を作る時に便利じゃないかという話になりました。この企画単体というよりも、『攻殻機動隊』というコンテンツが今後長く続いていくためのリレーのバトンをどう受け取って、どう渡すかっていう発想にやっぱりなりましたね」と話す。

 そうして作品のイメージが形作られていく中で決まったのが「ARISE」というサブタイトルだった。「『ORIGIN』よりも『立ち上がる』『若者が立つ』という意味のある言葉にしたかった。原作に『未来を作れ』という素子のせりふがあるので、これを作品のテーマにしようじゃないかという意気込みが込められたサブタイでした」と冲方さん。「攻殻機動隊」の根底に流れるテーマやキャラクターを継承し、作品の未来を作るために描かれたのが「ARISE」だったという。

 ◇素子の“弱点”を探したキャラクター作り

 総監督の黄瀬さんとのやりとりについて聞くと、冲方さんは「会議が紛糾した後、黄瀬さんと喫煙所で一服している時に全てが決まった感じがしますね」と笑みを浮かべた。「『新しくしよう』とか『昔のやりとりを踏襲する必要はないだろう』とか、そんな話をしました。素子をどう描くか。コンセプトを分かりやすく決めようと。可愛い素子、かわいそうなバトー、カッコいい荒巻を描ければいいんじゃないっていう(笑い)。そんなふうに一つずつ決めていきました」と明かした。

 「ARISE」「新劇場版」では、素子がチームを作っていく過程を描いている。冲方さんらは「人間味があって、弱くて、個人の力ではどうにもできないからチームを作るのであって、最初からスーパーウーマンだったら、そもそもこいつ、チーム作らないよねって。ことごとく失敗する素子を描いてもいいんじゃないか」という思いから、「可愛い素子」というキャラクター像に行き着いたという。

 「ただ、素子は基本的に何でもできてしまうので、『これができない』『あれができない』というのを詰め込んだんです。まず、部屋のインテリアをどうしたらいいか分からないとか、男との付き合い方がいまいち分からないとか。いろんな弱点を頑張って作ったんですよね」と語る。

 脚本の部分でも「素子の独り言のシーンを一切作らず、必ず対話をさせるようにした」と冲方さん。「感情がその都度起こるようにして、しょっちゅう怒らせたりと、不満を抱いている姿を見せました。喜ぶ時にちょっといい気になるとか、怒る時も余計なこと言うとか、まだ練れてない感じを出そうとしました。未熟な白雪姫じゃないと、7人の小人がついていけなくなるんで(笑い)」と工夫した点を語った。

 そんな素子のキャラクターがよく表れているのが、素子のラブロマンスが描かれた「ARISE」の第3話「border:3 Ghost Tears」だという。「日本のSFアニメであまり主題にならなかったもの、特に『攻殻機動隊』ではほとんどタブー視すらされていたようなものをあえてやろうと。『義体と電脳を持った時の男女の関係ってどんななの?』っていうのをちゃんとやってみようじゃないかということになりました」と冲方さんは振り返る。

 素子の恋愛を描く上では、「恋愛って、いかにせりふで好きって言わずに好きと表現するかが大事なので、せりふだけ考えていくと、禅問答みたいになるんです」と苦労があったそうだが、黄瀬さんからは「仕草で表現するからいいですよ」と言われたという。「どうやるんだろうと思っていたら、頭突きするとかですね。その手があったかと。いろいろ発見があって面白かったです」と笑顔を見せた。

 シリーズ全体を通して、冲方さんは「義体は作り物であることで逆に生々しく見えたり、義体を持つ者自身は『これが自分の肉体なんだ』と受け入れようとしつつ、モノなのか人なのか自分でもよく分からなくなる。そんな状態を描けたのも、SF作家冥利に尽きるというか、個人的に大好物のテーマなので楽しかったですね」。

 ◇作品の舞台は現代から10年後 「これからSFは面白くなる」

 冲方さんに、改めて今回のBDボックスの見どころを聞くと、「アニメーションのI.Gクオリティーをじっくり味わっていただきたい」といい、「それぞれにすてきな力を持ったキャラクターが集うって、もう無条件に萌えると思うので、素子と7人の仲間たちの活躍が見どころです。未熟な白雪姫と腐った7人のおっさんたち、ですね(笑い)」と回答。

 「なかなか自分の思い通りにならない中で、一癖二癖あるキャラたちが自分たちの力を発揮することで、自分たち自身の活躍の場を作る物語になっています。常に個人として闘っていかなきゃいけないような世の中ですけど、この作品を見て『自分も頑張るぞ』と思ってほしい」と語った。

 「ARISE」の舞台は2027年。今からちょうど10年後の世界だ。このことに対して冲方さんは「もう、いっそ早く追い越せよと思っています。物語の舞台が現代に接近してきた時の表現の難しさたるや……。いっそのこと時代がもっとぶっ飛んでしまえば、こっちはもっとぶっ飛べるので楽なんですよ」と笑顔で語る。

 今年公開されたSF映画「ブレードランナー2049」を引き合いに出し、「ああいう作品が出てきたので、ようやくSFでもいろいろ描けるようになりました。サイボーグ同士の恋愛もこれまで描きようがないみたいな言われ方をしてましたけど、いやそんなことないだろって。『ARISE』でもやらせてもらいましたし、『ブレードランナー2049』でもやってましたし。SFは、これからようやく面白くなってくるぞって感じがしますね。お客さんの側も柔軟に楽しんでくれるだろうなって」と、今後のSF作品の可能性に思いをはせた。

 ◇「攻殻機動隊ARISE/新劇場版 Blu-ray BOX」

 「攻殻機動隊 ARISE」シリーズの「border:1 Ghost Pain」「border:2 Ghost Whispers」「border:3 Ghost Tears」「border:4 Ghost Stands Alone」と「攻殻機動隊 新劇場版」に加え、「攻殻機動隊 ARISE PYROPHORIC CULT」を収録。映像特典として3DCGショートアニメ「ロジコマ・ビート」などや黄瀬監督らのオーディオコメンタリーが収録され、20ページのブックレットも付属する。2万円(税抜き)。

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