ドラゴンボールDAIMA
第11話 デンセツ
12月23日(月)放送分
「嵐」の松本潤さん主演でテレビドラマ化もされた人気マンガ「バンビ~ノ!」の作者・せきやてつじさん。同作連載にあたり料理店で1年間修業を積んだり、ボディーガードの学校に通うなどしてリアリティーのある作品作りに挑む。せきやさんに、作品作りのこだわりを聞いた。
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小さい頃からマンガ家になりたかったせきやさんの経歴はユニークだ。大学時代に自主製作映画作りに没頭し、上京して映像の学校に入ったが、その後は映像とは関係のないサラリーマン生活を3年間送った。マンガ家を意識したのは、映像学校時代。「東京に来ると、みんな当然のように映画を作っていて……。そこで絵を描けることを売りにしたんです」と明かす。
卒業後は病気になったこともあり、安定感のあるサラリーマンを選んだ。最初の営業は向かず、2社目のイラスト会社に入ると、人間関係に悩みながらも、仕事が楽しくなったという。そんな中、5年かけてマンガを仕上げ、講談社の新人マンガ賞に準入選した。会社からも一目置かれる存在になったが、マンガ家にはならず、そのまま仕事を続けた。
ところが、後輩女性が会社を辞める時に「せきやさんは卑怯(ひきょう)です。賞も取れて才能もあるのに勝負しないなんて」と言われたという。せきやさんは「(言われた瞬間は)腹が立ったけれど、『それもそうだ』と思いましたね」と振り返る。せきやさんは、背中を押された形となり、会社を辞めてマンガ家の道を選んだ。
アシスタントを経て、再び講談社で賞を取り、マンガ誌「モーニング」で連載をスタートさせた。だが打ち切りとなり、仕事がない現実に直面した。企画を出しても採用されない日々に、せきやさんは「このまま干されるかと思うとゾッとした」と当時を振り返る。
危機感を持ったせきやさんは、竹書房で新しい仕事を受けたが、原作付きの仕事だったこともあり、断ってしまう。「当時はマージャンマンガを描くには抵抗があって、それでも覚悟をしてきたら、原作付きの仕事だったので悲しくなったんです。だから断った時は、『もう(竹書房とは)終わりかな』と思いました」と明かす。
だが竹書房の担当者は「いいですよ。せきやさんのマンガ好きですから」と声をかけられた。せきやさんの気持ちは奮い立ち、マージャンマンガの構想を一気に作り上げる。「麻雀血風録 おうどうもん」の連載が始まると、青年誌を発行する全出版社からスカウトが来るなど道は大きく開けた。
その後、せきやさんは胆石症で入院してしまう。そんな中で声をかけた担当者の一人が、小学館の「ビッグコミックスピリッツ」担当だった。希望のオーダーは「何でもいいです」。せきやさんは「セクハラシェフの作る料理が絶品だった」というマンガを構想するが「スピリッツぽくないな」と引っかかっていた。
そんな時、東京・国分寺のレストランで、オープンキッチンで走り回り、炎や水と格闘するシェフの姿を見て、厨房(ちゅうぼう)を舞台にしたアクションマンガがひらめいた。担当者に電話をして「これ、テレビドラマにもなるから!」と興奮して新作マンガのアイデアを伝えた。イタリアンの若いシェフが成長していくマンガ「バンビ~ノ!」はこうして誕生した。
せきやさんの真骨頂は、緻密な取材だ。「フィクションで描ければいいのですが、僕はその才能がない」と言うが、「バンビ~ノ!」の連載前に1年間、イタリア料理店4軒に頼み込んで、住み込みで働くまでした。店のシェフがせきやさんのマンガのファンで、「おうどうもん」が好きというエピソードもあったという。
「バンビ~ノ!」は、最高の料理人を目指す青年、伴が、さまざまな壁にぶつかりながら前進する様子が生々しく描かれている。先輩に厳しく当たられるなどの人間描写もリアリティーがあり、人気となった。せきやさんがサラリーマン時代に体験したことが生かされており「僕はバカなので、くじけなかった。さんざんな目にも遭いましたし、それをそのまま描いています」と話す。
「バンビ~ノ!」のヒットで名実共に人気作家の仲間入りを果たすも、せきやさんは「絶対に調子には乗らなかった」と断言する。理由は「成功すれば、その後に落ちる時が来る。売れるということは、売れなくなる日がくるということですから」と苦労をした人だからこそ分かる危機感だった。それでもマンガへの思いは熱い。「『バンビ~ノ!』を超えたい。クオリティーも売り上げも超えたいと思っています」と力を込める。
せきやさんは昨年から「別冊ヤングチャンピオン」で「僕たちの新世界」というマンガの連載を始めた。東京のベッドタウンで事件が起きるたびに現場に居合わせる女子大生・神薙絢女。西寺遼太は、彼女が未来の事件を集めたスクラップブックを所持していたことや、1人で事件を阻止するために奮闘していたことを知る。スクラップには、1年後に高幡不動駅前で起こる大量殺人事件が予言されていた……というストーリーだ。一見「バンビ~ノ!」とは作風は違うが、濃い人間関係、次が気になる展開はそのままだ。
せきやさんは「最近は通学中の子供の列にトレーラーが突っ込むとかの出来事を新聞で見るたびに、過去に戻って解決する人たちを描けないかと思ったんですよ」と作品誕生のきっかけを明かす。「でも過去に戻って死ぬ人を救うと、矛盾(タイム・パラドックス)が起きてしまう。子供は救っても老人は助けないのかとか、モヤモヤがあったんです。そこで過去に戻るのではなく、未来に発生する、起きてない事件を変えるならいいんじゃないかと……」と説明する。
せきやさんは、「僕たちの新世界」の前に、元警察官の青年と謎の男を描いたアクションマンガ「火線上のハテルマ」を描いた。その時にボディーガードの学校に行って訓練を受けた。それが今回の作品作りにも生きている。せきやさんは「トレーニング中に『違和感を探せ』『おかしい人間が脅威者だ』と言われたんです。それが今のマンガに役に立っていますよ」と話す。
「僕たちの新世界」でも、舞台となった高幡不動を歩き回り、若者の気持ちを知るためにアイドルに取材したり、大学へも足を運ぶなど、徹底して取材をした。作中で多摩センターに暴走車が進入するシーンがあり、これも取材から得た設定だ。多摩センターは、プロの目線から見ると警護の訓練に向いている地形なのだそうだ。
せきやさんは「マンガを描きたい欲求は人一倍あると思います。妄想だけでは作品を作れないタイプというのもありますし、社会人経験もあるからなのかも、ですが、世の中で売れるものは、その人間がどれだけ汗をかいたものなのかと思うんです。絵を描くこと以外にもやれることは全部やっているつもりです」と語る。
「サラリーマン時代の方が楽だった。サラリーマンは自分の代わりがいるので」と笑う。マンガ家というビジネスについて「何てことをしてしまったと思う時がありますね。マンガ家は、作品の出来が悪くても『俺がオッケー』といえばOKになるんですが、それは自分の良心との戦いになる。締め切りとの戦いで、(出来に納得ができず)泣きながら原稿を渡すこともあります」とも。
せきやさんは「マンガの仕事に執着があるんです。マンガ家でなかったら、死んだほうがいい。だって他にはできないんですよ」とマンガへの愛着を語り、「世の中を良くしたいと思ってマンガを描いている」と力説する。「バンビ~ノ!」を超えるための、せきやさんの戦いは続く。
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