デスマーチからはじまる異世界狂想曲:「なろう」投稿をきっかけにデビュー、テレビアニメ化、専業作家に 作者は「まさか…」

テレビアニメ「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」のビジュアル(左)と原作の第13巻(C)愛七ひろ・shri・KADOKAWA カドカワBOOKS刊/デスマ製作委員会
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テレビアニメ「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」のビジュアル(左)と原作の第13巻(C)愛七ひろ・shri・KADOKAWA カドカワBOOKS刊/デスマ製作委員会

 テレビアニメ化されたことも話題のライトノベル「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」(KADOKAWA)。愛七ひろさんが初めて書いた小説で、小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿したところ、書籍化、テレビアニメ化されるなど人気を集めている。サラリーマンと作家を兼業していた愛七さんは専業作家となった。「デスマーチ」は、コミックスなど関連書籍を含めたシリーズ累計発行部数は250万部以上の人気作になったが、愛七さんは「作家を目指していたわけではないし、デビューするなんて、考えたこともなかった」と明かす。愛七さんに、同作誕生の裏側について聞いた。

 ◇作家を目指していたわけではないが…

 「デスマーチ」は、愛七さん作、shriさんイラストのライトノベル。プログラマーのサトゥーこと鈴木一郎が仮眠していたところ、異世界で目を覚まし、ひょんなことからさまざまなスキルや財宝を手にして、異世界を旅することになる……というストーリー。

 愛七さんが「小説家になろう」に「デスマーチ」を初めて投稿したのは2013年3月頃だった。「投稿を始める半年くらい前に、小説家になろうの投稿作品を読み始めた。読んでいると、自分も書きたくなった。自分だとこうするんだけど……というアイデアがたまってきたんです」と振り返る。

 小説家になろうは、「Re:ゼロから始める異世界生活」「異世界食堂」「ナイツ&マジック」など数々のヒット作が生まれ、“なろう系”などとも呼ばれている。「小説家になろうは、間口が広い。読み切れないほど小説が投稿されている。異世界ものばかりが注目されるけど、いろいろなジャンルがある」と、魅力的に見えたようだ。

 「デスマーチ」は、愛七さんにとって初めて書いた小説だった。「古典SF、ファンタジー、ライトノベルが好きで読んでいたけど、作家を目指していたわけではないし、デビューするなんて、考えたこともなかった。読者に読んでもらうことを考えるよりも、自分が読みたいものを書いた」と話す。

 ◇2週間くらで終わるだろう…から5年

 「デスマーチ」の主人公は、現代日本でプログラマーとして働いていたが、唐突に異世界で目を覚ます。愛七さん自身もプログラマー経験があり、「最初はお仕事ものを書こうとしていました。ただ、小説家になろうでは、あまり読まれないかな……と考え、間口を広げようとした」と、いわゆる異世界ものにした。小説家になろうでは、異世界ものが人気を集めており、愛七さんも「大好き」という。「異世界ものは縛りが少ないので書きやすい。自由に書ける舞台なんです」と語る。

 「デスマーチ」をサイトにアップして「最初の5日くらいは、ちょっと読まれている!うれしい!と見ていました。感想をもらったこともうれしかったですね。読者のことが気になり始め、読者の指摘を受け、小説家になろうの中にある小説指南のエッセーを読み、基本的な書き方、小説の作法を学びました。ツッコミが入って修正したところもあります」と、読者と一緒に作品を作っていった経験を語る。

 書き進める中で誤算もあった。「初めて書いたものだから、話の長さを読み間違えてしまった。最初は13話くらいの構想で、2週間くらで終わるだろうと書き始めたけど、書き始めて、4、5話くらいのところで、これは終わらないな……と気付いた。キャラクターが動き出し、こういうシチュエーションもいいな……などと考えていたら、物語がどんどん膨らんでいった」と、2週間で終わるどころか、5年以上たった現在も物語は続いている。

 ◇1年で書籍化 大幅改稿も

 小説家になろうにはランキングがあり、「デスマーチ」は上位にランクインして人気を集めた。作品が編集者の目に留まり、14年3月には書籍が発売された。愛七さんは、最初の投稿からわずか1年でデビューを果たした。書籍化のオファーがあった時は「最初は詐欺かな?って(笑い)。編集長と会って、話をして、本当なんだ……となりました」と信じられないところもあったという。

 小説家になろうにアップした作品をそのまま書籍化するのではなく「僕から改稿したいとお願いしました。新人作家用の書き方を教えてもらって、整理し直した。初めて書いたものだったので、情報が集まりすぎて読みにくいところもあったんです。意見をいただきながら、改稿していくと、すごく良くなった。プロの編集の方は、やっぱり違いますね」と、大幅に改稿した。

 ◇二足のわらじから専業作家に

 「デスマーチ」は、書籍化されることで人気が加速し、今年1~3月にはテレビアニメも放送された。コミックスなど関連書籍を含めたシリーズ累計発行部数は250万部以上の人気作となった。サラリーマンと作家の二足のわらじを履いていた愛七さんは専業作家となった。

 ネットに小説を投稿したことをきっかけに人生が大きく変わり、「サラリーマン時代は、平日も小説を書いて、通勤中に校正チェックをしたり、使える時間を全部使っていました。会社を辞めたのは、会社の仕事が忙しくなりそうになったからなのですが、二足のわらじでやるのが、しんどくなってきたところもあります。今は一日中、小説を書くことができる。睡眠時間は増えたのですが、運動不足になってしまい、体を壊しやすくなったところもあります」と生活の変化を明かす。

 テレビアニメ「デスマーチ」は、ブルーレイディスクが2巻まで販売中。第3巻が25日に発売される。各巻には、初回特典として書き下ろしの小説が付いている。愛七さんは「書き下ろしの小説では、『デスマーチ』のキャラクターが現代日本にやって来ます。秋葉原、上野動物園など実際に遊びに行ける場所が舞台になります。聖地巡礼的な楽しみもできます」と語る。

 書き下ろしの小説を含めて、「デスマーチ」の世界は拡大中。愛七さんは「まさかこんなに続くとは思っていなかったんですけどね」と笑顔で話すが、まだまだ広がっていきそうだ。

ウナギノボリ

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