池松壮亮:宮本浩の「熱量」「誠実さ」をどう演じた? 本当に難産だった実写「宮本から君へ」

池松壮亮さんが主演を務める連続ドラマ「ドラマ25『宮本から君へ』」第8話のワンシーン (C)「宮本から君へ」製作委員会
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池松壮亮さんが主演を務める連続ドラマ「ドラマ25『宮本から君へ』」第8話のワンシーン (C)「宮本から君へ」製作委員会

 1990年代前半に多くの若者を魅了した新井英樹さんの名作マンガが原作の連続ドラマ「宮本から君へ」(テレビ東京ほか、金曜深夜0時52分)で主演を務める俳優の池松壮亮さん。主人公・宮本浩の、摩耗も劣化もしない「熱量」や「誠実さ」が放送開始からひそかな話題を集めている。原作から20年以上が経過した現代でも「決して無効ではなかった」ということが、池松さんらの熱演によってある意味、証明されたようにも思える。一方で今回の実写化は「本当に難産だった」とも明かす池松さんに、「宮本から君へ」について聞いた。

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 ドラマは、文具メーカー「マルキタ」の新人社員で、恋と仕事に不器用な宮本浩が営業マンとして、人間として、成長していく青春ストーリー。商業映画デビュー作「ディストラクション・ベイビーズ」(2016年)で高い評価を得た真利子哲也監督がメガホンをとり、脚本も執筆した。主題歌は、原作者の新井さんが大ファンと公言し、主人公の名前の由来(ボーカルの宮本浩次さんから取られている)にもなっているロックバンド「エレファントカシマシ」の新曲「Easy Go」を採用。柄本時生さんや星田英利さん、松山ケンイチさん、蒼井優さんらが脇を固めるなど、深夜の30分ドラマの枠を超えた映画レベルのキャスト、スタッフが集結した。

 ◇実写化は6年越しの夢 21歳で原作に出会い「これは自分の物語だと思った」

 ドラマの中身はというと、練りに練ったプロットや凝った設定、洗練された会話劇、SNSをにぎわすような小ネタもない。ある意味、原作を忠実に映像化したようにも思える。その中心になっているのは、当然ながら主人公・宮本の摩耗も劣化もしない「熱量」や「誠実さ」だ。池松さんも21歳のときに原作マンガに出会い、「すごくキャラクターに触発されて、これは自分の物語だと思ったんです」と振り返っている。

 「宮本から君へ」の実写化は、現在27歳の池松さんにとって一原作ファンとして6年越しの夢がかなった形だ。しかも主人公とあっては力が入らないはずはないのだが、池松さんは、「とはいえ結構、ちゃんと原作との距離感は保てていて。これまで宮本のことを『ああなりたい象徴』と言ってきたのですが、今だいぶ冷静になって考えていると、自分は『ああいう人を見てみたかっただけ』なんじゃないかって思い始めましたね」と心境の変化を明かす。

 宮本を演じるにあたっては「核はもうマンガにあった」という池松さんは、「マンガではやれないこと、映像でしかやれないこと、やれないことと言ったら大げさですけど、映像では必要ないこととか、そういうことを考えていく作業が多かった」と話す。

 「マンガをそのままやるつもりもなかったし、とはいえその核がないとどんどん原作からずれていく。ああいうキャラクターって実は俳優にとって、やろうと思えば簡単で、誠実さや熱量、すごく分かりやすいベクトルで説明することができて、シーンが盛り上がってきたときにドラマチックにさらに感情を上げてお芝居すればいい。でも、そうではなく、宮本浩という“すれすれの人間を”どう表現するのか。誠実な人なんてたくさんいるし、みんな誠実さを持っている。でも宮本は水の量というか、器の量が大きいし、いびつ。そういう人間力を表現する難しさはありましたね」としみじみと振り返る。

 ◇奇跡を見にいこうとしない場所に僕は引かれない…

 そんな池松さんが全幅の信頼を寄せていたのが真利子監督だ。池松さんによると「今回に関していうと『宮本から君へ』というものに昔、感化された人たちが集まって、たまたまその方が今、映画監督をやっていて、そういう人がたまたま俳優をやっていてと、普段とはまた違う絶対的なものがあったので、真利子さんとは作品うんぬんみたいな話もあまりしていないし、もの作りをするとき必ずついて回る哲学的なことも、ほぼなかった。深夜ドラマなんだから、そんなに撮らなくてもいいっていうくらい撮ってくれましたし、粘ってくれましたね(笑い)」と笑顔で感謝する。

 さらに池松さんは、「それも『宮本から君へ』があったからで。僕がちょっと熱が冷めてしまっても、他の誰かが熱を持っている。常に現場が熱を帯びているのって、僕にとっても初めての経験で。現場の士気って大体うねるものなんですけど、あまりそういうこともなかった」といい、「映像を作る上で、それがドラマであれ、映画であれ、奇跡を見にいこうとしない場所って実はたくさんあって。でもそういうものに僕は引かれない。やっぱり自分もワクワクしたいし、見てもらう人にもワクワクしてもらいたい。そういう気持ちが多分、自分や真利子さん以外にも、今回集まったメンバーの中に共通してあって、みんながいつもより少しあきらめないことを選んだ結果がこの作品になった」と思いを明かす。

 あきらめないことは「宮本から君へ」や主人公・宮本の核にもなっているが、池松さんは「本当に難産だった」と認めた上で、「21歳で原作に出会って、結局ここまでくるのに6年かかっている。夜、寝る前とかに原作マンガをパッと開くと、これを読んで負けていった人たち、今なお戦っている人たちってどれくらいいるんだろうって考えちゃうんですよね。でも、今回はみんなが何とかそこに食らいついて、振り回されて、こうして映像化できて、いろいろな人に感謝していますね」と語った。

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