わたしの宝物
第6話 生まれ変わったら本当の親子になれるかな・・・
11月21日(木)放送分
こうの史代さんの名作マンガ「この世界の片隅に」が連続ドラマ化され、TBS系の人気ドラマ枠「日曜劇場」で7月にスタートすることが発表されてから、約1カ月が経過した。ヒロイン・すず役の松本穂香さん、すずの夫・周作役の松坂桃李さんら主要キャストを含めて、さまざまな反響がある中、知りたくなったのが「なぜ、単発ではなく連続ドラマなのか?」。企画を立ち上げた佐野亜裕美プロデューサー(P)に話を聞いたところ、その裏側にあったのは、“ドラマのTBS”と呼ばれる同局の真摯(しんし)な姿勢、「義務」や「矜持(プライド)」で……。
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「この世界の片隅に」は、「漫画アクション」(双葉社)で連載され、2009年に「文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門優秀賞を受賞したマンガ。戦時中、広島・呉に嫁いだ18歳のすずの生活が、戦争の激化によって崩れていく様子が描かれた。コミックスの累計発行部数は120万部を突破しており、劇場版アニメが16年に公開され、ロングヒットを記録。女優ののんさんがすずの声優を担当したことも話題となった。
ドラマの脚本は、NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「ひよっこ」などで知られる岡田惠和さん、演出はTBS系の連続ドラマ「カルテット」「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」の土井裕泰さん。作曲家の久石譲さんが、民放連ドラでは約24年ぶりに音楽を手掛ける。5月上旬にクランクインし、撮影は大正時代に建造された民家を呉から移築したオープンセットを中心に、広島や岡山ロケも行われるという。
原作ファンはもちろん、劇場版アニメを観賞した人間からすると、ドラマが「戦争」という重いテーマを含んだ、ヒューマンタッチの家族ものになるというのは容易に想像できる。張り巡らされた伏線やマニアックな設定、深読みしたくなる会話劇、ちょっとした小ネタなどなど、昨今のヒットの指標ともなっているSNSをにぎわすような要素もおそらく出てこないだろうし、「ホームドラマは絶滅危惧種」などと言われる今、NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)ならいざ知らず、民放の、しかも単発ではなく連続ドラマでやるには一見不向きな題材であるように見えてしまう。
近年、対企業や対組織といった社会の中で奮闘する人々とその人間性を描いた、重厚かつ痛快なエンターテインメントで次々とヒットを飛ばしてきた近年の「日曜劇場」の中でも当然、異質だ。
「おかしの家」「99.9-刑事専門弁護士-」「カルテット」などエッジの効いたオリジナル作を手がけてきた佐野Pも、その点については「誤解を恐れずに言えば“地味”な内容ですし、戦争の時代の話を民放の連続ドラマでやるって、私の知るところでは最近はないと思う」と認めている。
ではなぜ、「この世界の片隅に」を連続ドラマでやろうと思ったのか? そもそも佐野P自身、今から10年以上も前に「この世界の片隅に」と同じこうのさん原作のマンガ「夕凪の街 桜の国」のドラマ化を夢見たこともあるというほど、原作の大ファンだったことが大きいようだが……。
佐野Pによると「去年の春、『この世界の片隅に』を読み直したとき、(自分が手がけてきた)『おかしの家』『カルテット』と同じように、この作品は居場所についての物語なんだって改めて気づいた」のが一つの出発点でもあったといい、「『自分らしさ』といったら大げさですけど、連ドラのプロデューサーを何本かやらせてもらった中で、これまで主人公が居場所を見つけていく話を結構やってきたなっていうことをふと思って。居場所をめぐる物語というか、自分なりのテーマでこの作品をドラマにしたいなと思ったんです」と振り返る。
「時間が積み重なって、紡がれていく日々のありようこそがこの作品の核だと思っているので、むしろ連続ドラマに向いていると思う」と持論を語ると、「原作のこうの先生も、最初にお会いしたときに『これまで2時間の枠でしかオファーが来なかったことが不思議だった』『連続ドラマに向いていると思う』という話をうかがえて、自分の感覚は間違ってなかったと信じられたのもうれしかった」と明かすなど、原作者のこうのさんとの意見の一致がまずあったというのは見逃せない。
とはいえ、強固な世界観を持つ原作に加えて、あまりにも有名な劇場版アニメとそのファンが存在する中での連ドラ化は、「火中の栗を拾う」とまではいかないものの、リスクは決して小さくはない。佐野Pは「地味な日常を淡々と描いていく、ある種のホームドラマで、最近の民放の連ドラの傾向とは全然違いますし、『戦争』というとても重いものを挟む。物語の後半には衝撃的な展開もある。決して軽やかな作品ではない。民放で連ドラ化するには障害が数多くある中で、それでも乗り越えて、これはやるべきと編成が考えてくれ、託してくれたのが何より大きいです」と明かす。
また「TBSの日曜劇場は、企業ドラマや医療、刑事もの、1話完結の痛快なエンターテインメントだけでなく、こういう作品もやるんだって見せるということは、TBSとしてのある種の『矜持』だと個人的には思います」と力を込め、「今、私たちが生きる社会ってすごく閉塞的だと思うので、だからこそ、明るく痛快なエンターテインメントが求められると思うのですが、外にパンっと開くものだけではなくて、いったん内側を見つめ直す機会というか。自分の家族や周りの人たち、あまりこの言葉は好きではないのですが、あえて使えば『絆』というものを見つめ直す機会になるようなドラマも必要なんじゃないかな」と話すなど、ことのほか思いは強い。
さらに「そういった作品を8月を迎える夏の日曜劇場でやるということの重みは分かっているつもりですし、戦争を扱ったドラマは、連ドラではあまりないと思いますが、TBSでは『さとうきび畑の唄』とか、以前にはたくさんあった。戦後70年を過ぎ、私たちが祖父母から直接聞いてきたものを、さらに下の世代に語り継いでいかなくてはいけない年齢になって、それを何か形にするというのは、一つの『義務』みたいなものなのではないかと、私はそう思っています」と最後まで真摯に語ってくれた。
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