アニポケ:枠移動から見えるアニメのテレビ放送の未来

どれだけ番組の選択肢を増やしたところで、そもそも普段テレビを見る習慣がない人には正直大して響かないと思います。
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どれだけ番組の選択肢を増やしたところで、そもそも普段テレビを見る習慣がない人には正直大して響かないと思います。

 「アニポケ」の略称でも親しまれているテレビ東京系の人気アニメ「ポケットモンスター」が20年ぶりに放送枠を移動し、10月7日からフジテレビ系の「ちびまる子ちゃん」と同じ日曜午後6時からの放送に変更される。人気アニメ同士の視聴率争いが今から注目されているが、週に100本以上(再放送含む)のアニメを見ている“オタレント”の小新井涼さんが独自の視点で分析する。

ウナギノボリ

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 いよいよ10月から、「ポケットモンスター サン&ムーン」の放送時間が木曜午後7時(午後6時55分)から日曜午後6時に移動します。20年ぶりの曜日移動というのも話題になりましたが、何より一番注目されているのは、やはり移動先が「ちびまる子ちゃん」と同じ放送時間帯になることです。これは「『ポケモン』対『ちびまる子ちゃん』の視聴率争いになる!」という見方が多いようですが、一方でテレビ東京側は移動について「『ちびまる子ちゃん』に(視聴率で)勝とうとか、奪おうとかではなく、別の選択肢を提供できれば(という思い)」とコメントしています。

 実際のところ、今回の曜日移動は「ポケモン」の視聴率にどのような影響を与えるのでしょうか。

 予想では、さすがの「ポケモン」も国民的アニメの裏番組では視聴率が下がりそう、という声が多いようですが、「案外そうでもないのでは?」と私は思っています。というのも今回は、「ポケモン」だけでなく、「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」が、その前の日曜午後5時半に一緒に移動してくるからです。「ボルト」が移動する時間帯には、民放キー局の裏番組にはアニメの放送がありません。そのため、「この時間にもアニメやってるんだ」と、「ボルト」からテレ東にチャンネルを合わせた人が、そのままの流れで「ポケモン」まで視聴し続けてくれることが期待できます。

 さらに今回の移動先が、日曜であることも重要なポイントです。ゴールデンタイムではないものの、平日より視聴率が高いため、午後5時半の時点でうまく視聴者を確保することができれば、「ボルト」から「ポケモン」という流れでテレ東を視聴し続ける人も、その分多く確保できると考えられるのです。

 これだけ聞くとただの希望的観測でしかないように思えるかもしれませんが、そもそも一度チャンネルを合わせたまま、流れで視聴させ続けるというのは、テレビ局による番組編成戦力の基本になっています。実際に日本テレビでは、同じ日曜に「笑点」から「真相報道 バンキシャ!」、「ザ!鉄腕!DASH!!」、「世界の果てまでイッテQ!」、「行列のできる法律相談所」までの大きな流れを作ることで、全体的な視聴率を上げることに成功しています。

 テレ東が今回「ボルト」と「ポケモン」を、「ちびまる子ちゃん」と「サザエさん」より30分先に編成したのも、「ちびまる子ちゃん」より30分先んじてアニメの流れを作っておくことで、「(視聴率で)勝とうとか、奪おうとかではなく」とはいいつつ、日曜夕方の視聴者を少しでも多くいただきたいという狙いがあるからだと思います。うまくいけば、「ちびまる子ちゃん」の裏でも「ポケモン」の視聴率が著しく下がることはないでしょうし、それどころか、元から高い日曜夕方の視聴率を考えると、木曜19時の頃よりも視聴率が良くなる可能性すらあるのではないでしょうか。

 そう考えると、実は今回の曜日移動で気にするべきなのは、「ポケモン」の視聴率というよりも、むしろこうして、視聴率の高い曜日の同じ時間帯に複数の局でアニメが放送されるようになっていくことの方ではないかと私は思います。今回あの“アニメのテレ東”でさえ、平日のゴールデンからアニメを撤退させてまで、わざわざ「ちびまる子ちゃん」の裏番組になるのを選んだのをみると、日曜夕方の視聴率というのはそれほど魅力的なのでしょう。であれば今後も同じように、アニメの放送が視聴者の多い曜日や時間帯にますます集中していき、そこで限られたパイ(視聴者)の取り合いが激化していくということも、十分にあり得ると思うのです。

 中にはそうして、今のニチアサのように複数の局で同じ時間帯にアニメを放送すれば、視聴者の選択肢も増えて、その時間帯にYouTubeなどの他媒体を選んでいた人もテレビを視聴する気になるのでは、という前向きな意見も見かけました。しかしそれは普段全く舞台を見ない人に対して演目のレパートリーを増やしてアピールしているのと同じことで、どれだけ番組の選択肢を増やしたところで、そもそも普段テレビを見る習慣がない人には正直大して響かないと思います。そうなると、結局そこで起きてしまうのは、やはり限られた視聴者を、アニメ同士が取り合うことなのではないでしょうか。

 今回の「ポケモン」の曜日移動は、実は「ちびまる子ちゃん」との視聴率争いもさることながら、特定の時間帯に集中してしまったアニメのテレビ放送がこれからたどる道のりを、暗に示している出来事だったのではないかと私は思います。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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