町田くんの世界:石井裕也監督&池松壮亮「見ると必ず優しい人になれます!」 主演の新人2人がもたらす相乗効果とは?

映画「町田くんの世界」を手がけた石井裕也監督(右)とキャストの池松壮亮さん
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映画「町田くんの世界」を手がけた石井裕也監督(右)とキャストの池松壮亮さん

 「舟を編む」(2013年)や「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」(17年)などの作品で知られる石井裕也監督が、主演に演技経験がほぼゼロの新人俳優2人を起用して撮り上げた「町田くんの世界」。新人をバックアップするのは、9人の主演クラスの俳優たちだ。そのうちの一人、池松壮亮さんと石井監督が対談。今作を手がけることになった感想や、出演する際に心掛けたこと、また、主演の細田佳央太(かなた)さんと関水渚さん起用の理由や共演の感想を聞いた。

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 ◇町田くんのような人は「いるべきだ」

 「若者のみずみずしさ、走っている姿とか、そういう青春の躍動みたいなことは、どうしても撮りたいと思いました。肉体を撮りたいと思ったのは初めてかもしれないです。それは(動いていない)マンガが原作だったからかもしれない」

 石井監督がそう語る映画「町田くんの世界」は、安藤ゆきさんが2015年から18年にかけてマンガ誌「別冊マーガレット」(集英社)で連載したマンガが原作。勉強も運動も苦手で要領も悪い。しかし人間愛だけは人一倍強い16歳の高校生、町田一(細田さん)が、それまで体験したことのない恋愛という感情に向き合う中で成長していく過程が描かれている。

 1983年生まれの石井監督は、映像化に当たって、人生で初めて少女マンガを読んだという。感想は「30歳を過ぎて、人を好きになるとか、人に優しくするとか、そういうことを丁寧に掘り下げるように描いているものを読み込むことなんかなかったので、刺激的だった。というか、新しい感覚をもたらされた気分になりました。簡単にいうと感動したんです」と本音を漏らす。半面、「現実世界に町田くんという人間を定着させるのはなかなか難しい試みだと思った」のも事実だ。しかし、「こういう人がいてもいいと思ったし、いるべきだ」という思いから監督を引き受けた。

 ◇「必要とされないキャラクター」を演じる池松

 「石井さんが少女マンガを手がけると聞いて、ものすごくうれしかったし、わくわくしました」と語る池松さん。学生時代から石井監督の作品を追いかけ、「次は何をやるのか勝手に楽しみにしていた」という池松さんにとっては、少女マンガが原作ということによって劇場に足を運ぶ観客の「間口がものすごく広く」なり、「普段、石井さんの映画を見ない人たちも、この映画にアクセスしようとする」ことに素直に喜びを感じた。

 その池松さんが演じる吉高洋平は、出版社に勤務し、ゴシップ記事を書く、石井監督の言葉を借りれば、「人間の悪意のかたまりしか見ていない」、いわば町田くんとは対極にいる男だ。池松さんは、その吉高の立ち位置を「町田くんが外の世界に向かったとき、その外の世界と町田くんの世界をつなぐ役割」と説明する。

 池松さんによると、「普段、2人の恋愛を描くことがゴール」である少女マンガの世界において、吉高のような存在は「必要とされないキャラクター」だ。しかし今作は、町田くんの恋愛話以上に、生きること、その過程で悩むこと、さらに、人間そのものを愛することをうたう人間賛歌。そこで池松さんは、“悪意のかたまりしか見ていない”吉高が、「まっさらな心の町田くんを信じることができなければ、その先にいるお客さんも(町田くんを)信じられない。その点において、ものすごく重要な役割をいただいた」との思いで演じていったという。

 ◇作品にいい作用を及ぼす2人の新人

 町田くんを演じた細田さんと、町田くんと深く関わっていくクラスメート、猪原奈々役の関水さんは、1000人もの応募者の中からオーディションで選ばれた。起用の理由を石井監督は、「人を好きになることがどういうことなのか分からないというキャラクターで、でも、分からないことがあるからこの世界は素晴らしいというテーマもあって、そういう映画を作るに当たって、本当に右も左も分からない人がいい、生々しい苦悩をしてくれる人の方が面白くなると思ったからです」と説明する。

 実際、2人と一緒にカメラの前に立った池松さんは、「僕ら、普段からお芝居を生業(なりわい)としている職業俳優には絶対できないようなことを2人とも平然としますし(笑い)、ものすごく面白いですよ。面白いし、僕らにも新しい感覚が生まれるし、いつも以上に気を抜けませんでした」と明かす。というのは、観客の視点が「絶対的にこっち(池松さん自身)に来る」ことが予想できるからだ。それが池松さんには「面白くもあり、刺激にもなり」、また「映画にもいい作用を及ぼすのではないかと思います」と話す。

 ◇2019年、最も必要な映画

 これから見る人にメッセージを求めると、池松さんが「まずは町田くんに出会ってほしいですね。その先のことは、(映画を)見てから一緒に話しましょうという感じです」と言えば、石井監督は、「この映画に全部込めているので……」と返答に困りながらも、「ものすごく元気な、楽しい映画です。それぐらいしか言うことないけどなあ」と頭を抱えた。見かねた池松さんが「2019年、世界にとって最も必要な映画だと僕は思います」と宣言すると、石井監督が「ありました、メッセージ」と頭を上げ、「これを見ると必ず優しい人になれます!」と締めくくった。

 映画は、勉強も運動も苦手で要領も悪く、しかし、分け隔てなく人を愛することができる心優しい高校生、町田くんが、人嫌いのクラスメートの猪原さんに出会い、初めて知る感情と向き合う中で、悩み、迷い、成長していく姿を描く。町田くんを新人の細田さん、猪原さんをやはり新人の関水さんが演じ、2人を岩田剛典さん、高畑充希さん、前田敦子さん、太賀さん、池松壮亮さん、戸田恵梨香さん、佐藤浩市さん、北村有起哉さん、松嶋菜々子さんという主演クラスの俳優9人が支え、心温まるストーリーが展開していく。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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