名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
「大人が泣ける!」と話題を集めている劇場版アニメ「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」(まんきゅう監督)が公開から3週で興行収入7億円を突破するヒットを記録している。すみっコぐらしは、「たれぱんだ」「リラックマ」などで知られるサンエックスの人気キャラクターだ。動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」で配信中のアニメ「リラックマとカオルさん」など、サンエックスキャラクターのアニメには大人までも引きつける魅力があるようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。
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大好評公開中の「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」や、Netflixオリジナルアニメ「リラックマとカオルさん」など、「サンエックス」のキャラクターを原作とするアニメには、“大人にも刺さる”作品が多いのが特徴です。一見、子供たちをメーンターゲットにしているかのように思わせながらも、広く大人たちまでも引きつけるサンエックスアニメの魅力とは、一体どこにあるのでしょうか。(※核心に触れるネタバレはありませんが、本編の内容に触れる箇所があります。気になる方はご注意ください)
映画やアニメによって更に人気が広まったところもありますが、実はサンエックスのキャラクターには、元々大人たちからも根強い人気がありました。その理由のひとつとして、可愛らしいビジュアルからはなかなか想像できない、“原作の(良い意味で)生々しい設定”があると思います。
例えば、すみっコたちはそれぞれが人見知りだったり、自分に自信がなかったり、“残り物”であったりというコンプレックスを持っています。また、リラックマは本物のクマではなく、実はひとり暮らしのOLの家に居候する“クマの着ぐるみ”だったりと、可愛い見た目に反してどこかシリアスだったり、ミステリアスな設定があるのです。
すみっコやリラックマといったキャラクター自体を知っている人は大勢いると思いますが、実はそうした詳しい設定というのは、元々の熱心なファン以外にはなかなか知られていなかったりします。そのため、「映画 すみっコぐらし」の冒頭でのキャラクター紹介や、「リラックマとカオルさん」でリラックマが“着ぐるみ”を洗濯しているシーンなど、アニメで初めてその設定を知った大人たちも多く、彼らは“ただ可愛らしいだけかと思っていたキャラがこんなに深い世界観を持っていたのか”と驚き、その意外性にぐっと引き込まれてしまうのではないでしょうか。
また、そうした原作の設定が妙に卑屈であったりネタ的に描かれることなく、“さりげなくアニメ化”されていることもポイントです。
例えば「すみっコぐらし」であれば、そのコンプレックスが“何かができないことの原因”ではなく、どちらかというと“だからこそこうなりたいと思っている”という前向きなものとして描かれています。また「リラックマ」では、リラックマたちのミステリアスな設定が、OLの悩み多き日常の清涼剤となるような、思わずクスッとしてしまうおちゃめなものとしてさりげなく描かれているのです。
両作をみていると、確かに全体的には温かく優しい物語であるはずなのに、なぜか同時に、深淵をのぞいているかのような底知れなさを感じてしまう瞬間があります。それというのも、この原作の生々しい設定が変に前面に押し出されることなく、温かく優しい世界観に包まれて所々にさりげなくちりばめられていることで、サブリミナル的にその深さ、つまり闇のようなものを感じさせていることが原因なのではないでしょうか。なぜか両作をみた大人たちの間で“闇が深い”という感想と共に作品が話題になることが多かったのですが、それにも実はこのことが関係しているように思います。
サンエックスアニメが大人を魅了するのには、こうした「原作設定」と「それをさりげなく生かしたうえでのアニメ化」というのが重要なポイントになっていそうです。
アニメ化をする際に、原作の生々しい設定をあえて描かずに、ただ可愛らしいに全振りした作品を作ることもできたかもしれません。しかしこの両作はそれをせずに、原作設定を生かして、なおかつそれらをさりげなく描くことで、ただ優しいだけではなく、どこか心に引っかかる深い部分を持ちながらも、やっぱり全体的には温かいという不思議な作品となっているのでしょう。“まさか自分たちが”と思っていた大人たちの間でこれだけ両作が話題になったのも、そうしたサンエックスアニメ独特の雰囲気が大人たちに意外性や新鮮味を感じさせ、思わず周りにも伝えたい!と思わせる拡散力になったからなのかもしれません。
そう考えると、今回の「すみっコぐらし」のこの盛り上がりというのも、“実は元々全年齢向けである原作”の世界観を、変に奇をてらうではなく、そのままうまくアニメ化したことによって、原作を知らない人にまでその魅力が広く伝わり、その世界観に驚いた彼らの衝撃が次々拡散された結果とも考えられそうです。
こあらい・りょう 埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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