ガンダム:世界的工業デザイナー奥山清行が語るデザインの魅力 「G40」の継承と進化

奥山清行さんが代表を務める「KEN OKUYAMA DESIGN」がデザインを手がけた「ガンダム」シリーズのRX-78-2ガンダムのプラモデル「HG 1/144 ガンダムG40 (Industrial Design Ver.)」(C)創通・サンライズ
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奥山清行さんが代表を務める「KEN OKUYAMA DESIGN」がデザインを手がけた「ガンダム」シリーズのRX-78-2ガンダムのプラモデル「HG 1/144 ガンダムG40 (Industrial Design Ver.)」(C)創通・サンライズ

 エンツォフェラーリ、マセラティ・クアトロポルテなどのデザインで知られる世界的な工業デザイナーの奥山清行さんが代表の「KEN OKUYAMA DESIGN」が、人気アニメ「ガンダム」シリーズのRX-78-2ガンダムのプラモデルのデザインを手がけたことが話題になっている。奥山さんに、「ガンダムG40」のデザイン、工業デザイナーとして感じるガンダムのデザインの魅力について聞いた。

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 ◇人間を中心に人間がどう使うかを考えてデザイン 自動車や建物のように

「ガンダムG40」は、「ガンダム」シリーズが今年40周年を迎え、同リーズのプラモデル(ガンプラ)が来年40周年を迎えることを記念したプロジェクト。KEN OKUYAMA DESIGN、バンダイスピリッツ・ホビー事業部、サンライズ制作のアニメ「機動戦士ガンダム サンダーボルト」などの松尾衡監督らで開発した。プラモデル「HG 1/144 ガンダムG40 (Industrial Design Ver.)」(3300円)がバンダイスピリッツから12月14日に発売される。

 1959年生まれの奥山さんは「リアルタイムでファーストガンダムを見ていました。大学生になるくらいの頃でしょうか」というガンダム世代。自身もガンプラを作ったり、改造していた経験がある。ファンということもあり、今回のオファーを受けて「正直、かなり迷った」という。

 「デザイナーとしての立場、ファンとしての立場のいずれかでデザインしなければいけない。今回は、ファンとしての立場でデザインしたかった。工業デザイナーのエゴとしてデザインを大きく変えるのでなく、できるだけ変えたくなかった」

 「アニメから本物へ」をテーマに工業デザイナーの視点でデザインしたという「ガンダムG40」を見ると、第一印象はオリジナルと同じようだが、何かが違う。一体何が変わったのか? 奥山さんはリアリティーを追求してデザインした。

 「自動車や電車、建物などをデザインする際に、人間を中心に人間がどう使うかを考えてデザインします。G40も全く同じ考え方でデザインしました。オリジナルガンダムは18メートルの兵器として構造に矛盾があります。関節が動くようにデザインされていないんです。元のデザインを生かしながら、動力機関やコンポーネントのレイアウトなど、内部構造まで設計しました。 180センチのパイロットが実際に乗ることができるコックピット、ジョイントの太さ、強度、カメラの位置などをデザインし、初代の印象を残しつつ、本当に動くものにしたかった」

 頭部のメインカメラは、周辺の情報を集めることができるようにライン状に可動。前腕に関節を追加して、人体のような動きを実現した。腹部はねじり、伸ばす動きによって、人体よりも可動域を広げた。脚部は、アニメで表現されたしなやかな躍動を再現できるようにデザインを検証した。

 コア・ファイターもリアリティーを追求した。オリジナルガンダムは、コアブロックシステムという機構によって上半身、コア・ファイター、下半身が分離、合体する。玩具としての格好よさはあるが、非合理的にも見える。「ガンダムG40」は上半身、下半身が分離しない。コア・ファイターが変形し、背部からドッキングする。今回のスケールで発売されるプラモデルにはドッキングのギミックはないが、商品化されない細部まで設計した。コックピット内のディスプレーの位置、大きさ、椅子……とプラモデルに付属する設定資料を見ると、そこまでやるのか!と驚かされる。

 アニメとプラモデルで造形や動きが違う……という経験をしたことがあるかもしれないが、「ガンダムG40」はそんなことはない。設計したCGモデルを使ったスペシャルムービーとプラモデルは造形が同じだし、同じように動く。デザインに矛盾がないことが映像からも分かる。

 ◇普遍的な魅力 現代に合わせた進化

 奥山さんがあえてデザインを大きく変えなかったのは、ファンだったという理由だけではない。デザイナーとしてガンダムには時代を超越した普遍的な魅力があると感じているからだ。

 「普遍的な魅力は間違いなくあります。アニメでガンダムが最初、トレーラーから立ち上がるシーン。あれが忘れられないんですよね。人間の形をしたロボットが動き出す衝撃を肌で感じた。本物のようだったんです。そこは変えなくていいんです。色にしてもあえてトリコロールカラーを残した。兵器としては目立つ色です。矛盾しているのですが、試作機として残したかった。白のトーンのグレーを強くして、セラミック風にしたり、赤、青も強過ぎない色にはしていますが」

 これまでも、奥山さんは普遍性のあるデザインをあえて残したことがあった。

 「今年、セイコーの1968年製ダイバーズウオッチをモチーフとした新商品の開発アドバイザーを務めたのですが、変えないでいいところは変えなかった。日本製品の中には、必要ないのに新しくして、普遍性、魅力が失われてしまっているものもあります。変えることが作り手の義務と勘違いしているのかもしれません。イタリア、ドイツで仕事をしていて、継承と進化を意識するようになりました。もちろん、進化しなければ、現代の生活には合わない。変えないところは変えていないので、第一印象は同じですが、昔のものと比べると全然違う。それがブランドになるんです。今回のG40も同じです」

 まさに「ガンダムG40」は継承と進化を遂げたデザインになった。プラモデルを実際に組み立てて、手に取ってみれば、ガンダムのデザインの普遍的な魅力、合理的かつ美しい奥山さんのデザインを、より深く理解できるはずだ。

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