デジモン:大人になった“選ばれし子どもたち”に今、伝えたいこと 「運命にはあらがえる」

劇場版アニメ「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」の田口智久監督
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劇場版アニメ「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」の田口智久監督

 アニメやゲームが人気の「デジモン」シリーズの新たな劇場版アニメ「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」が、2月21日に公開された。小学生だった八神太一や石田ヤマトが大学生となり、“選ばれし子どもたち”がそれぞれの道を進み始める姿が描かれる。劇場版を手掛ける田口智久監督は、「デジモン」シリーズを見てきたデジモン世代で、「大人になっていく太一たちのモラトリアムの悩みを自分とも重ねてほしい」と語る。最新作で描く「大人」とは……。

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 ◇大人になったファンに向けた新作 太一やヤマトのモラトリアムからの脱却描く

 「デジモン」は、1997年6月に携帯ゲームが発売され、テレビアニメ第1弾が1999~2000年に放送。2015~18年に新シリーズ「デジモンアドベンチャー tri.」が展開されるなど、息の長いコンテンツとして親しまれている。新作は「デジモン」シリーズの初代プロデューサーの東映アニメーションの関弘美さんがスーパーバイザーとして参加し、「デジモンアドベンチャー」のオリジナルスタッフの中鶴勝祥さんがキャラクターデザインを担当。これまでもデジモンをデザインしてきたデザイナーの渡辺けんじさんが続投するなど、シリーズを支えてきたスタッフが集結している。

 田口監督は、新作について「テレビアニメ第1弾のオリジナルの演出や音楽などを使って、『デジモンって、こういうものだったんだ』ということをちゃんと伝えるものにしたかった」と語る。新作は、オープニングテーマに和田光司さんの「Butter-Fly」を採用し、デジモンの進化シーンもテレビシリーズに準じて描く。

 オリジナル作の演出を使いつつ、新作で描きたかったのは、大学生になった太一やヤマトたちの「モラトリアムからの脱却」だった。

 「昔、選ばれし子どもたちとして活躍した後、大学生になって、実際に社会に出るという時、彼らはどういう目的や目標を持ってやっていくのだろうと考えました。彼らは、『02』(テレビアニメシリーズ第2弾『デジモンアドベンチャー02』)のラストで将来が決まってしまってはいるんですけど、どう悩み、どんなことがあったのかを描くことで、当時見ていた人たちも、『自分にもこういう悩みがあった』『今、同じように悩んでいる』と、太一やヤマトと重なってほしかった」

 ◇「デジモン」が描く「大人になること」

 田口監督が新作のプロットを提出した時、スーパーバイザーとして参加する関さんは「率先して『いいんじゃない』と言ってくれた」といい、「関さんが、太一たちが通う大学や学部など、選ばれし子どもたちの成長したキャラクターのイメージを詳細に作ってきてくださって、それを基に今回のキャラクターをメーキングしていった」と振り返る。

 今回、「大人になること」をどう描くのか、田口監督は悩んだという。

 「大人になる過程でいろいろ選択して、子どもの頃に持っていた可能性の枝を折っていくことが大人になること。いろいろ捨てていかなければ、大人にはなれない。子どもの頃に抱いていたものを全部持って大人になるというのは、ほぼほぼ不可能だと考えていました」

 そんな時、田口監督は、関さんから「宿命は変えられないもの。運命はあらがえるもの」という話をされたという。

 「何か書物の引用だったと思うのですが、宿命は、確実にそうなるものだけど、運命自体は自分の行動一つで変えられるものだとおっしゃっていました。大人になることは『宿命』。新作では、それを受け止めた上で、自分の意志で進めるような言葉がほしいとずっと思っていたんです。そんな時、関さんがそういう話をされて、宿命と運命という言葉を使って、まとめられないかと思いました」

 予告編でも、太一とヤマトの「宿命は変えられないかもしれない。でも運命は変えられる。これが俺たちの最後の進化だ」というせりふが登場する。「大人になること」に、さみしさやネガティブなイメージを持ちそうになるところを、田口監督は「そうじゃないというメッセージを、『変えられないものもあるけど、あらがえるものもあるよ』と伝えたい」と力を込めた。

 ◇「02」のメンバーを登場させる意味

 今回の新作は、本宮大輔ら「02」のキャラクターが登場することも話題になっている。海外も舞台の一つとなり、大輔らがニューヨークにいる姿が描かれる。田口監督は、「02」のキャラクター登場について「これは、木下(陽介)プロデューサーが要望したことで、『tri.』でも『02』のメンバーは出せずじまいだったので、今回は成長した姿を見せてあげたいという強い思いがありました」と話す。

 田口監督は「02」のキャラクターについて「友達感というか、あの感じはいつまでもきっと変わらないんじゃないか。太一たち初期のメンバーとは雰囲気が違う若い世代。その感じを今回は大切にしたいと思いました」と語る。

 大人になることに葛藤する太一たちと、友達感にあふれる大輔たち。二つの世代を登場させることで、「ストーリーに緩急を持たせ、キャラクターの対比としてもうまく作用させたい」という思いがあった。

 田口監督は、「デジモン」シリーズの魅力を「トゲがあるというか、ちょっと触ると痛い感じがする。そういう痛みもちゃんと表現できている作品」と語る。

 「僕が中学生の時にテレビアニメ第1弾がスタートしたのですが、キャラクターたちが小学生ながらリアルな悩みに直面して、深く悩む。しかも、親や兄弟という家族の問題もテーマにしていて、結構ハードなことをやっているなと思った記憶があります。今の自分にも通ずる普遍的なテーマを扱ってきているからこそ、ファンの人たちが卒業しないコンテンツというか。大人になっても心のよりどころになるような作品だと思います」

 デジモン世代の田口監督、オリジナルスタッフが集結し、大人になっていく“選ばれし子どもたち”を描く新作。太一たちの新たな進化に注目だ。

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