メディアミックスの「カゲロウプロジェクト」のクリエーター・じんさんと、アニメ「交響詩篇エウレカセブン」の脚本家・佐藤大さんがタッグを組んだテレビアニメ「LISTENERS リスナーズ」。佐藤さんは、テクノレーベル「フロッグマンレコーズ」を設立した音楽家でもある異色の脚本家。「LISTENERS」には数々の音楽ネタが散りばめられている。佐藤さんに「LISTENERS」の制作の裏側を聞いてみると「ケヴィンが下ばかり見ていて、引きこもっていて」「プリンスが小声でしゃべる……」と音楽ファンがニヤリとする話が飛び出した。
ウナギノボリ
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「LISTENERS」は、スクラップの街で暮らす少年エコヲ・レックが、体にインプットジャックの空いた謎の少女・ミュウと出会い、共に世界を旅するストーリー。「亜人」などの安藤裕章さんが監督を務め、「ユーリ!!! on ICE」「ゾンビランドサガ」などのMAPPAが制作する。MBS、TBSなどの深夜アニメ枠「アニメイズム」で放送中。
佐藤さん、じんさんの出会いをきっかけに「LISTENERS」は誕生した。
「(『LISTENERS』をプロデュースする)スロウカーブの橋本(太知)さんとじんさんが知り合いで、『一回会ってみない?』と話があったんです。じんさんのことはもちろん知っていました。親子くらいの年齢差があるので、話が合うんかな? と不安に思っていたら、彼が『カウボーイビバップ』『交響詩篇エウレカセブン』を見ていて、すごく好きで影響を受けた……ということだったんです。それに、彼はビートルズやオアシスが好きなギター少年だったんですね。僕らが昔一緒に遊んでいたようなギター少年だったんですよ。すごく面白いなと思って『何やりたいんですか?』と聞いたら『ロボットものがやりたい』ということだったんです。ロボットアニメで音楽と親和性が高いもの、あ、それで僕のところに来たんだなと(笑い)。何か一緒にできるかもね……という感じでスタートしました」
じんさんは脚本を書くし、音楽も作る。佐藤さんは、ロボットアニメの構造、脚本を一緒に考えることになった。キャラクター原案のpomodorosa(ポモドロサ)さん、メカニックデザインの寺尾洋之さんらが加わり、企画が形作られていった。pomodorosaさんも実はミュージシャンで、寺尾さんもギターのエフェクターを自作するなど音楽に造詣が深かった。まるでバンドを組むようにメンバー(スタッフ)が集まった。スタッフの年齢はバラバラだが、音楽の話をする中で骨幹ができた。
「好き勝手に夢想していて、バンドを組んで楽曲を作る前に、Tシャツの話をしているみたいな感じでしたね。じんさんは、音楽の聴き方がフラットなんです。僕らは何となく縦軸で分類して聴いてしまいますが、じんさんはビートルズもオアシスも同じように聴く。それが新鮮でした。その感じをロボットの世界観に落とし込もうとしました。ジャンルという国がフラットに連なっていて、それぞれの国に象徴であるスタープレーヤーがいて、国同士がいがみ合っている。そういうことは違うんじゃないの? という若者が旅をして、おじさんたちが心変わりをしていく。そんな構造になっていきました。じんさんという若者に会って、僕ら世代がなるほど! と思ったことに近いのかもしれません」
じんさんは人気クリエーターだ。佐藤さんは一緒にアニメを作る中で刺激を受けた。
「一番大きいのは物語を作れる人ってところ。ミュージシャンで小説家という人はいますけど、じんさんは頭の中の絵と音楽の親和性が高い。それに、バックボーンがギター少年というところがすごく新鮮。打ち込みというかダンスミュージック以降の発想ではない。ボーカルをボカロ(ボーカロイド)にして発表していたけど、すごく僕らと近いんですよね。おじさん的には、こういう人がいるのか! とうれしかったんです」
「LISTENERS」には、イクイップメントというロボットが登場する。イクイップメントとは音楽機材という意味があり、主人公・エコヲの自作したアンプ型のイクイップメントがロボットになって活躍する。
「イクイップメントってあまりなじみがないかもしれませんが、なんかロボっぽい(笑い)。ギターじゃなくてアンプが大きくなって、ロボットになると思い付いた時、これは見たことがないロボアニメになる! と確信しました。よくよく考えたら、アンプは音を増幅させる機械だから、気持ちを増幅してロボになるっていうのは、理にかなっている。体にジャックがあって、接続するのもエロチックでいいかもしれない。これはイケる……つまり悪ノリです(笑い)。ロボット玩具を売りたいとか、ロボアニメが減りつつあるとかそういうことを考えたわけではなく、これは面白い! となったんです」
ニル、ホール、殿下、マッギィ、ビリン・ヴァレンタイン、ケヴィン・ヴァレンタイン、ツェンデ・ノイバウテン、アイン・ノイバウテン、シュテュル・ノイバウテンのノイズ三姉妹、ライド……とキャラクターにも音楽ネタがちりばめられている。
「プリンスが小声でしゃべる、ジミヘンがギターを燃やすとか知っているけれども実際見たことがない、伝説じゃないですか。昔のミュージシャンの面白さってそこにある。ロボットアニメのキャラクターのプロフィルになるんじゃいないかな? となったんです。ケヴィンが下ばかり見ていて、引きこもっていて、ビリンにケツをたたかれて動き出すみたいな。意外に一般性があるロボットアニメの物語になる。メンバー(スタッフ)がそれぞれネタを入れているので、僕も気付かないものもあります(笑い)」
音楽ファンがニヤリとする描写も多いが、分からなくても楽しめる。それをあえて説明していない。
「『ビバップ』『エウレカ』をやっている時に、伝わる人には伝わるし、伝わらない人にはそれはそれで楽しいとなった経験があったので、大丈夫かな? ある日、音楽を聴いて、あれ、同じ名前じゃん、あの音楽だ! となる。アルバム一枚作るのに国を滅ぼしたキャラクターがいたのは、ああだからね……となったり。ニルが幼女? とか怒られるかもしれないけど、馬鹿にしているつもりはないので」
根底にあるのはボーイ・ミーツ・ガール、青春ストーリーでもある。
「田舎にいて、どこにも行かなくていいや! という男の子が、格好いい女の子と出会って、世界中を回り、大人の心を動かすという構造はシンプル。オタクが世界を変えてしまうというのは、『ガンダム』『エヴァンゲリオン』もそうですし、音楽にしても田舎のさえない男の子が音楽でスターになって、その重圧に耐えられなくなる……という構造がありますし」
オタクが世界を変えるという夢のあるストーリーにさまざまな思いを込めた。
「外の世界に出て行くきっかけとして音楽だったり、小説、マンガ、アニメがあってもいいし、逆に閉じこもるきっかけとして存在していてもいいと思う。オリジナルのアニメを作れる機会はなかなかないですし、チャンスをいただいたからには、新しい発見や冒険があるものにしたかった。音楽を作ったり、語り合う楽しさも伝わるとうれしいです。天才がスターではなくて、どうしようもないやつが世界を変える。ロボットアニメで音楽の楽しさを伝えるというのは、変化球かもしれないけど、見たら伝わるものにしたかった」
「LISTENERS」は、ただの音楽アニメ、ロボットアニメではない。スタッフが込めたさまざまな思いを感じるはずだ。
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