ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
劇場版アニメ「ペンギン・ハイウェイ」などで知られるスタジオコロリドが手がける最新作「泣きたい私は猫をかぶる」(泣き猫)が、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」で配信中だ。「おジャ魔女どれみ」などの佐藤順一さん、「千と千尋の神隠し」などに参加してきた柴山智隆さんがダブル監督としてタッグを組み、柴山さんは今作が長編アニメ監督デビューとなった。ファンタジーな世界観で、思春期の中学生の悩みや葛藤も描き出す本作。子供たちに伝えたいメッセージとは……。佐藤監督、柴山監督に聞いた。
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「泣きたい私は猫をかぶる」は、愛知県常滑市が舞台で、ムゲ(無限大謎人間)と呼ばれる中学2年生の笹木美代が、猫に変身できる不思議なお面で猫の太郎になり、思いを寄せるクラスメートの日之出賢人に会いに行く……というストーリー。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などの岡田麿里さんが脚本を手がけた。女優の志田未来さんがヒロインで中学2年生のムゲ、花江夏樹さんが日之出をそれぞれ演じた。
――今回作品のテーマは?
佐藤監督 タイトルに「猫をかぶる」と付いていますが、「仮面をかぶって何かをする」ということがドラマの軸になっています。ムゲが仮面をかぶって新しい自分になり、できないことをするというギミックなのですが、実はムゲは普段から学校や家で日常を荒らさないようにずっと仮面をかぶっているんです。
――ムゲは両親が離婚し、今は父とその婚約者の薫と同居中。ムゲが薫に気を使って生活しているような描写もあります。
佐藤監督 ムゲは、仮面を付けて猫になった時に一番自分らしい行動をしているんです。何の遠慮もなくしゃべったり、学校では素っ気ない態度を取られる日之出にも甘えたいように甘える。逆転の構図なんです。今の中学生も小学生も、それぞれの日常の中で波風を立てないようにいい感じに自分を演じることが上手で、とくに問題がなければ違和感も感じないぐらい自然に仮面を付けている。
ただ、例えば恋をした時や自分の進む道を見つけた時など、波風が立った時にどうしていいか分からないぐらい混乱してしまうということが結構あるのではないか。この物語の軸としては、日常の中で普通に仮面をかぶっている人たちが、もう一度自分がいる場所を見直した時に、そこに当たり前にいた人、当たり前にあった空間が思っていたよりもすてきだったりするかもしれない、と気付くきっかけになればいいなと考えました。
柴山監督 やはり仮面をかぶっていると、ほとんどの人が本当の自分を出してはいないと思います。その仮面を外して自分を出すことで、大切に思ってくれている人がいることに気付くことができるかもしれない。そんなきっかけになるといいなと思いながら作っていました。
――「仮面をかぶる」ことは、小中学生だけでなく大人にも通じるテーマのように感じます。
佐藤監督 シナリオを作っている時は、ターゲットとしては若い人を想定していました。ムゲと離れて暮らしている実の母の美紀さんや父親、薫さんという大人たちのバックボーンやそれぞれの事情は、想像を膨らませるところまではいかないというか、身勝手な大人たちとして描かれていると思います。
ただ、絵コンテをやる段階になって、例えば薫さんであれば、「もしかしたらこの人も母親に捨てられた経験があったりするのかな」と想像していくことによって、ちょっと許せたり、「大人たちだっていろいろあるよね」という思いになったり、そうした角度の目線が入るようにしました。
柴山監督 「泣き猫」は中学生のドラマですが、大人に対しても他人と自分以外の人との距離感というか、普遍的なものを描いているので、大人たちにも受け入れていただけるものになるのではないかと考えながら制作していました。
――脚本を手がけたのは、さまざまな作品で思春期の中高生の心情をリアルかつ繊細に描いてきた岡田麿里さん。脚本の魅力は?
柴山監督 僕は以前、岡田さんが脚本を担当された「心が叫びたがってるんだ。」に参加したことがあるのですが、その時からせりふが素晴らしくて、登場人物が心情を吐露するシーンは特に生っぽい存在感がありました。今回の「泣き猫」でも同じような印象を受けました。本当に魅力的で、読む人を刺激するような文章だと思います。
佐藤監督 岡田さんの脚本は、人物描写がどろどろしていると言われている気がしていたのですが、実際出来上がった作品や、今回のシナリオを見ても、すごく登場人物がピュアなんですよね。裏表があったとして、ピュアだからこそ出る裏表だったり、本心は常に表に出ている。それは特に若者や、主人公周りを描く時に如実に表れる。
その代わり、大人たち、親たちを描く時に少し突き放していて。大人たちが身勝手なもの、子供たちの行く先を妨害する存在として描かれていることが多いなと思っていました。今回のシナリオもすごくピュアな中学生を描く半面、大人たちは身勝手に描かれていた。これは岡田麿里さんの中学生時代の風景なのかなという気がしてきました。そう考えると、大人たちにもそれなりに人間らしいだめさを持っていたり、身勝手なのもピュアさゆえの身勝手さがあるんじゃないかと。そうした大人たちの部分は、絵コンテで僕がプラスアルファしました。
――大人たちの要素を入れることで、家族を描くことができて、物語にも深みが出てくる?
佐藤監督 そうなるといいなと。岡田さんのシナリオの段階で、ムゲが家や学校では自分の居場所を守るために仮面をかぶっていて、お面を付けて猫になった時に一番自分を出すというのは、すごくピュアな構図で描かれていたんです。そこは、岡田さんが描く人物の魅力だと思います。それにプラスして、少女・岡田麿里の目線を少し彩りたいなという思いがありました。
――今回は、佐藤監督、柴山監督のダブル監督ですが、タッグを組まれていかがでしたか?
佐藤監督 今回は全体的なところは僕のほうで進めつつ、絵コンテや演出など現場的なところは共同でやりました。絵コンテに関しては、僕はファンタジー世界の絵的なイメージ、ビジュアルを広げるのはとても苦手で、あまり引き出しがないんですよ(笑い)。そういうところは柴山監督にお願いして、「面白い世界観ない?」とお願いしてやっていました。
柴山監督 僕はそのあたりは面白がっていて、若干無責任なレベルで「こういうのはどうですか?」と。ドラマのほうも面白く膨らむといいなと思って提案していました。今回、佐藤監督と一緒に作業して、勉強になるところがいっぱいありました。本読みの段階から、「何を大事にするか」をぶれずに拾ってまとめていくんです。
あとは、絵コンテが本当に素晴らしい。ムゲは無限大謎人間といわれるぐらい自由奔放なところがあるので、見ている人に嫌われないようにしなければと思っていたのですが、佐藤監督から冒頭のコンテが上がってきた時に本当に魅力的に描かれていました。ムゲがその行動を取ることには意味があるという部分も描かれていた。コンテでの気付きがとても多かったです。
――映像を手がけたスタジオコロリドの印象は?
佐藤監督 この作品を作るに当たっては、ビジュアル的な問題に関してはコロリド作品のテイストを出したいというオーダーはもらっていたので、まずは「ペンギン・ハイウェイ」の世界を広げた感じにしようと。コロリドのテイストはどんなものだろうというところからアプローチを始めました。
柴山監督 コロリドはまだ若いスタッフの方が多く、とてもエネルギーがあり熱量の高いものを持ってきてくれるので、そこをちょっとコントロールしてあげると本当にいいものになる。みずみずしい部分は生かしつつ、佐藤監督や僕のほうでも繊細な芝居付けをしていったことが、この作品ではうまくいっているのではないかと思います。「ペンギン・ハイウェイ」の石田祐康監督や、キャラクターデザインを担当された新井陽次郎さんにも参加していただいて、スタジオをあげての総力戦という感じで、みんなで作ったという思いが強いです。
学校の教室でたくさんの生徒たちがどたばたとやり取りをするシーンがあるのですが、ムゲなどメインキャラクターを見ている他の生徒たちがとても生き生きと描かれています。現場的には、なかなかそこにカロリーをさけない事情もあるのですが、担当の原画さんがそのシーンの重要性を組んで、丁寧に芝居をつけてくれました。そうしたフィルムの厚みも画面から感じていただけるのではないかと思っています。
佐藤監督と柴山監督がタッグを組み、岡田さんの脚本、スタジオコロリドのエネルギーあふれる映像で描く「泣き猫」。その世界観をじっくりと味わいたい。
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