8月28日公開の映画「青くて痛くて脆い」(狩山俊輔監督)に出演する女優の森七菜さん。森さんは今作で、吉沢亮さんと杉咲花さんが演じる大学生が、慈善活動をする中で知り合う不登校の少女、西山瑞希を演じている。放送中のNHK連続テレビ小説「エール」に出演するなど成長著しい注目女優の森さんに、憧れの存在である杉咲さんとの初共演の感想や、複雑な内面を抱える瑞希の役作り、さらに女優としての将来像や、ステイホーム中の過ごし方などについて聞いた。
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映画は、デビュー小説「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」などで知られる住野よるさんの同名小説が原作。「世界を変える」という目標を掲げ、秘密結社サークル「モアイ」を作った大学生の田端楓(吉沢さん)と秋好寿乃(杉咲さん)。ところが秋好は突然、楓の前からいなくなり、モアイは別の学生に乗っ取られてしまう。自分の大切な仲間と居場所を奪われた楓は、親友や後輩と手を組み、モアイ奪還計画を実行に移していく……というストーリー。森さんが演じる瑞希は、楓と秋好がモアイの慈善活動中に知り合う不登校の少女という設定だ。
演じた瑞希を、森さんは「他人といてもはみ出すんじゃないかという気持ちと、どこかではみ出していたいという気持ちがあって、自分が他の子と比べてちょっと特別なんだと思っている女の子」と分析する。瑞希という役は原作には存在しないが、オファーが来たときは、「この映画に絶対必要だからこそ加わった役だ」と思い、だからこそ「責任とプレッシャー」を感じたという。
台本には瑞希が不登校になった明確な理由は記されていなかったが、友人関係に悩んで学校に行きたくないと思った自身の経験や、「それこそ痛い話ですけど、私も小学生のころは、自分はちょっと変わっているというところを表現したいと思っていたので、懐かしい気持ちがよみがえってくるというか、瑞希はその気持ちをそのまま持って中学生まで上がった」ととらえて演じていった。
映画では、森さんがベースギターを弾きながら熱唱するシーンがある。森さんは、小学生のときにクラブ活動でベースを弾いてみた経験があり、撮影でもスムーズに演奏できたと思いきや、もともと左利きで「昔は右利き用(のベース)を(通常は左手だが)右手で弾いていました。今回は右利き用を左手で演奏したので難しかったです。ありえない指の位置があったりするんです。指がそこに届くようになんとか頑張りました」と振り返る。
歌ったのは、ロック調にカバーした故・野坂昭如さんの「サメに喰(く)われた娘」だ。映画「ラストレター」(2020年)でバラード調の主題歌「カエルノウタ」を歌い、歌手デビューした森さんは、「(『カエルノウタ』とは)図らずも真逆の方にいってしまいました」と照れ笑い。「でも、あの曲を選んだということについても、瑞希が何か特別な部分を表現したいという、周りの人にはなかなか理解しづらい曲だけれど『私はこれが好き。いいでしょ』と言っているような気がしました。その気持ちはすごくよく分かります」と共感しつつ、「でもやっぱり、サメに喰われた~というのは、ちょっと感情移入しづらかったです」と苦笑交じりに明かす。
初共演の杉咲さんは、森さんがずっと憧れていた女優だ。瑞希が初対面の秋好に「うざい」と言い放つシーンでは、「自分の汚れも認めて、その汚れを自分で洗い流せる秋好をうらやましく思っていて、若干ねたんでもいる」という瑞希になり切り、杉咲さんに対して「尊敬の人を見るキラキラな目線」が出てしまわないようにしたという。
瑞希がある出来事から錯乱し暴走するシーンのテストでは、杉咲さんとの“化学反応”も体験した。「自分があんなに泣きわめくと思っていなかったんです。でも、杉咲さんの『楓! 楓!』という言葉を聞いて、とんでもないことをしてしまったと我に返って、涙を流すよりも叫ぶしかないと思ってしまったんです」と明かす。
もっとも本番では、杉咲さんは別撮りで、その場にはいないはずだった。「杉咲さんがいないとダメかも」と思った森さんは、待機していた杉咲さんに「一緒にまたやってもらえませんか」とお願いしたところ、杉咲さんは快諾。森さんは無事に演じることができた。「お芝居で人を変えることもそうですし、誰かのために自分の気持ちをもったいぶらずに表現することって、軽々しくはできないことだと思います。杉咲さんのそういうお人柄と才能に改めて引かれました」と、杉咲さんへの尊敬の念は一層強くなったという。
完成作を見て、「私も、無理に自分をよく見せようとするのではなく、自分の痛さも認めて本当の気持ちを(相手に)素直に伝えてみようと思いました」と話す森さん。そして、「この映画はすごく深いから、また違う発見がいろいろあると思います。人によっては楓側と秋好側に分かれると思うので、早く見てもらって、皆さんのレビューを読みたいです」と心待ちにしている。
森さんは8月31日に19歳になる。2019年公開の劇場アニメ「天気の子」ではヒロインの天野陽菜の声を担当し、その後も「ラストレター」や、現在も朝ドラ「エール」でヒロインの妹を演じるなど多忙な日々を送っている。だが本人は、「この映画の撮影も4日間ぐらいでしたが、その中でどれだけ熱を入れられるかが勝負でした。全然忙しくないので、まだまだ頑張りたい!って感じです(笑い)」と若さと意欲をみなぎらせる。
森さん自身、現在の状況を「売れっ子状態」と思っていないそうで、「今も朝ドラに入っていますけど、毎日新しい人と出会って、私がどれだけ未熟者なのかということを教えてくれる人がいることがありがたくて……」と感謝する一方で、「自分が毎日小さくなっていっているような気がします。作品(の撮影)が終わったら達成感でちょっと膨れることもあるんですけど、毎日、今日はあれがだめだったなと反省ばかりしています」と謙虚に語る。
新型コロナウイルス感染拡大の影響によるステイホーム期間にはルームランナーを購入した。以来、「ほぼ毎日、30分くらいですけどおうちで走っています。毎日それをコツコツやればいいかなと思っています」と励んでいる。
この期間はまた、家族のありがたみを実感できた時間でもあった。というのも森さんはこれまで、実家がある大分から仕事があるたびに上京していたが、今年の春に家族で東京に引っ越した。
「大分と(東京を)行ったり来たりしていたときは、家族と一緒にいる時間が本当に少なかったのだと痛感しました。大事な少女時代を母と離れて過ごしてしまったという後悔もあり、だからこそ、反抗期や思春期を抜けたころに母の大事さに気づけたことはよかったと思っています。特にお休みだと毎日一緒にいられるのですごく仲よくなりました。お陰で今後の我が家は安泰だと思います」と笑顔を見せる。その母親が撮影現場に毎日持たせてくれる手弁当が元気の源だ。
「ずっとお芝居を続けていたい、息の長い人になりたいと思うからこそ、そうなっていない自分がいるんじゃないかと悪い方にばかり考えてしまう」という森さん。だからこそ10年後は、「怖くて想像できない」という。それでも、「お芝居も、人としても信頼される人になりたい」と望んでいる。「例えば、原作があるものだったら、この人がこのキャラクターをやってくれるなら大丈夫だとか、この人が出る作品だから絶対に面白いと思ってもらえるようになりたいです。そして、肌で触れた人たちにも、また会いたいと思ってほしいです」と真っすぐな瞳で語った。
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