超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ついにリリースされる次世代ゲーム機、プレイステーション(PS)5、Xbox Series X/Sの考察と、話題を呼んだ○×△□ボタンの変更について語ります。
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いよいよ発売が目前にせまった次世代ゲーム機。ソニー・インタラクティブエンタテインメントからプレイステーション5、マイクロソフトからXbox Series X/Sが、11月に相次いで発売される。すでに多くの論評がなされているが、ここでは「業界初」の変化に注目してみよう。
先手を切って11月10日に発売されるXbox Series X/Sでは、「X」「S」という異なるモデルが存在する点が目を惹(ひ)く。PS5でもディスクドライブを排した「デジタルエディション」が発売されるが、Xbox Series X/Sでは本体のスペック自体が異なっている点。最大の違いは4Kテレビへの出力対応の可否で、「S」は2K(フルハイビジョン)対応までだ。価格も「X」が499ドルで「S」が299ドルと、200ドルの差がつけられている。ニンテンドースイッチの価格帯と競合することは、言うまでもない。
もっとも、マイクロソフトが重視するのは新興国を含めたより幅広い市場や所得者層へのリーチだろう。これまでゲーム機は新型モデルの発売や価格改定を繰り返しながら、徐々に高所得者層から低所得者層へとシェアを広げてきた。それを最初から二つのモデルを発売し、一気に市場を押さえようという戦略だ。実際、テレビが2Kでは「X」の高性能も宝の持ち腐れだ。「X」の購入はテレビを4Kに買い換えたタイミングでも遅くない……そう考えるユーザーも少なくないだろう。
これに対してPS5ではコントローラーのデザインで興味深い修正を行った。PS5のアイコンともいえる○×△□のボタンの意味を全世界で統一したのだ。これまで日本では「○」で決定、「×」がキャンセルの意味だったが、PS5では世界基準にあわせて「×」が決定、「○」がキャンセルとなる。また、PS4までは○が赤、×が青、△が緑、□がピンクだったが、PS5では色分けがなくなり、白を基調としたカラーリングに統一される。
このうち決定ボタンとキャンセルボタンを巡る混乱は、PS1から続いていたものだ。○と×はイエスとノーで赤と青。△は視点のメタファーであり、頭と方向を示すもので、緑。□は紙で、メニューや文書を示すものでピンクと、形と色に意味が込められていた。しかし欧米圏では×をチェック、○を空白の意味に捉えるのが一般的だ。これによりボタンの意味が反対になり、ローカライズで無駄なコストが発生していた。もっとも、色や形からどのような意味を読み取るかは、国や地域によって異なる。そのため、これを機会にボタンの意味を統一させたいと考えても、おかしくはないだろう。
背景にあるのはゲーム機市場の成長だ。現行機のXboxOneとPS4が発売された2013年、世界のゲーム機市場は280億ドル(約3兆240億円)で、全体の37%に及んだ(newzoo調べ)。これに対して2020年は28%に縮小するものの、ゲーム市場全体の成長に伴い、452億ドル(約4兆8816億円)に増加すると予測している。また、ゲーム市場は今後も成長を続け、2023年には2008億ドル(約21兆6864億円)に達する見込みだ。
一方でゲーム機の世代交替のスパンは緩やかになる傾向にある。かつては5年周期といわれたゲーム機の商品寿命も、PS3世代からは10年周期とみなされるようになった。PS3は2006年、PS4は2013年発売で、7年周期のように感じられるが、市場の重複期間があるからだ。これに対して2016年には4K表示を可能にしたハイエンドモデルのPS4 Proが発売され、より多様なユーザー層の需要を満たしている。この流れはXboxシリーズも同様で、同じように次世代ゲーム機でも数年後にハイエンドモデルが発売されることが予測される。
ポイントはゲーム市場の拡大に伴い、多様化するユーザーニーズに対して、両社がこれまでにない戦略で対応しようとしている点だ。もっとも、ここで考えたい点が三つある。第一にゲーム市場はどこまで成長するのか。第二に、なぜ人はゲームを遊ぶことを好むのか。そして第三に、ゲームとは何かということだ。そのためには、ゲームを俯瞰(ふかん)的にとらえる視点や考察が必要になる。ゲーム機の世代交替は、ゲームについて改めて考える好機だともいえるだろう。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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