バカリズム&井浦新:“ステイホーム”で変わらなかったこと、変わったこと… ドラマ「殺意の道程」でW主演

ドラマ「殺意の道程」で主演を務めるバカリズムさん(右)と井浦新さん
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ドラマ「殺意の道程」で主演を務めるバカリズムさん(右)と井浦新さん

 お笑い芸人のバカリズムさんが脚本を手掛け、俳優の井浦新さんとダブル主演するWOWOWオリジナルドラマ殺意の道程(みちのり)」(住田崇監督、全7話)が、11月9日からWOWOWプライムで放送される。井浦さんの名前を聞いたとき、ストーリーと「バチンとはまった」というバカリズムさんと、脚本のあまりの面白さに狙った演技をしたくなる気持ちを抑えることに「いちばんエネルギーを使った」と語る井浦さんに、脚本執筆の経緯や役作りについて聞いた。

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 ◇井浦新の名前に「正解見つかった」

 ドラマは、バカリズムさん演じる吾妻満と、井浦さん演じる窪田一馬といういとこ同士の2人が、一馬の父・貴樹(日野陽仁さん)を自殺に追いやった会社社長・室岡義之(鶴見辰吾さん)を殺そうと綿密な計画を立てていく様子が描かれる。2人に協力するキャバクラ嬢を、堀田真由さんと佐久間由衣さんが演じる。

 「実際にこういう完全犯罪を企てている人がいたら、24時間ずっとそのことばかりを考えているだろうか。割と全然関係ないことも考えていたりするのではないか」という発想から脚本を書き進めていったというバカリズムさん。一馬役に井浦さんの名前が挙がったのは、「終始シリアスなトーンで、ばかばかしいことをやりたい」という企画が持ち上がった時とほぼ同時だったという。元々井浦さんに対して、「難しい顔をして淡々と演技をしている」という印象を抱いていたバカリズムさんの中で、「バチンとはまった」。その時点では井浦さんにまだオファーしていなかったにもかかわらず、「正解が見つかったというか、勝手に(一馬は)井浦さんのつもりで脳内再生しながら(脚本を)書いていた」という。

 当の井浦さんは脚本を読んだとき、「とにかく面白くて、1ページ1ページ、どんどん読んでしまった」という。1998年の俳優デビュー以来、さまざまな作品に出演してきたが、コメディーに出演した経験は「数えるほどしかなかった」。それだけに、「自分がどこまで面白くなるように芝居を仕上げていけるのかと、とにかくやりがいを感じましたし、楽しみで仕方なかったです」と現場に入るのが待ち遠しかったという。

 ただ、コメディー慣れしていない分、苦労もしたと明かす。脚本を読んだ段階で、バカリズムさんや住田監督が自分に何を求めているかは察知できたといい、「面白くしようと思って狙っていっては失敗する。日常の当たり前の会話をし、当たり前のテンションでいなければいけない」と頭の中では理解していた。しかし、「なにせ(脚本が)面白いので、たまに欲が出てやってもいいかなと、テストとかでぽろっと(狙った演技を)やると、やっぱりだめなんです(笑い)。やりたい気持ちを抑えて、バカリズムさんが絞り出してきたせりふを言うのは苦労したところでもありましたし、普通でいなければいけないと抑えることにいちばんエネルギーを使いました」と苦笑交じりに明かす。

 ◇「省略されるところを膨らませる」

 「もともと細かい性格」で「ひねくれているところがある」と自己分析するバカリズムさん。そこに“芸人魂”が手伝い、普段ドラマを見ていても、「そんなこと普通ではありえないだろうとか、ここからすぐ次のシーンに移っているけれど、その間にこういうやり取りが現実だったらあるよね」と突っ込みを入れてしまうという。今回はそうした「普通のドラマでは省略されるところを多めに膨らませる」ことに注力した。

 実際本作は、第1話の「打ち合わせ」に始まり、完全犯罪を企て、それを実行するまでの過程がとにかく細かい。「占い」(第5話)という、計画に必要なのかと首を傾げるようなエピソードまである。

 もっとも「占い」はスタッフから、「部屋の中で、ただ占いをするだけのドラマはあまりないとびっくりされた」そうで、バカリズムさんは、「基本、このドラマに関してはそんなシーンや話はいっぱいありますけど、特にあそこは見逃しても(物語に)入れるぐらいの話です(笑い)。その無駄さが面白い。僕は好きな回ですね」と胸を張る。

 横で聞いていた井浦さんもうなずきながら、「あの回は、佐久間由衣さんが占いをしながら(話を)回していくのですけど、だいたいオチになるのが僕の役目で、僕自身は傷ついていなければいけない立場なので、笑いをこらえるのが本当に大変でした」と述懐する。

 ◇自粛期間中に直した脚本

 今年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、バカリズムさんは、5月に開催予定だった単独ライブの中止を余儀なくされた。バカリズムさんにとってライブは「本業中の本業」で、「これがあるからこそ、ほかのテレビに出演したり、脚本を書いたりできている、いわば確認作業」のような存在だという。

 それだけに、「中止が決まったときは肩の荷が下りた感じがして、すごく気持ちが楽になったんです。でも1カ月もすると、やっぱりやりたかったなと。いつもしんどいといいながらやっているライブですけど、ないと調子が狂うというか、いまいちしっくりきていない感覚は、ライブをやっていた年に比べてあります」と打ち明ける。

 4月から5月にかけての外出自粛期間中は、それまでも部屋にこもってネタや脚本を書いている時間があったことから、さほど変化は感じず、「現場は中止になるけど、締め切りだけは中止にならないなと思いながら、いまできることをやっていました」と話す。そして、「この『殺意の道程』の原稿直しも、まさにステイホーム期間中にやっていたので、それで結構いっぱいいっぱいだったから、あまり深いことを考える暇はなかったです」と振り返る。

 ◇「普通のおじさんになろう」

 一方、「まるまる2カ月間、芝居をしないことは、この十何年なかった」という井浦さんは、いろんなことが頭を駆け巡り、「そもそも俳優って何なのか、みたいなことを考えたりしました」と明かす。

 翻ってそれは「芝居を忘れられるチャンス」でもあった。実際、井浦さんは、自粛期間中、コロナの影響で苦境に立たされた全国のミニシアターを支援する「ミニシアターパーク」を俳優仲間と立ち上げている。「これまで芝居に費やしていた時間を、今まで後回しにしたり、置いてきてしまったりしていたことをゆっくり考える時間に使えたのは、僕にとってはプラスでした」と前向きに受け止めている。

 そして臨んだ今回の現場。井浦さんは、「今までは前の作品の栄養が、芝居には出さないけれど気持ち的な栄養になっていました。でも2カ月間、どうせ芝居をやっていないのだったら、今まで培ってきたものや芝居の感覚を全部忘れよう、普通のおじさんになろう、ぐらいの感覚で挑めました」と晴れやかに語る。もっともそのぶん、「すごく緊張しましたし、覚えたせりふがまったく出てこなかったらどうしようという不安もありました」と、デビュー作並みの緊張感も味わったと明かす。

 撮影は、7月から8月にかけて行われた。バカリズムさんは、「スタッフさんは相当大変だったと思います。みんなマスクをして、検温や換気といったコロナ対策をしながらだったので、通常の撮影より時間がかかっています」と感謝しつつ、「僕らも緊張感を持っていましたし、精神的な負担を感じながらやっていたのを覚えています」としみじみ語る。

 まさにコロナ禍をくぐり抜けてできた今回のドラマ。「一応、コメディーではあるのですけど、出発地点は父親の死で、2人が向かうところは人殺しなので、それがどういうふうに展開していくのかに注目していただけたら」とバカリズムさんがアピールすれば、演じることで「物語を体感した」井浦さんは、「おじさんたちの青春ドラマでもある」と指摘する。

 「ぱっとしない2人の男が、復讐(ふくしゅう)という殺人に向かっていきながらも再生されていく。今回バカリズムさんは、車中劇をかなり盛り込んでくださっていますけど、それによって男2人のロードムービーみたいにも見えると思います。サスペンスコメディーというくくりで、登場人物も極端に少ないですが、(物語は)ものすごい広がり方をするので楽しんで見ていただきたいです」とメッセージを送った。

 WOWOWオリジナルドラマ「殺意の道程」は、11月9日から毎週月曜深夜0時にWOWOWプライムで放送。全7話で、第1話は無料放送。第1話本編とビジュアルコメンタリーを番組公式サイトおよびWOWOW公式YouTubeで無料配信中。

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