魔女見習いをさがして:佐藤順一監督 どれみ世代に届けたい思い 「おジャ魔女どれみ」らしさとは?

「魔女見習いをさがして」の一場面(C)東映・東映アニメーション
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「魔女見習いをさがして」の一場面(C)東映・東映アニメーション

 人気アニメ「おジャ魔女どれみ」シリーズの20周年記念作品で、オリジナルスタッフが制作する劇場版アニメ「魔女見習いをさがして」が、11月13日に公開された。「おジャ魔女どれみ」の初代シリーズディレクターを務め、数々の子供向けアニメを手掛けてきた佐藤順一さん、今作がアニメ監督デビューとなる鎌谷悠さんが監督を務める。佐藤監督は「魔女見習いをさがして」を通して、「自分が子供の頃に好きだったものを認めてあげてほしい」「魔法があるかもしれないと信じた無垢(むく)だった頃の自分はちゃんと今のあなたの中にもいるということが伝われば」と考えたという。佐藤監督らスタッフが大事にした“どれみらしさ”、「おジャ魔女どれみ」の魅力とは……。

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 ◇“自分にとってのどれみ”を認めてあげられる作品に

 「魔女見習いをさがして」は、22歳の教員志望の大学生の長瀬ソラ、27歳の会社員の吉月ミレ、20歳のフリーターの川谷レイカが主人公で、子供の頃に「おジャ魔女どれみ」シリーズを見ていた3人が出会い、一緒に旅に出ることになる。女優の森川葵さんがソラ、松井玲奈さんがミレ、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の百田夏菜子さんがレイカをそれぞれ演じる。三浦翔平さん、石田彰さん、浜野謙太さんも声優として出演する。

 同作は、「おジャ魔女どれみ」シリーズの新作であり、子供の頃に「おジャ魔女どれみ」を見ていたどれみ世代の大人たちに向けた作品だ。当初、佐藤監督は、20周年記念の新作として「どれみたちが二十歳になった物語を想定していた」が、「それでは、どれみを知らなかった人への入り口は閉じてしまっているんじゃないか」と考えたという。

 「今回のターゲットの『おジャ魔女どれみ』を見ていた人が、どういうものが見たいのか、どういうものを作ればいいのかというのは、僕の中でも漠然としていたんです。最初のプロットでは、どれみたちが大きくなって、社会の中で頑張って生きている映画にしようと思ったのですが、それが本当にどれみ世代が見たいものなのかが分からなかった。それよりも角度を変えて、『どれみ』を見ていた世代の女性3人が主人公となった時点で、届けたい人にちゃんと届く映画になるなと思えました」

 佐藤監督は、「おジャ魔女どれみ」を見ていなかったとしても、子供の頃に好きだった「自分にとってのどれみのような存在があるはず」と話す。

 「子供の頃に魔法少女ものを見ていたり、アイドルもの、戦隊ものが好きだったり、『自分だったらこれだな』というものがある。『魔女見習いをさがして』は、その頃の自分をもう一度改めて認めてあげることができる映画になるんじゃないかと。そこから迷いがなくなりました」

 ◇つらいこともあるけれど… “どれみらしさ”とは?

 「おジャ魔女どれみ」シリーズでは、親の離婚に悩む子供や不登校などの問題を扱ってきた。「魔女見習いをさがして」でも、SNSで炎上した過去を持つキャラクター、親や恋人との関係で悩むキャラクターが登場する。シリアス、リアルな面も描かれている。佐藤監督は、シリアスなシーンを「どれぐらいリアルに描くか悩んだ」という。それを“どれみらしく”描くきっかけとなったのが、佐藤監督と共に「おジャ魔女どれみ」の初代シリーズディレクターを務めた五十嵐卓哉さんが手掛けた絵コンテだったという。

 「五十嵐さんが担当したのは、現実のソラ、ミレ、レイカのシーンなのですが、演出のテイストとしてはかなり『どれみ』的な笑いありの方向に絵コンテをあげてくれたんです。『あ、そうだな』と。このテイストでやることで、ややもすれば暗くなってもおかしくないものがカラっと料理できるなと。そこが『どれみ』のよさだったし、どれみらしさってそれかなと思いました」

 さらに、3人のヒロインが「どれみ」ゆかりの土地を旅するロードムービースタイルも「どれみらしさを出すのに有効なプロットだった」という。

 「『大変なこともあるけど、おいしいものでも食べに行こうか』みたいな(笑い)。そういう現実主義的なところが、コミカルな絵作りも相まってうまくいっている。いろいろなところでおいしいものを食べて、友達とワイワイやる楽しい要素が全編に敷かれて、その中でつらいことを自分の中で消化していく。『これがどれみだな』と思いながらやっていました」

 「おジャ魔女どれみ」「魔女見習いをさがして」はもちろん、佐藤監督が手掛ける作品は、重いテーマも自然と受け入れられる魅力がある。しかも、説明的な表現が多くないにも関わらず、理解できる。そこには、子供向けアニメを数多く手掛けてきた佐藤監督だからこそのこだわりがあった。

 「説明しすぎない作りが好きではあるのですが、3~5歳の子供たちに向けて作る時、それは通用しないので、必要なことはちゃんと分からせていくことも大事なんですね。今このエピソードを理解してもらうために説明しなければいけないことがあって、何をどうちゃんと説明するかは、『どれみ』に限らず、作品のターゲットによって違ってくる。それは常に気にしているところですね。子供向けアニメの場合、子供たちは敏感ですからね。こちらが思っていなかったことをちゃんと見ていたりするので、そこはなめてはいけない」

 ◇「夢みたいなことを思っていた自分」を否定しないでほしい

 「おジャ魔女どれみ」のテレビアニメ第1期が放送されてから約20年。佐藤監督は、イベントなどで今は大人になったファンたちに触れ、「自分でいうのもなんだけど、『どれみ』って大きい作品だったんだな」と感じているという。

 「当時もアニメーションの作り方としては、『魔法が使いたい』『魔法使いになりたい』と思ってもらうよりも、『どれみちゃんみたいな友達がいいな』『あのクラスに行きたい』と思ってもらえたらなということを常に気にして、考えながら作っていました。今もファンの人の中には、子供の頃に出会った大好きな友達みたいな感覚が残っているのかなと想像したりもします。『どれみ』は、魔法がたいしたことを解決しない作りにしていて、『自分で友達の気持ちを考えて何かしないとうまくいかないよ』という軸足はずっと変わっていない。それで頑張るどれみちゃんたちだから好きと思ってもらえたのではないでしょうか」

 アニメに夢中になった「子供の頃の自分を大切にしてほしい」と続ける。

 「『どれみ』を見て、楽しいと思ったり、魔法があるかもしれないと思ってたり、子供の頃は夢みたいなことを考えていたなと思うかもしれないのですが、『夢みたいなことを思っていた自分』を否定しないでほしいなと。その頃の自分があったから今がある。『魔女見習いをさがして』から、無垢だった頃の自分はちゃんと今のあなたの中にもいるということが伝わるといいなと思っています」

 佐藤監督の話を聞いていると、“魔法”にはいろいろな意味があるような気がしてくる。佐藤監督にとって魔法とは何なのだろう。

 「魔法って、信じる力だと思うんですよね。ないと思えば、当然ないんですけど、あるかもしれない。何か不思議な力といいましょうか。意外と世の中って、奇跡かもみたいなことが起こったりもしますからね。それを偶然と思うか、魔法かも?と思うか。信じる力によって、自分の中で魔法が存在するものになるというか。魔法があると思ったら、気持ちが明るくなるなら、あると思っちゃってもいいんじゃないのかな(笑い)」

 大人になったどれみ世代に向けて届けられる「魔女見習いをさがして」。佐藤監督ら「おジャ魔女どれみ」スタッフがどんな“魔法”を見せてくれるのか。劇場で感じたい。

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