PUI PUI モルカー:冬アニメのダークホース? “スピード感”と“奥深さ”でヒット

作品をチェックして自らも感想を発信しだすまでのサイクルが異様に素早いのを感じました
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作品をチェックして自らも感想を発信しだすまでのサイクルが異様に素早いのを感じました

 テレビ東京系の児童向け番組「きんだーてれび」で放送中の「PUI PUI モルカー」(毎週火曜午前7時半)。見里朝希さんが監督を務め、モルモットがクルマになった世界を舞台に、さまざまな出来事が巻き起こるストップモーションアニメで、SNSを中心に話題を集めている。放送前にはほとんど注目されなかった同作がどうして人気になっているのか。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。

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 「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」のような話題作は生まれるのかと、世間的にも新作アニメにますます注目が集まる中、今期のダークホースとして突如現れ、予想外の盛り上がりをみせているのが「PUI PUI モルカー」です。

 タイトルの“モルカー”とは、本作のメインキャラクターである“モルモットが車になった生きものたち”のこと。「PUI PUI モルカー」は、このモルカーのいる世界を舞台に、車に関するエピソードを中心とした事件や冒険、癒やしやアクションなどが、たった3分弱の間にぎゅっと凝縮されて描かれている、ストップモーションアニメ(1コマごとに実写のパペットなどを少しずつ動かして撮影し、動いているようにみせる作品)です。

 一見、キッズ・ファミリー層向けの作品かと思いきや、本作は今月初めの放送開始以降、大人のアニメファンを中心にSNSで話題となり、今ではなんと、その盛り上がりは海外にまで伝わっています。既に評判を耳にした人の中には、そのタイトルやビジュアルからはなかなか予想のできないこの盛り上がりに驚いている方も多いかもしれません。

 本作がこれほどまでに話題となっているのは、一体どうしてなのでしょうか。

 まず大きなポイントとなっているのは、思わず掘り下げて発信したくなる、SNSと相性の良いキャッチーな世界観だと思います。

 ちょっととぼけた顔が可愛いモルモットが、身近な車という乗り物になり、乗車する人間や動物たちと共に生きる世界……。このシンプルながらもインパクトがあり、自由度も高い世界観は、作品をみた人の想像をかき立て、「ここでのモルカーのリアクションの意味は…」といった本編の考察やモルモットを飼っている方々による解説、「もしこの車がモルカーになったら…」といった創作、はたまた別作品とモルカーとをクロスオーバーさせたファンアートまでをも生み、それらが実際にSNSで毎日発信され続けています。こうしてファンによる考察や創作物などが大量に発信され続けていることは、本作のタイトルやモルカーのビジュアルを広く拡散させる後押しになっているようです。

 また、そうした情報を目にして本作を新たに知った人が、1話完結の本編をたった3分弱で、気軽にYouTubeなどでチェックできる点も大きいと思います。実際に本作への反応を追っていると、人々がモルカーを知り、気にしだしてから、作品をチェックして自らも感想を発信しだすまでのサイクルが、通常の劇場版アニメやテレビアニメと比べても異様に素早いのを感じました。

 おそらくSNSで評判を聞いたらそのまま公式配信を視聴し、すぐにまたSNSで感想や考察、ファンアートを検索・発信しだす人も少なくないのでしょう。放送開始後、特に今月9日からの3連休以降、本作が極めて短時間で爆発的に視聴者層を広げているのには、こうしてネット上で評判を聞きつけた人がすぐに本編をチェックし、即そのムーブメントに参加していけるというスピード感もポイントとなっているようです。

 本作が今期SNS上で大いに話題となった背景には、こうしたSNS受けするキャッチーな世界観と、ショートアニメならではのスピード感で短期間のうちに作品情報と視聴者層が爆発的に広がっていったことが大きいと考えられます。

 ただ本作がそれ以上にすごいところは、そうしたネット上で急速に広まったムーブメントが、(少し乱暴な言い方をすると)単なる一過性の大喜利的な盛り上がりに終わらなかった点です。それには本作がSNSと相性の良いキャッチーな面白さだけにとどまらず、ずっと、何度もさまざまな角度から眺めたくなる“奥深さ”を併せ持つ作品だからだと思います。

 例えばそれは、モルカーたちの動きの面白さや何とも言えない表情、リアルなモルモット声といったずっと見ていても飽きないキャラクター性であったり、何度も見返して深読みしたくなるどこか底知れない物語や味のある音楽、コマ送りで再生しても楽しい、遊び心がちりばめられた映像などがそうです。可愛い見た目ながら大人にも刺さる数々のショートアニメを手掛けてきた見里朝希さんらによって丁寧に作られた本作からは、そうした多様な奥深さがにじみ出ており、たった3分弱ながらも、さまざまな角度から人々の印象に強く残り続ける作品になっているのでしょう。

 本作が、一過性の盛り上がりで終わるどころか、毎話放送される度に新鮮な驚きや発見を人々に提供し、ますます話題性が増してきているのも、そのためだと思います。今期全12話ということで、残り8話のエピソードが放送される本作。今後の作品展開やファンの盛り上がりからは、まだまだ目が離せなさそうです。

 ◇プロフィル
 こあらい・りょう 埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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