森川智之&甲斐田裕子:吹き替えの名手が語る極意 「バイオハザード」は「年齢感が肝」

「バイオハザード:インフィニット ダークネス」に出演する森川智之さん(左)と甲斐田裕子さん
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「バイオハザード:インフィニット ダークネス」に出演する森川智之さん(左)と甲斐田裕子さん

 カプコンの人気サバイバルホラーゲーム「バイオハザード」シリーズの新作フル3DCGアニメ「バイオハザード:インフィニット ダークネス」が、7月8日からNetflixで配信される。同作は、「バイオハザード」シリーズでは初となる全4話のシリーズアニメで、日本語吹き替え版では、森川智之さんが、人気キャラクターのレオン・S・ケネディ、甲斐田裕子さんが、レオンと共に死線をくぐり抜けてきた“戦友”クレア・レッドフィールドを演じる。さまざまな海外作品で人気キャラクターを演じてきた吹き替えの名手でもある二人に、新作アニメの魅力、吹き替えの極意を聞いた。

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 ◇“レオン”森川智之の段違いの格好よさ 戦友への思い

 --森川さん、甲斐田さんが演じるレオン、クレアは、1998年が舞台のゲーム「バイオハザード2」(1998年発売)から登場している人気キャラクターです。新作アニメの舞台は2006年のアメリカですが、台本を読んだ印象は?

 甲斐田さん 新作アニメが制作されると聞いて、レオンとクレアはどれぐらい絡むのかなと思っていたのですが、ゲームと一緒で交差する点は何カ所かあるけど、そんなにがっつりと一緒に行動という感じではなかったですね。お互いにそれぞれの道でゴールを目指す点はゲームと一緒で、よくできているなと思いました。

 森川さん 「バイオハザード2」では、バイオハザードの被害に遭ったラクーンシティを新人警官のレオンが訪れ、女子大生のクレアと出会う。そんな鮮烈な出会いを経て、相当な修羅場をかいくぐってきた二人ですからね。新作では久々に会っても、すぐにお互いのことが分かるというか、冗談も軽く言い合えるような、そんな感じがしますね。

 --新作では、革ジャン姿が多かったレオンが、ホワイトハウスのエージェントになりスーツ姿を披露していることも話題です。クレアには「スーツ、似合ってないわよ」と言われますが……。

 森川さん 似合っているんだけどね(笑い)。そう言ってくるのがいい関係ですよね。

 甲斐田さん ただ、どの作品でも隣に違う女性のパートナーがいるもんね。クレアじゃなくて(笑い)。だから、そういう関係じゃないんだなって。

 森川さん 戦友ですよね。あまり詳しくは話せませんが、今回の作品はとくに、二人の方向性というか、歩む道が明確に表現されているのかなと思いますね。

 --さまざまなシリーズ作品でクレア、レオンを演じてきましたが、お互いの演技の魅力は?

 甲斐田さん 実はこれまでも一緒に録(と)る機会はなくて、レオンを演じている森川さんの声を聞くのは、いつも完パケ(完成された映像)をもらった時なんですけど、レオンが登場した時の格好よさは、ほかの役者さんと比べても“だんち(段違い)”だなと思って。森川さん、マイク乗りがいいですよね(笑い)。ずるいなって思います。

 森川さん いやいや(笑い)。

 甲斐田さん やっぱり主役。思った通りの安定感と安心感あるなと。

 森川さん 甲斐田さんとは、ほかの作品でも共演が多くて、付き合いが長いので。勝手知ったるというか。

 甲斐田さん 家で台本を読んでいる時から(レオンのせりふは)森川さんの声が聞こえてました。

 森川さん 俺も聞こえてた。それはとってもいいことだよね。全く想像できないまま自分だけで家でリハーサルするのではなくて、常に声が聞こえてくる。

 ◇メンタルで年齢差を表現

 --さまざまな作品で吹き替えを担当されていますが、「バイオハザード」シリーズならではの演技の難しさは?

 森川さん 毎回描かれる時代、キャラクターの年代が肝というか。キャラクターの年齢感をどう捉えるか、スタッフの皆さんと一緒にすったもんだしながらやっています。基本的にレオンの正義感や信念の強さはぶれることなく演じているので、ゲームや作品を楽しんでくださっている皆さんが、すっと作品の世界に入れるように年齢感に気を付けています。

 甲斐田さん 私もそうですね。2008年に「ディジェネ」(初のフルCG長編作品「バイオハザード ディジェネレーション」)でクレアを演じたのですが、今回はその1年後が舞台なんです。1年後のクレアを13年後に演じることになったので、そこに合わせていくのに気を付けました。

 --森川さん、甲斐田さんが共演したゲーム「バイオハザード RE:2」(2019年発売)の舞台は1998年で、レオンは21歳、クレアは19歳。今回の新作の舞台は「RE:2」の8年後の2006年です。年齢差をどう表現しているのですか?

 森川さん 大事なのはメンタルですね。若いキャラクターを演じる時は経験値が少ないゆえの真っすぐさ、不器用さがせりふに表れればいいのかなと。この年齢でどこまで経験しているのか、どんなものの見方をしているのかを大事にして表現しています。メンタルを作り込む。

 甲斐田さん 若い時は呼吸が浅いとか、年齢を重ねると、おなかから安定した深い呼吸になるとか簡単な差別化はありますが、私も大事なのは気の持ちようだなと思います。

 森川さん いくら可愛い声を出しても、おじさん臭い考え方だと“おっさん子供”になっちゃう(笑い)。

 --若いメンタルを作り込むために意識していることは?

 甲斐田さん 自分の過去を思い出すというよりは、若い人を見る。子供を観察するとか、そういうことのほうが勉強になります。

 森川さん それが呼び水になるよね。自分の記憶は薄らいでいくので、いろいろなヒントになるようなものを見て、自分に置き換えた時に「あのころはどうだっただろう」と。観察したものが呼び水になっていいものが出てくるのかなと思います。

 ◇吹き替えは縁の下の力持ち 今も常に手探り

 --森川さん、甲斐田さんは「バイオハザード」シリーズはもちろん、ほかの海外作品でもさまざまな人気キャラクターの吹き替えを担当されています。二人が考える吹き替えの極意とは?

 森川さん 吹き替えは、作品を作るに当たっての一つのパーツというか、お手伝いだと思うんですよね。作品を生かすか殺すかを決める重要なパートだと思うので。字幕で見た時に感動した作品を、日本語吹き替え版でも同じように感動させられるように近付けなければいけないという思いがあります。作品をきちんと伝えなければいけないという思いがまずあって、演じるのはその先の話なんです。

 甲斐田さん 私も同じように吹き替えは、縁の下の力持ちだと思っています。重要ではあるけど、影の立場。洋画には字幕と吹き替えがありますが、本当はオリジナルの言語のまま作品を見るのがいいとは思うんですけど、そうはいかない時もある。だから、吹き替えは、海外の役者、監督が目指していることをくみ取って、音に乗せる作業なんです。正直、私は字幕のほうが面白いと思ってしまう作品もあります。そこを残念と思わせない「吹き替えも面白いね」「よくできているね」と言われるように日々努力しています。

 --キャリアを重ねるうちに、意識が変わってきた部分はありますか。

 甲斐田さん 私は幼いころに吹き替えの作品を見て「海外の役者さんは、本当に日本語が上手だ」と思っていたんです。それくらい自然だった。それと同じことをやりたいと思っていましたけど、最初のころは方法論が分からなくて。当時のディレクターやプロデューサーには「もっと役者の表情を見ろ」とかいろいろなことを言われて、それを自分なりに構築していってはいますが、今も作品ごとに手探りでやっています。年代、作品によって海外のスタッフの考え方も変わってくるので、求められるものの中で、自分ができる限りのことを探しています。

 森川さん いつの時代もそうですけど、方法論って、どこにも書いていないし、ディレクターさんや監督さんも言ってくれない。もちろんヒントはくれますが。僕も35年間、この仕事をやってきましたが、「こうやるんだよ」という方法論は一度も教わったことがない。自分で見つけるしかないんです。そのなかで、自分の理想に近付けることを常に考えながらやっていかなきゃいけない。多分死ぬまでそういう作業だと思います。

 「バイオハザード:インフィニット ダークネス」では、森川さん、甲斐田さんはもちろん、立木文彦さん、井上和彦さんら豪華声優陣が吹き替えを担当し、甲斐田さんは「そうそうたるメンバーで安定感がある」と自信を見せる。フル3DCGアニメの美しい映像、臨場感ある恐怖を味わいたい。

 「バイオハザード:インフィニット ダークネス」は、映画「海猿」シリーズ、「MOZU」シリーズなどの羽住英一郎さんが監督を務める。カプコンの小林裕幸プロデューサーが監修し、トムス・エンタテインメントが制作プロデュースする。劇場版アニメ「バイオハザード:ヴェンデッタ」で制作プロデューサーを務めた宮本佳さん率いるQuebicoが制作する。全4話。

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