“浅野真澄”名義で声優として活躍するあさのますみさんのエッセー「逝ってしまった君へ」(小学館)が発売された。2019年1月、あさのさんの大切な友人であり、初めての恋人でもあった“彼”が自死した。同書では、大切な人の自死、残された人々の思いをつづった。「君の話は外ではしない」。同書で、あさのさんは“彼”の死について、そう決めていたことを明かしている。仕事場でマイクの前に立った時、悲しみ、つらさを抑え込むようにしていた。それでも“君の話”を書いた。なぜ、書こうとしたのか? あさのさんに聞いた。
ウナギノボリ
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あさのさんは、「Go!プリンセスプリキュア」のキュアマーメイド/海藤みなみや「一騎当千」シリーズの孫策伯符などでも知られる人気声優。あさのさんはこれまでも作家として小説、エッセー、絵本などを発表してきた。ウェブサービス「note」で「逝ってしまった君へ」の基となるエッセーを発表した。
「頭の中でぐるぐるしているものを外に出さないと苦しい感覚があったんです。彼が亡くなったと最初に聞いた時、なんで言ってくれなかったんだろう? 私は打ち明けづらい人間だったのか? 何かできなかったのだろうか?と考えることが止まらなくなりました。彼を失ってから、常にそのことが頭にあって苦しかった。私と同じような気持ちの人、彼と同じような状況の人が読んでくれたら、ああそうなのか……と何か感じてくれるかもしれない。そんな気持ちがありました。同じような思いをしている人に『大丈夫だよ』と背中に手を添えることができればという思いがありました。人それぞれ状況も違うし、同じ言葉でも受け止め方も違います。誰かに押しつけたり、強い言葉では言えません。背中に手を添えるような言葉だったら、許されるかもしれない」
「note」でエッセーを発表すると、SNSなどで大きな反響があった。
「noteに書いた時は、近しい人から、私も鬱々とした気持ちを抱えていた、大切な人が亡くなったという話を聞くこともありました。私が仕事場でこのことを顔に出さないようにしていたように、いろいろな思いを抱えて生きている人がいた。人に話したりすることで、少しだけかもしれないけど、楽になるかもしれない。悲しみがなくなるわけではないけど、自分だけじゃないと感じることに意味があるのかもしれないと感じていました」
「元々、声優志望ではなく、編集志望だったんです」というあさのさん。読書は好きだったが、“書く”ことに積極的だったわけではない。
「子供の頃から本が好きで、読書は3歳くらいから唯一続いていることです。ほかのことは変わっても、それだけは変わりません。ただ、創作することは恐れ多いという気持ちもありました。作家さんやマンガ家さんがインタビューで、登場人物が勝手に動いたり、しゃべりだしたりする……と話すのを目にすることもありますが、私にはそんな経験はありませんし」
それでも、あさのさんは“書く”。その意味を「感情に名前を付けることで、輪郭がはっきりする。整理できるし、誰かに伝える時も伝えやすくなる。今回は特にそうですね」と語る。
“書く”ことで変化もあった。“彼”のことだけでなく、自身の家族、過去と向き合った。あさのさんは「誤解を恐れずに言ってしまうけど、君を失って、私はひとつ、大きなものを得ました。それは、自分を自分のままでいいと思える強さです」「この先にあるものを見に行こうと腹を決めました」とつづっている。
「重たいものを置いた。誰にも言っていなかったことも書きました。亡くなった彼は、私が生きづらかった時に『可能性があるんだよ!』と教えてくれました。彼が教えてくれたことを実践して、この先に何があるのかを見に行きたい。それが彼の思いに報いるとかそういうわけではないんですけど。社会人はある程度、心に負荷を掛けながら生きていくものと思ってきたのですが、負荷を積極的に取り除こうとするようになりました。難しいことです。でも、心を健やかにして、積極的に幸せになろうと考えるようになりました。半年前に所属していた事務所を辞めてフリーになりました。それも変化です。事務所がひどいところだったというわけではないですよ(笑い)。いいこともいっぱいありましたし」
自身のことを赤裸々につづったこともあり「個人的な経験だったので、客観的にどう見えるのだろう?」と不安もあった。発売されると、SNSに残された人、鬱に悩む人などの声が多く寄せられた。あさのさんが“書く”ことで、多くの人の心を動かした。
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