高橋李依:「かくしごと」 10歳少女役の挑戦 神谷浩史と“親子”のやり取り

「劇場編集版 かくしごと -ひめごとはなんですか-」に出演する高橋李依さん
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「劇場編集版 かくしごと -ひめごとはなんですか-」に出演する高橋李依さん

 「さよなら絶望先生」「かってに改蔵」などで知られる久米田康治さんのマンガが原作のアニメ「かくしごと」の劇場版「劇場編集版 かくしごと -ひめごとはなんですか-」(村野佑太監督)が7月9日に公開された。同作で、主人公・後藤可久士の娘で、10歳の少女・姫を演じたのが、人気声優の高橋李依さんだ。高橋さんは「10歳の姫を演じることは挑戦だった」と感じているといい、後藤可久士役の神谷浩史さんにアドバイスを受けることも多かったという。アフレコの様子、劇場編集版への思いを聞いた。

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 ◇子供の“小ささ”意識 あえていびつな音に

 「かくしごと」は、2015年12月~2020年7月に「月刊少年マガジン」(講談社)で連載された久米田さんのマンガ。ちょっと下品なマンガを描いているマンガ家の後藤可久士が、一人娘の姫にマンガ家であることがバレないようにしながら過ごす日常を描かれた。テレビアニメは、2020年4~6月に放送。劇場編集版は、姫目線でストーリーが進行し、テレビアニメでは描かれなかった“もう一つのラスト”が描かれる。

 高橋さんは、テレビシリーズをへて、劇場編集版の収録を終え、自身が演じた姫に対して「姫を見ていると、萌(も)えではない可愛さってこういうことだなって。自分の声帯を通して表現したキャラクターなので、姫を可愛いというのは少し恥ずかしいけど、可愛いものは可愛いし、すごく母性が湧きます」と語る。

 高橋さんにとって10歳の姫を演じることは「挑戦だった」という。動画などで子役の芝居を研究した上で、子供の身体的な特徴を意識した。

 「デビューしてすぐの頃に音響監督さんから、子供を演じる時は『肺の小ささを意識して』と教わったことが指針になっています。例えば、走るシーンは、大人の呼吸で深めのリズムで息を作ってしまいがちなんですけど、子供はもっと肺活量が少ないし、口も小さいし、声の大きさもそこまで出ない。“小ささ”を意識しながら演じました」

 その上で、子供ならではのしゃべり方にもこだわったという。

 「実際に話している子供を見た時に、大人は言葉の大事な部分を強調したり、スピードの強弱を付けたり、伝わりやすくする技術があると思うんですけど、子供にはまだその技術はないと思ったんです。しゃべり方が一本調子というか、急にそこで下がる?と思うようなこともあったり。演じる時も、せりふとしてちょっといびつな音の質感になったらいいなと、抑揚を減らすような作業だったと思います」

 ◇説明の付かない感情を表現 “父”神谷浩史がくれたヒント

 姫を演じる上で、高橋さんは村野佑太監督に「姫が何を考えているか分からないようにしたい」というディレクションを受けたという。テレビアニメは、毎話、姫が発した一言に父親の可久士が振り回され、ラストに“オチ”として姫の一言の真意が明かされるという構成で描かれていたため、「序盤の姫ちゃんの変な一言は変なままにしておかなくてはいけないというか、演出面での姫ちゃんという部分があった」と話す。“何を考えているか分からない姫”を表現する上で高橋さんは悩んだという。

 「それは、ただ見せたい姫でしかないから、姫は何を考えているんだろうと。お父さん(可久士)と同じぐらい悩みました。姫が怖かったり、楽しかったりするシーンで、なぜ怖いのか、なぜ楽しいのかという理由をぼかしてほしいと言われて、私自身が理由が分からなかったらぼかせないと思って」

 そんな時にアドバイスをしてくれたのが、可久士役の神谷さんだった。

 「神谷さんが『子供の感情には、説明できないものもあるよね』と。『子供の“なんかうれしい”“なんか楽しい”という感情に説明は必要?』と言われて、ハッと気付いたんです。姫の感情がどうしても分からない時は、ただ『なんか楽しい』で、理由はないんだと。『理由がない』ことの理由が見つけられたのは、すごくヒントになりました。神谷さんには、理論的に理論がないことを説明してくれて、すごく助けてもらいました」

 高橋さんは、神谷さんとの掛け合いで“親子”を感じることも多かったという。

 「スタジオでマイクを並べて収録している時に、私は必ず神谷さんの隣に入らせていただいていました。神谷さんは普段は左手で台本を持っているんですけど、私が神谷さんの右に入ったら必ず台本を右手に持ち替えてくれたんです。そばでしゃべっているようにマイク前でも掛け合ってくださって、すごく胸が温かくて……。親子の二人の空間というか、1対1の空間にしてくださっていました」

 神谷さんが演じる可久士の声の優しさにも「父親」を感じたといい、「私が娘らしくあろうとしたわけではなくて、お父さんがお父さんだから私が娘になれたみたいな感じが強かったです」と思いを語った。

 ◇演じたかった「ひめごと」 もう一つのラストを迎えられた喜び

 子供の身体的な特徴、しゃべり方、感情に寄り添い、姫を演じた高橋さんは「考え抜いただけ後悔はしていない」と力を込める。それだけに劇場編集版で“もう一つのラスト”を演じられることは「本当に幸せ」と話す。

 「テレビアニメですごくいい最終話を迎えられたという自負はあるのですが、久米田先生がまさか別のエンドを、新たな『ひめごと』という物語を持っていたなんて、あまりにも驚いてしまって。やりたい、演じたい!と思っていました」

 高橋さんは、劇場編集版のエンディングを見て、涙が止まらなかったという。

 「声で演じられた喜びももちろんあるんですけど、今回のエンディングは、音楽が流れることでより魅力が増すシーンなので、完成版を見て、曲が流れ出した時に涙が止まらなくて、本当にありがとうという思いでした。みんなの力が融合して、最後のあのシーンを迎えられて、本当に幸せでした」

 高橋さんが演じる姫は、とても可愛く、愛らしい。姫と可久士の親子の物語も、平凡な日常を描いているようで、とてもかけがえのないもののように思える。姫と可久士が迎える“もう一つのラスト”に注目だ。

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