映画やドラマの話題作で主演を務めるなど第一線で活躍を続ける俳優の菅田将暉さん。沢田研二さんとダブル主演を務めた映画「キネマの神様」(山田洋次監督、8月6日公開)では、家族にも見放された借金まみれのダメ男だが、映画を愛してやまない円山郷直(ゴウ)の若き日を演じている。現在28歳の菅田さんに、映画の撮影エピソードや当初ダブル主演を務める予定だった志村けんさんとの思い出、30代への展望などについて聞いた。
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映画「キネマの神様」は、小説家の原田マハさんの同名小説が原作。1920年に松竹の前身となる松竹キネマ合名社が設立され100周年を迎えることを記念して製作された。ギャンブル漬けで借金まみれのゴウ(沢田さん)が一つだけ愛してやまないものは「映画」だった。若き日のゴウ(菅田さん)は助監督として青春を謳歌(おうか)していたが、初監督作品「キネマの神様」の撮影初日に転落事故を起こし、作品は幻となってしまう。半世紀後の2020年、あの日の脚本が出てきたことで、止まっていた夢が再び動き始める……というストーリー。
映画の撮影所で働く助監督を演じている菅田さん。撮影では「まずは“助監督然”とすること」を意識したという。「助監督という存在は、僕らが一番接する人なんです。現場に入る時は『助監督、誰なんだろう』と一番気になるし、監督以上に密な人なんです。だから山田監督とも、“助監督”について話しました」と語る。
山田監督からは、助監督の頃の話を聞かせてもらったという。「助監督時代、現場でご一緒していた助監督の人が、ゴウのように才能豊かで面白い発想を持っていたそうです。でも、その人はゴウ同様、女性やお金、ギャンブルなどが原因でいなくなってしまったらしくて。そのエピソード自体『キネマの神様』のまんまなのですが、それを語っている時の山田監督の顔が印象的だったんです。すごい才能が具現化しなかった寂しさとあきらめの両方の感情が表れた顔をされていて……だから、僕が演じているゴウを見て、周りの人がこういう顔になってくれたらいいのかな、と思って演じていました」と振り返る。
また、菅田さんが特に気をつけていたのは、当時の空気感だったという。そのため、「改めて(小津安二郎監督の)『東京物語』(1953年)を見たり、山田監督がいっぱいくれた小津監督の資料をずっと眺めていたり、当時の写真を見たりして、現場に入りました」と明かす。
当初は、新型コロナウイルス感染症のため昨年3月に死去した志村けんさんが、現代パートのゴウを演じる予定だった。菅田さんは、志村さんに抱いていたイメージを「スーパーコメディアン」と表現し、「僕ら世代でさえ、“バカ殿”などでたくさん笑っていました。でもバラエティー出演時などでのふとしたときの志村さんは、すごく色気がありました。慕っている人もいっぱいいて、それこそ『ゴウそのもの』のよう。ゴウの“成功した版”というか、才能がちゃんと世の中の人に伝わった版、というイメージでした」と印象を語る。
今作の現場では、「一度、本読みのときにお会いしました」という。「その時の志村さんはすごく静かで、ジッと周りの空気を見ていて……。でも志村さんがポッと一言いうと、みんな大爆笑していました。たまたま誕生日が僕と1日違いなんですが、誕生日が近いときにお酒をプレゼントしたんです。その時にニコーッと笑ってくれて、『一緒にこれを飲みたいね』と言ってくれたのが最後でしたね」と思い出を振り返る。
今作では、映写技師としてゴウと共に撮影所で働く若き日のテラシンを演じるロックバンド「RADWIMPS(ラッドウィンプス)」の野田洋次郎さんと共演した。山田監督のハードルの高い要望に応える野田さんの姿は「新旧の達人同士が戦っている感じ」だったといい、「急に『ここで弾き語ってくれ』とか、山田さんの要望がハードルが高すぎて。テラシンの感情表現も山田さんが細かくつけていたんです。あの野田洋次郎が必死に食い下がって戦っている姿が、すごくすてきでした」と笑顔で語る。
そんな菅田さんと野田さんは、「RADWIMPS feat.菅田将暉」として映画の主題歌「うたかた歌」を担当している。主題歌は、過去パートを撮り終えたあと、野田さんから送られてきたという。「1番しかなかったけど、すごくすてきでした。その2、3カ月後に『じゃあ一緒に歌いましょう』となって。(ゴウとテラシンの)2人の視点が出てくるから、いつか歌いたいという気持ちはあったけど、主題歌になると聞いて、びっくりしました」と当時の心境を明かす。「でも、あのときは撮影が止まったりコロナがあったりで、野田さんの曲が来るまではみんな精神的にストップしていたんです。そんな中で曲を送ってくれて、そこから『キネマの神様』がまた動き出した気がしました。映画と同様、人と人とのつながりで物事が動いていくように感じて、(主題歌を歌うのを)断る選択肢はなかったです」としみじみと回顧する。
現在、28歳の菅田さん。今作でダブル主演を務め、これまでもさまざまな映画やドラマで主演を務めるなど順調にキャリアを積み上げてきた。充実の20代を過ごし、30代にはどのようなビジョンを描いているのだろうか。そのことを尋ねると、「1人で生きていける“社会人サバイバル力”のようなものが圧倒的に足りないので、そのあたりのことをちゃんとしないとなと思っています」という。
「僕は16歳からこの世界にいるので、例えばいろんな手続きとか、そういった社会性のようなものが(足りない)……。親や事務所に甘えていたので、生きていくために、最近はそのあたりのことをちゃんとしていかないとなと思っています。俳優どうこうという前に一人の人間として、ニュースを見ないとな、とか」といい、続けて、「自然にそういう目線になっていくんですかね。今までは朝起きてニュースとか見ていなかったけれど、見るようになりましたし。今、みんなが何を知りたいのか、何に困っているのかを知らないといけないし、知った上で『キネマの神様』などの作品に携わると、表現がやっぱり変わってくるんです。30代はそういうことが増えていくのかなと思います」と語る。
人間としての幅を広げた結果、作品にフィードバックされるように、演じた役が血肉となることもある。「せっかく、これだけいろんな人間の人生を演じているので、どうせなら身にならないともったいないよな、と思います。今までは、通り過ぎて、垂れ流しのようにやっていたから(笑い)。今は、これからは『自分の人生にこれは必要だな』というような選択もしていかないとな、と思っています」と先を見据えていた。
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