野間児童文学賞を受賞した柏葉幸子さんの小説を劇場版アニメ化した「岬のマヨイガ」(川面真也監督、公開中)。本作で、ある理由で家を出た主人公・ユイの声を演じているのが、女優の芦田愛菜さんだ。「自分にしか感じられない小さな幸せ」がたくさん感じられるという物語。自身と同じ17歳の女の子を演じた芦田さんにとって、小さな幸せとは……。また17歳という大人とも子どもとも言えない微妙な年齢を、自身はいまどのように捉えているのだろうか――。
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岩手県に伝わる、迷い込んだ人をもてなしてくれる伝説の家“マヨイガ”に、文字通り迷い込んできた主人公ユイ。複雑な事情を過去に抱えるユイは、やや影のある17歳の女の子だが、ショックで声を失ってしまった8歳の少女・ひより(粟野咲莉さん)や、マヨイガの主・キワさん(大竹しのぶさん)との出会いによって、気持ちが変化していく。
「ユイは過去につらい経験があったため、少し殻に閉じこもってしまっている部分がある女の子。でもひよりやキワさんと出会い、2人がありのままの自分を認めてくれて、優しく包み込んでくれたことで、少しずつ心がほぐれていくんです。その変化をしっかり表現できたらいいなと思って作品に臨みました」
一番大切にしたのは、一見そっけなく不愛想に感じるが、実は心優しく思いやりがある女の子という部分。内側に秘めたものを、にじみ出すような表現力が要求される。
「演技をするうえで、その優しさをストレートに表現するのではなく、そういった親切なことをすることが、どこか恥ずかしいような……素直に言葉や行動に出せない女の子という部分をしっかりと演じることを心掛けました」
子役時代から、その表現力は圧倒的で、数々のドラマや映画で名演技を披露してきた芦田さん。同じく声の芝居でも、これまでの作品で繊細な感情を巧みに積み重ねてきた。実写とアニメーションでは、アプローチ方法が違うのだろうか。
「私にとって声のお仕事も、普通のドラマや映画のお芝居も、特に大きくなにか違うことをするということはないんです」と話す芦田さん。「どちらもまず台本を読んで、演じる役の気持ちを考えるというプロセスは同じです。ただアニメの場合、すべてを音で表現しなければいけないので、特に息のお芝居は難しいです。例えば雑巾がけをするシーンでも、終わったあとの息遣いなどは、なかなかリアリティーを出すことが大変なんです。監督に相談すると『実際にやってみたら?』と言われたので、その場で雑巾がけをしてみたりしました。そういう部分では、改めて声だけで感情を表現することの難しさと楽しさの両方を経験できた作品でした」と語る。
演じたユイを、優しいながらも、その優しさを素直に表現できない不器用な女の子と解釈した芦田さん。現在の彼女と同じ17歳の女の子だが、自身との共通点については、「まさしくちょっと素直になれないところは似ています」とコメント。「私もなにか優しいことをするとき、恥ずかしいなと思ってしまうので、今回演じさせてもらっているとき、自分と似た感情を引っ張り出してきた感じはありました」と話す。
さらに17歳という年齢について、大人なのか、子どもなのか……どちらの感覚を持っているのか問うと、悩ましい顔を浮かべた芦田さん。
「どちらかというなら、やや大人よりなのかなとは思います。子どもだから……といって、なにか逃げられるような年齢ではないような気がするんですよね。でも、大人みたいにすごく責任を持って、いろいろなことを自分で決断していくには幼い気もするんです。それでも自分で判断しなければいけないことも多いし……でも、失敗しても今はまわりの方に教えていただけますし……」
話せば話すほど、17歳という年齢が微妙な時期であることが分かる。しかし、そんな年齢も「いまだからこそ!」と楽しんでいる自分もいるという。「いろいろ微妙な年齢ですが、都合よくどっちにもなれると割り切ってしまえば、意外と楽しいのかなと思います。子どもみたいに無邪気に友達とはしゃぐこともできますし(笑い)」。
芦田さんは、本作の魅力について「自分にしか感じられない小さな幸せがちりばめられている」と語る。いまの芦田さんにとって「身近にある小さな幸せ」とはどんなことなのだろうか。
「いまは友達と過ごす時間です。本当にくだらない話をして大笑いできることに、小さな幸せを感じています。特別すごいことがなくても、一日一回でも大笑いするような時間があれば、人は幸せになれるのかなと思うんです。特にいまはこんな世の中になってしまい、いままで普通にできていたことが難しくなってしまっていますからね」
家族ではない人たちが、ささやかな優しさに触れ、心温かい気持ちになるファンタジー作品。不思議な癒やしが、映画全体を覆っている。
「ありのままの自分を認めてもらえるということが、こんなにも心を穏やかにさせてくれるのか……ということが身にしみて感じる作品です。誰しも心が疲弊してしまうことはあると思いますが、そうした温かさや優しさに触れることで、少しずつでも前に進むことができる。私が演じたユイの変化を見て、共感していただければうれしいです」(取材・文・撮影:磯部正和)
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