ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
ウィル・スミスさんが主演を務めたNetflixのオリジナル実写作品「ブライト」(デヴィッド・エアー監督)のスピンオフアニメ「ブライト:サムライソウル」が、10月12日にNetflixで配信される。同作の監督を務めるのが、「四月は君の嘘」「サイダーのように言葉が湧き上がる」などのイシグロキョウヘイさんだ。「ブライト」は、人間とさまざまな種族が共存するロサンゼルスが舞台だが、アニメでは幕末から明治の日本を舞台に設定したことについてイシグロ監督は「日本で作る意味について意識しました」と語る。作品作りのこだわりを聞いた。
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自由を与えられることの方が多かったです。ウィル・スミスさん主演の「ブライト」という原作はあるにはあったのですが、大枠さえ原作とリンクしていれば好きに作っていいとのコメントも原作チームからいただいていたので、特に苦労はなかったです。それはNetflixさんの特徴なんじゃないかと思います。本当に今回自由を感じました。
僕がこの企画に参加することになったのと同時期くらいに、脚本の横手美智子さんとNetflixの桜井大樹プロデューサーの話し合いで決まったそうなので、実はそこには関与していないんです。Netflixさんは全世界に向けて作品を作っていますよね。その作品群は各国の各スタジオで作られている。ですので、この作品を日本で作る意味について意識しました。つまり、日本に住んでいて日本で生まれ育った僕たちが世界に向けて作る作品。そう考えると、日本の歴史をたどることに合点がいったんです。やりたいこととも近かったので、明治維新を扱うのは問題なく受け入れることができました。
日本は多民族と言えるほどの民族はいない国なので、アメリカを舞台にしている原作のニュアンスを参考にしました。人種差別、差別する側とされる側の皮膚感覚などは、正直僕は実感が湧かない部分があります。平和な国で生きてきたので。平川さん(ライデン役の平川大輔さん)がインタビューでおっしゃっていましたが、差別されることが当たり前の世界で生まれたライデンが、どういうマインドでそこを抜け出そう、打破しようとするのか、ちゃんと勉強しないといけないと思いました。黒人差別の歴史や分断などの問題が叫ばれて、危うい時代になっている部分がありますが、時事も含めて自分でも勉強して作品に落とし込めるようにしました。なるべく自然に、ニュアンスはつけたつもりです。
挑戦と言えるか分かりませんが、原作をリスペクトするという意味を踏まえて、ブライトという能力者とワンド、魔法の杖(つえ)がどういう能力なのか、アニメでは説明をほぼオミットしました。これも迷ったんですよ。いくらスピンオフとはいえ、ワンドとはなんぞや、ブライトとはなんぞやを深く知らないと、アニメから入る人たちが物語を理解できない可能性もあるので。でもそのあたりは原作の映画で一度描かれていますから、アニメでは説明を最小限にとどめて原作の映画に誘導しつつ、どちらかというとイゾウたちを含めたドラマの方にフォーカスをあてるシナリオにしました。これが正解だったかどうかは、世に出てからじゃないと分からないですね。でも、僕はアニメ監督を何年も経験して培った自分の感覚に従いました。
Netflixオリジナルの作品で僕が監督させてもらえるなら、好きなものを提示したかったんです。僕は10年ぐらい前からLITEのファンなのですが、LITEはマスロックというジャンル、昔で言うプログレ(プログレッシブロック)のバンドなんですね。この仕事のオファーをいただく前から、いつかマスロックをアクションアニメに使いたいと思ってたんです。間を作る音楽であるマスロックとアクションは絶対合うと確信していました。あとは、リーダーの武田信幸さんにも伝えたんですが、ギターの音が刀のつばぜり合いの音に似てるな、って感じてたんです。そういうインスピレーションがあったので、明治維新の侍を描くとなった時に「つばぜり合いある! これはLITEにオファーするのがいいんじゃないか?」と考えて桜井さんに提案したところ、オファー出しましょうと許可をいただけました。
アニメに限らず、映像作品で音楽、劇伴を発注するパターンがいくつかあるんですけど、例えばフィルムスコアがそうです。映像が全部出来上がった後に、それに合わせて場面ごとに作曲していくというのがフィルムスコアです。ハリウッドでは主流ですよね。アニメだと、シナリオをシーンの状況で分解して、例えばバトル1とか2とか、日常シーン1などにジャンル分けしてまとめた音楽メニュー表を作ることが多いです。これに合わせて作曲してもらうわけです。
今回は、彼らはバンドミュージシャンなので、劇伴の作り方には慣れていない。なので、イメージアルバム方式というのを採用しました。これはシナリオとかキャラクターデザインの絵をLITEの皆さんに見ていただいて、それにインスピレーションを受けた曲を映像に先駆けて作っていく、という方式です。デモ曲は全部で6曲くらい作ってもらいました。それを制作途中の映像にあてて、編集もして、また戻してリアレンジしてもらい、だんだん完成に近付ける、という流れです。すごくうまくいきましたね。フィルムスコアとメニュー表方式をミックスしたような作り方で、僕のやりたいこととLITEの音楽性が両立してて、とてもよかったです。
間を作れたところかな。さっきもお話しした通り、マスロックとアニメの融合が、僕なりに実現できたんですよ。今までは劇伴を間で切って映像を展開しようと試みてもなかなかうまくいきませんでした。それが今作では、イメージ通りに実現できたことがうれしかったです。もう一点は、映像に合わせてだんだん音楽のテンポが速くなっていく演出にもチャレンジできたことです。実は武田さんに発注する時に、だんだんテンポが速くなる曲を作ってくださいと伝えていて、オーダー通りに作ってもらっていたんです。その曲を、物語の状況がだんだんと悪い方向に向かっていくシーンに当てて、映像と音楽をリンクさせました。これも前々からやりたかった演出でした。こういう難しい音楽演出にも今回チャレンジできましたし、得るものが大きかったですね。
先ほど、日本で育った僕たちが作るものに作品の意義があるという話をしましたが、インスピレーション元がありまして、明治や大正時代に活躍した吉田博という版画家です。新版画と言われるジャンルの方で、西洋的な立体感のある構図を版画に落とし込んでいるのが特徴です。この吉田博調の美術を目指しました。背景のディテールやシルエットのバランスをとりながら版画調の美術に落とし込むイメージをつけて、スタッフに具現化してもらったんです。美術に関しては、僕はイメージを伝えただけで、(アニメを制作する)アレクトのスタッフたちが頑張って3Dに落とし込んでくれました。僕が関与しているのは最初の取っ掛かりだけですね。やりたいことは伝わっていて、彼らがああいう形に落とし込んでくれたことがとてもうれしかったです。
僕はよくスタッフに言っていたのですが、「スパイダーバース」(劇場版アニメ「スパイダーマン:スパイダーバース」)のスタッフが絶対に思いつかないようなルックにしたい、と。僕たちは日本で育って日本から世界に向けて、Netflixというプラットフォームを通じて作品を作るわけです。「スパイダーバース」のようなアメコミ調の作品はアメリカ人じゃないと作れないかもしれない。でも僕たちにはこんなにも豊かな歴史の積み重ねがあり、吉田博のようなすごい美術家が100年以上前にすでに存在した国で育って、だったら作れるのは僕らしかいないんだと。全体のルックも含めて今回の美術のコンセプトにつなげました。
そうですね。例えば序盤は京都が舞台なのですが、街全体を3Dで作っているんです。どこにカメラを振っても大丈夫なようになっている点に、アレクトのスタッフの根性を見ましたよね。それを生かせるようなシチュエーションをいくつか作りました。建物一つ一つの作り込みやルックの落とし込みの努力もあるのですが、街全体があるというのにまず感動して、アレクトは本当にすごいなと思いました。
遊郭の周辺で盗賊団に襲われるシーンなどですね。シチュエーションを考える時に、街の中でドローンを飛ばすような気持ちでどこにしようか選ぶことができたんです。仕上がった映像では、ピンポイントで裏路地しか写っていなかったりしますが、背後にあるものが全部作られているので仕上がりが明らかに違います。黒澤明監督みたいなものですよね。引き出しの中にも薬を全部入れている、というような。それと同じ感覚が遊郭周辺で襲われるシーンなどにありますね。奥の方の建物も全部あるので、それを感じてほしいです。息づく生活があるので。
今回、Netflixさんという大きなプラットフォームで自分の作品を発表することができました。全世界190カ国近くの皆さんに一斉に見ていただけるというのはなかなかできないことなので、やっぱり世界に向けた作品を作ったつもりです。ただ、作り方に関しては、日本という島国で生まれ育った自分たちを意識しました。世界中の人たちがこの作品を通して、日本、その文化、根付いてきたものを感じてもらい、イゾウたちがどうこの物語に決着をつけるかも含めて、日本を感じながら楽しんでいただけるとうれしいです。どうぞご覧ください。
「ブライト:サムライソウル」は、幕末から明治の日本が舞台。隻眼の浪人・イゾウ、怪物(オーク)のライデンが、エルフの少女・ソーニャをエルフの国に送り届けるため、東海道を旅する姿が描かれる。イシグロさんが監督を務め、「SHIROBAKO」などの横手さんが脚本、「カラフル」などの山形厚史さんがキャラクターデザインを担当する。「進撃の巨人 The Final Season」のキャラクターモデルなどを担当したアレクトが制作する。
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2024年11月22日 11:00時点
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