入野自由:作品の世界の“リアル”追求 「どれだけ寄り添えるか」 映画「DUNE/デューン 砂の惑星」インタビュー

映画「DUNE/デューン 砂の惑星」の日本語吹き替え版でポール・アトレイデス役を担当する入野自由さん
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映画「DUNE/デューン 砂の惑星」の日本語吹き替え版でポール・アトレイデス役を担当する入野自由さん

 フランク・ハーバートさんのSF小説が原作の映画「DUNE/デューン 砂の惑星」(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)が、10月15日に公開された。同作の日本語吹き替え版で、主人公のポール・アトレイデスを演じるのが、人気声優の入野自由さんだ。砂に覆われた惑星・デューンを舞台にポールの過酷な運命が描かれる本作について入野さんは「砂漠の中を歩く時の息づかいであったり、(ポールを演じる)ティモシー・シャラメの役への向き合い方であったりを想像して、どれだけ寄り添えるかを強く意識してアフレコに臨みました」とこだわりを語る。作品にかける思い、アニメと吹き替えのアフレコの違いについて聞いた。

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 ◇ティモシー・シャラメに向き合い、寄り添う

 映画は、伝説のSF小説と言われる1965年に発表された「デューン/砂の惑星」が原作。人類がさまざまな惑星に移住し宇宙帝国が築かれた世界を舞台に、未来が見える能力を持つアトレイデス家の後継者・ポールが過酷な運命を背負い、戦う姿が描かれる。アトレイデス家は、宇宙帝国の皇帝の命令で「この惑星を制する者が全宇宙を制する」と言われる砂の惑星“デューン”へ移住するが、そこで宿敵のハルコンネン家との戦いが勃発。父を殺されたポールは、全宇宙から命を狙われることになる。

 入野さんは、本作の印象を「まばたきしちゃいけないと思うほど、ストーリー、音楽、映像美に圧倒された」と語る。

 「想像以上の圧倒的な映像美でした。今できる最大の技術を駆使しつつも、ロケというアナログな方法で挑んだ生っぽさも感じられました。どこからどこまでがCGで本物なのかという境目も曖昧で、ぐっと引き込まれました」

 入野さんは、映画「君の名前で僕を呼んで」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」などでもティモシー・シャラメさんの吹き替えを担当してきた。「DUNE」では、「いかにティモシーが演じるポールに寄り添えるか」を大事にしたという。

 「膨大な時間をかけて作られた映画に対して、僕たちが吹き替えに臨む時間はすごく短い。限られた時間の中で、全部を想像して、ティモシーがどう役に向き合っていて、それに対して自分がどう向き合えるか。ティモシー自身も作品に対してリスペクトを持って臨んでいると思うので、そこを僕も大切したいと思って臨んでいます」

 ◇正解がある吹き替えの難しさ

 「DUNE」の吹き替え版は、映像を見て、原音と言われる海外の役者の音声を聞きながら収録した。入野さんは「吹き替えは正解が全部詰め込まれている段階での作業」といい、それゆえの難しさがあると感じているという。

 「英語と日本語では、強調する部分が結構違うんです。日本語ではここを強く言いたいけど、映像の役者の動きではそうなっていない。そこをどうバランスをとっていくかが吹き替えの難しさというか。アニメと吹き替えのアフレコが違うという意識はないのですが、アニメのほうが個人的には自由度が高い気がします。監督が求めている正解が全部詰め込まれているものに対して、日本語でどうアプローチするか。できる限り役者の口の形などを見て、いかに原音と同じものを拾っていくかという作業になります」

 “正解”に近付けていく上では、想像力が重要だという。

 「とくに『DUNE』は全てが最新のものだったり、新しいことに挑戦している作品なので、そこにどうついていくか、想像していくかがすごく難しかったですし、僕の中でも挑戦だったと思います。砂漠でのロケを想像しながら、歩く時の息はどうなのかと考えたり、ポールが激痛に耐えるシーンでは、どれぐらいの痛みなのだろう、どこからどんな声が出ているのかと、彼に合わせていくことを大事にしました」

 ◇本番では真っさらに 自然に出る感情を大事に

 入野さんは、吹き替えで原音に合わせることを意識する一方で「合わせることばかり考えて、正解の音を探し続けてしまうと、大事なところが抜けて落ちてしまうような気がする」とも語る。

 「事前にできる限りチェックをして準備し、本番前のテストでもう一度チェックをした後は、真っさらな状態にして自分から出たものを大切にしたい。それは、僕自身が舞台で培ってきた方法で、長い時間をかけて稽古(けいこ)して、その時の感情が自然に出てくるようにして、実際本番で舞台に立った時は真っさらな状態でいようと。最終的には自分の感覚を大事にしているのかもしれません」

 入野さんは、「DUNE」で演じたポールのように、さまざまな作品で等身大の青年を演じ、心の揺れや葛藤をリアルに表現してきた。声優だけでなく舞台などで俳優としても活躍する中で、「ここ10年ぐらいで『作品の中でのリアリティーとはなんなのか』を考えるべきだなと思うようになりました」と話す。

 「例えば、今話しているトーンが僕が生きている世界の中でのリアリティーだけど、映画の世界の中でこのトーンでしゃべることがリアリティーになるかというと、またそれは違うなと。だから、作品の中でのリアルがどこなのかをいつも考えながら演じています」

 作品、演じるキャラクターに真摯(しんし)に向き合う入野さん。改めて役者としての理想像を聞くと、「難しいですね。自分でもやればやるほど分からなくなってくる」と話す。

 「前はこんな作品に出たいという気持ちが強かったのですが、だんだん『こうしたい、ああしたい』という理想が難しいものになって、近付けば近付くほど遠くなっていくような感覚があります。ただ、役者は与えられて成り立つ仕事だと思うので、常に求められる存在でありたいなと思います」

 「DUNE/デューン 砂の惑星」では、声で人を意のままに動かす“ボイス”という特殊な能力が登場する。作品からは入野さんの“声の力”も感じられるはずだ。

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