女優の岸井ゆきのさんが主演を務める映画「やがて海へと届く」(中川龍太郎監督)が4月1日に公開された。突然消息を絶った親友の死を受け入れられずにいる主人公が、深い悲しみを抱えながらも前に踏み出そうとする姿を描く。主人公・湖谷真奈役の岸井さん、卯木すみれ役の浜辺美波さん、遠野敦役の杉野遥亮さんに、役作りや互いの印象、撮影エピソードを聞いた。
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映画は、彩瀬まるさんの同名小説が原作で、「わたしは光をにぎっている」「四月の永い夢」など、心の機微を丁寧に紡ぎ上げた作風で知られる中川監督の最新作。引っ込み思案で自分をうまく出せない真奈(岸井さん)は、自由奔放でミステリアスなすみれ(浜辺さん)と出会い親友になるが、ある日すみれは突然いなくなってしまう。それから5年、すみれの不在をいまだ受け入れられていない真奈は、すみれのかつての恋人・遠野(杉野さん)から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。そこには、真奈とすみれが過ごした時間と、知らなかった彼女の秘密が残されていた。真奈はもう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した地へと向かう……というストーリー。
引っ込み思案な性格で、思い出を抱えたまま親友の死を受け入れられない主人公の真奈。岸井さんは「(自分は)引っ込み思案なところはあまりないのですけど、抱え込んでしまう部分に関してはすごく似ている部分があった。それをベースに役を作っていきました」と明かす。
一方、浜辺さんは、自身が演じたすみれを、“見えている自分”と“実際の自分”が違う女の子だと解釈した。「端から見るとすごく意志が強くて、はっきりしている女性に見えますが、実際は何かをずっと探し続けていて迷いがあり、友人の真奈にはすごく憧れがある」と話す。
そんな“親友同士”の岸井さんと浜辺さんのシーンは仲の良さを感じさせるものが多い一方、岸井さんと“親友の元カレ”杉野さんのシーンは少し険悪なムードが漂い、「あなたのことが嫌いだった」というシーンも。
撮影時の様子を聞くと、杉野さんは「マンションでの撮影は、その後の真奈と遠野の関係値が一つ表れるところではあるなと思っていました。だからこそ、監督が求めるところまで近づきたいなという思いがありました」と当時の心境を打ち明ける。続けて、「でもその一言が強烈。その一言を言われるような関係値になれればいいなとは思いました。ただ(岸井さんと)特に相談というのはなかった」という。
岸井さんは杉野さんの言葉にうなずき、「真奈と遠野は言葉ではきっと通い合えないんでしょうね。私はあのシーンは、一方的な感情、せりふもそうですけど、ほかのシーンよりもより一方的な思いをぶつけたシーンだったと思います」と感慨深げに振り返る。
本作の見どころについて、浜辺さんは「押しつけがましさもなければ、『こう感じてほしい』という意識もなくて、作品に登場する人たちの心の落ち着き方が描かれているだけ。いろんな出会いと別れがある中で、みんなのことを肯定するような映画にもなっているのかなと思っています。日常に潜む感情をたくさん描き、その出来事の向き合い方の一つの幅になったら」とコメント。
杉野さんは「見る人に委ねられるものでもあるのかな。何を受け取るか、どの本質を自分が良いと思うかはそれぞれ。だから(映画を見た人に)逆に聞きたいくらい」と作品の“多様性”をアピールする。
岸井さんは「出会いと別れ、喪失が描かれていますが、親でも友人でも出会いがあれば必ず別れるじゃないですか」と切り出し、「そうなった時、その喪失のとらえ方は人それぞれで、真奈みたいにずっと抱えたまま抜け出せない人もいるし、一歩踏み出せる人もいる。とらえ方を決めつけないで生きたいと思って演じていました」と説明する。
続けて、「決めつけたことで真奈は苦しんでいるし、一歩踏み出した人に対して何か怒りを覚えたりしてしまう。別れや喪失に対して立体的に見えることを伝えたいし、見た人に対して『これはこうです』『こういう答えがあります』と差し出す映画じゃないので。うまく心に届けばいいなと思って作ってみました」と語っていた。(取材・文・撮影:遠藤政樹)
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