セントチヒロ・チッチ:刺激的だった女優経験 体当たりシーン挑戦も「覚悟は決めていた」

「BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK'N'ROLL」の「どこから来て、どこへ帰るの」で主演を務めるセントチヒロ・チッチさん
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「BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK'N'ROLL」の「どこから来て、どこへ帰るの」で主演を務めるセントチヒロ・チッチさん

 “楽器を持たないパンクバンド”「BiSH」のメンバーが主演を務めるオムニバス映画「BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK'N'ROLL」が6月10日から公開される。映画では6人の監督とタッグを組み、ドラマ作品からアート作品まで、作風の異なる6作品でメンバーそれぞれが主演を務めている。その中の1本である「どこから来て、どこへ帰るの」(行定勲監督)で主演を務め、体当たりなシーンにも挑戦しているセントチヒロ・チッチさんに、演じた思いや撮影エピソードなどを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇“間の取り方”に苦戦

 「どこから来て、どこへ帰るの」は、チッチさんが主演で行定監督とタッグを組んだ作品。チッチさん演じる植物や本が好きなチヨと、植物園で出会ったアキオの、許されない関係にある男女を描いた濃厚な文学的恋愛物語で、全編モノクロで描かれる。アキオ役で俳優の中島歩さんも出演している。

 もともと「お芝居をやりたい」という思いがあった、とチッチさん。今回の話を聞き「ずっとやりたかったので、一言で言うとうれしかったです。6人で、それぞれ全然違う監督と作るということがすごく面白い企画だと思いました」と喜びを明かす。

 演じるチヨは、植物や本を好む、文学的で物静かな女性。役柄は、もともとBiSHと距離が近い行定監督がチッチさん自身をイメージして作った部分もあるという。

 「私のパーソナルな部分……行定監督が思う『チッチはこういう子なんじゃないか』という要素も織り交ぜながら作ってくれた役で、自然体のチッチのままお芝居できるように作ってくださった脚本だったんです。だからすっと入りやすかった。すごく純粋で、植物が好き、本が好き、という文学的な一面もある女の子なので、『今どんなことを考えているのかな?』ということを考えながらお芝居するのが、難しかったけど楽しかったです。行定監督がすごく私の声を気に入ってくれていたので、いつも通りの声のトーンでやらせていただきました」

 そんな自身ともリンクするようなチヨ役だったが、映像での演技は初挑戦ゆえ、やはり苦労する部分もあった。特に「自然な間の取り方。普通に会話しているときは自然に間が生まれるんですけど、せりふがある中での会話は、間合いの取り方がすごく難しかったですね。不自然にならない表情や目の動きもすごく難しくて……」とチッチさん。事前の準備では、ほぼ2人芝居なので、相手のせりふも覚えるなど台本を頭にたたき込んだ。「プロフェッショナルな人たちとの仕事だから、迷惑かけないようにしなきゃ、とすごく集中していましたね。頑張ってせりふをたたき込んで、自然に自分の考えのように出てくるようにしなきゃ、と……」と語る。

 ◇大胆シーンに挑戦 「全然、苦ではない」

 今作は「許されない関係にある男女の恋愛物語」ゆえ、劇中ではチッチさんが体当たりでのぞんだ大胆シーンもある。撮影にのぞむにあたって抵抗はなかったのかと尋ねると、事前に行定監督から言われた言葉によって、覚悟は決めていたという。

 「脚本をいただく前から、行定監督から『僕はこの作品はセントチヒロ・チッチの第一歩だと思って挑戦するので、きっとこういうことになるから、覚悟しておいてください』と言われていたので、覚悟は決めていました。それで脚本をいただいて『なるほど』と思って……。でも、それは行定監督が課してくれたものだから、私も『全力で、体当たりでやってみよう』と。恥ずかしいとかいうこともなく、真剣に演じていました。私が恥ずかしがっていたら相手の方にも失礼なので。大胆なのは全然苦ではないし、恥ずかしくはなかったんですが、撮影が12月で寒かったのは覚えています(笑い)」

 そんなチッチさんが体当たりで演じた今作。撮影中、なぜか自然と涙が流れる瞬間もあったという。「人間の醜い部分、純粋な部分などがすごく繊細に描かれていて。汚いものがなぜか可愛く見えたり、美しく見える瞬間ってあるんじゃないかなと思っているんですが、それがこのモノクロの世界の中で、行定監督の世界観で描かれている。だからチヨという存在がすごくはかなく見えて、心が痛くなってきて……泣くシーンじゃないときに涙が出てくることもあって、すごく不思議でした」と振り返る。

 ◇ライブとは“真逆”だった女優経験 「刺激的だった」

 自身にも重なるような人物を繊細に、大胆に演じ切ったチッチさん。今回の撮影を経て、演じるという仕事に、より惹(ひ)かれることになった。

 「すごく貴重な体験でした。もともとは制作がしたくて学んでいて、演者側もやらなきゃいけないときがあったんですが、たくさんの人に触れて『面白いな』って思ったことがあったんです。お芝居で誰かになりきる世界も面白いな、と。誰かになりきることって、お芝居でしかほぼできないこと。ライブは、自分をどれだけみなさんにありのままで伝えるかが私の中では重要なんですが、それとは真逆。同じ『表現』ではあるけれど、違うものを自分が表現することはやっぱり見方も全然違って、刺激的でしたね。これからも、何か機会があればやってみたいなと、すごく意欲が湧きました」

 そう意気込むチッチさんが次に演じてみたいのは、「狂気的な人とか、自分ではありえない人」だといい、「そういう人になりきってみるのも面白そうだなって思います。猟奇的殺人鬼とか(笑い)」と楽しげに願望を語る。

 そんなチッチさんに、最後にこれからについて聞いてみた。BiSHが2023年をもって解散が決まっている中、チッチさんはそこへ向かって、どんなふうに走っていくのか。

 「今、目の前にあるものにどれだけ誠心誠意伝えられるか、真心を込めてできるかが、今のBiSHにとっては大事だと思っています。“限り”があるからこそ、先を見るのではなく、毎日、日々の一個一個を丁寧に、愛情を込めてやろうね、ということを、みんなで心がけていて。何かを変えていくというより、自分たちの『今のBiSH』をBiSHらしく。その中で進化していけばいいな、と。BiSHを愛してくれている人、これから愛してくれる人に、目いっぱい届ける、ということを大事に挑戦していきたいし、この映画みたいに、やってみなかったことにもどんどん挑戦していく時間にもしたいので、何も決めつけずにやれたらいいなって思っています」

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